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第一章【光と闇・そして崩壊】

煌闇のストーン

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   朝。差し込む光と、楽しそうな動物達の話し声で燕は目が覚ました────

   電車の中で寝る事にちょっとだけ抵抗はあったものの、いざ寝てみると、絶妙な硬さと、普段は出来ない贅沢なイスの使い方で、驚く程気持ちよく眠れた。
 これはくせになりそうである。

   燕に次いで、続々と目を覚ましていくカラクター達。

    近くに水飲み場があるらしく、四人は揃ってそこで朝の支度を済ませた。
    再び電車に戻って来ると、これからすぐにリーヤ村に戻ると知らさせていたカラクター達が、お別れの挨拶をしてくれた。

    燕がマスターである、というのもあるだろうが、滞在中とても良くしてくれたカラクター達には感謝の気持ちでいっぱいだ。
    そんなカラクター達に、手を振り見送られながら四人は帰路についた。
    ただ、心残りがあるとすればブラティポの事だろう────

   「結局ブラティポちゃん起きなかったね。もう帰るんだから、挨拶くらいしたかったんだけどな」
    「ブラティポはいつも寝てるよ!    でもヌーはブラティポのそういう所好きだよ!」
    「うふふっ、私も好きだよ。一緒だね!」

    並んで歩くヌーの足取りは軽い。スタート直後で疲れていないのか、元気いっぱいである。
    この小さな体でまた半日間も歩き続けると思うと、少し不憫な気もするが──

    ここから1キロほど歩いた所が意識の部屋である。
    帰りは二回目なので、燕の気持ちは幾らか楽だ。先に何があるか、どのくらい歩いたら次のチェックポイントに着くのか分かるだけでもだいぶ違う。

  ────と、  もうすぐ意識の部屋に着こうかといったところで、コチトラが急に足を止めて話し出した。

    「そんなに友達になりたきゃ、着いてくるだけじゃなくて、前に出て話したらどうだ?」
    「えっ、いや、そう……だよね……あはは」

    燕は、急にそんな事を言われたものだから、心臓が跳ねがった。
    自分なりには今日まで頑張ってきたつもりだったが、知らないうちにコチトラに気を使わせていたのだろうか──と。

   「いや、燕じゃねぇよ。後ろだよ、後ろ」
    「えっ?」

    燕が思わず振り返ると、大きな木の影から一人のカラクターが現れた。
    この世界では珍しい男性型のカラクターである。
    だが、この男は何かがおかしい。今まで会ったカラクターとはどこかが違う。服装も暗い色を基調としたローブ姿で、いかにも怪しい雰囲気を纏っている。

    燕は、周りの空気がどっしりと重くなったのを肌で感じた。

    それだけでは無い。
    さっきまであれだけはしゃいでいたヌーが、咄嗟にノイの後ろに隠れたように燕には見えた。


    「よりによってお前か、コルコーラ。なんでコソコソ着いてくる?」

    コチトラが彼を見てそう呼んだという事は、そういう事だろう。
    
    「コチトラに会いたくなってね」

    さっきまで隠れていたとは思えない程、今、コルコーラは堂々とコチトラと向き合っている。

    「なら隠れてないで正面から来いよ」
    「僕は嫌われ者だからね」
    「別に嫌ってはねぇよ」
    「そうだね、確かにコチトラは僕の事嫌ってないよね。あの時も助けてくれたもんね。でもね、世界はそう言ってないんだよ。いつだって僕らは阻害され、押し込められ、追いやられてきた」

    二人の話についていけない燕は、隣のノイに小声で事情を聞くと、ノイはコチトラ達に目を向けたまま静かに教えてくれた。

    「ゼルプストには大きく分けて二種類のカラクターが存在し、それらはカラクター・ストーンの光り方に影響されているんだ。
    私やコチトラが今持っているのは【煌光こうこう】のストーン。そしてコルコーラが持っているのは【煌闇こうあん】と呼ばれるタイプのストーンだ」
    「煌闇……?」
    「ダル、ダーク、グレイッシュとは違う。色が問題なのでは無く、闇そのものを放つ石の事だよ……」
 
    闇を放つと言われても、燕のにはよく理解できなかった。現実世界では、そういった物があると聞いたことがなかったからだ。
    そんな燕を見たコルコーラは、自分の服の中から、首から下げたカラクター・ストーンを取り出した。

    「本当に何も知らないんだね。じゃあ特別に見せてあげるよ。それで是非とも感想を聞いてみたいものだね」

   コルコーラの取り出したカラクター・ストーンは青い本体部分を中心に、確かにそこから闇が放たれていた。光同様、直視すれば目が眩むように、目が暗む。性質は光と似ているのかもしれない。

    「これが僕のストーン。カラクトカラーは【煌闇のセルリアンブルー】闇度は14。どうかな、マスター?」

    輝いている石は勿論だが、こうやって闇を放っている石も不思議な魅力がある。まるで足が勝手に前に出て、引き込まれそうである。

   「…………きれい…………」
   「なに……?」

    燕の呟いた一言に、コルコーラは驚いた。これまで同様、蔑ろにされるものだと思っていたからだ。

    「きれい、か。ふっ、ふふっ……流石マスターと言うだけはある。これは帰ったら、皆に報告しないとだな」

    笑いを堪えながら、コルコーラは上機嫌である。
    そんなコルコーラに対し、コチトラは話を戻すように話しかけた。

   「そんで、用は済んだのか?」
   「ん? ああ半分はね。マスターをこの目でしっかりと見ておきたかったのさ」
    「それだけなのか?   連れていこうだなんて考えてねぇだろうな?」
    「まさか。こんな、持って帰れる訳ないだろ?    今の僕達には手に余る」

   デリケートな言葉に、コチトラが自然と燕に目を向けると、やはりショックを受けている印象だった。

   「じゃあ用事の残りの半分はなんだ?」
   「迎えに来たのさ」
   「誰を……だよ」

   コルコーラは燕のことを連れてはいかないと、たった今明言している。

    「カラクトカラー【薄浅葱】」
    「なに!?」
    「光度は8」

    それはつまり────

    「ヌー、君だよ。一緒に僕達の村に来てくれないか?」

    燕はコルコーラの言っていることが分からなかった。ヌーはずっとリーヤ村で皆と暮らしていて、とっても仲良しで、皆もヌーの事が大好きで────

   コルコーラの言葉に、ヌーはさっきよりもノイの影に隠れ、その姿を隠してしまった。
   そんな姿を見た見た燕は、思わず一歩前に出た。

    「あのねコルコーラ、ヌーは今居る村が気に入っているの、お誘いは嬉しいと思うんだけど、今回は残念、という事で────」
    「マスターには聞いてないんですよ。これを決めるのは、ヌー自身なんです。本人の口から直接聞かなければ、私も納得できませんね」

    燕の言葉を押し退けるように、コルコーラはヌーに向けて話しかけ続ける。

   「ヌー、あなたは元々こちら側のカラクターでしょう?   
    あなたは昔、ミステリアスな事を言う素敵な方でした。でもそれが原因で笑われ、否定される事も多かった。ナイーブなあなたは酷く傷つき、それを隠すため、回避するために本当の自分を隠してきた。今のままで、本当にいいんですか? 」

    コルコーラの語りかけに応えるように、ヌーの体が少しづつ小さくなっていくのが分かる。
    もう小学生とは言えないまでに小さくなってしまった。

    「おいやめろッ、コルコーラ 」
    「何故、ですか?    私は提案しているだけです。選ぶのはヌー自身なのです。なにも問題は無いでしょう?」

    ノイに抱き抱えられたヌーは苦しそうだ。何かと戦っているように、うわ言を繰り返している。
    燕から見てもこれはただ事では無い。

    「ヌー、あなたが自分を隠してから何年が経ちましたか?   それ以来、あなたの光度は一度も上がったことはありません。
    ここに来る途中も、きっと皆の足を引っ張ったのではないですか?
    成長しない、何も出来ない、何もしない、何も考えられない。そんなものに、カラクターとしての存在価値があるのでしょうか?    言ってしまえば、それはカラクターでは無く────、 です」


    コルコーラの言葉にヌーは更に苦しそうだ。抱えるノイのかける言葉も、強いものへと変わっていった。

   「まずいよコチトラ!   【識煌変化しきこうへんか】が起き始めてる!    このままじゃ……!」
    「くそっ」

    コチトラはヌーの事はノイに任せて、まずはコルコーラを止めに行く。
    この現状の元凶は間違いなくここである。

    「【勇気の剣カレジスパーダ】ッ!!」
    
    光る緑色の剣でコルコーラを力ずくで制圧しにかかる。
    しかし、そう易々とはいかない。
    コチトラの放った一撃は、いつの間にかコルコーラの後ろに現れたカラクターによって防がれた。
    これはコルコーラの能力【心無い霊ハートレス・アニマ】。守護霊を具現化し戦わせる事が出来る力。

    「今のコチトラじゃあ、僕には勝てないよ。さぁヌー、一緒に行こう」

   コルコーラの呼び掛けに、ヌーは激しくうめき声を上げ応えている。

   「ぅぐぬ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ」
    「コチトラぁ!   ダメ、もうもたないッ!」

     ノイの手の中でヌーが暴れ始めている。

    「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙マ……ズダぁぁぁぁ」
  「────ッ!    燕!   ヌーに声をかけてあげて!   ヌーはマスターであるあなたの言葉を欲しがってるッ!    燕ぇ!   お願い!」

    ノイは咄嗟に燕に助けを求めた。マスターである燕ならば、この状況をなんとか出来るのではないだろうか──と。

    だがこの時、燕の心は別の事を思い出していた────

  「私、は…………」
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