しぇいく!

風浦らの

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第三章 【誓】

約束

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    土日を使って行われた新人戦が終わり、乃百合達は日常の生活を迎えていた。

    連日の激戦が祟ってか、乃百合の身体は非常に重かった。
    しかしそんな乃百合のテンションを上げる出来事がいきなりやってきた。

    学校に着きいつもの様に下駄箱を開けた乃百合が目にしたのは一枚の便箋。
 
    これは普通に考えたら──

    「ラ……ラブレターぁぁ!?」

    乃百合は便箋を取り出し、隣に居たブッケンに突きつけた。

    「えぇぇ……まさかぁ。こんなご時世にラブレターだなんて」
    「いやいやいや。土日は私達大活躍だったよね!?   きっとそれを見たファンの人が書いてくれたんだよ!    絶対そう!    どうしよう、どうしよう!    ブッケン!」

    興奮冷めやらぬ乃百合を他所に、隣で下駄箱を開けたブッケン。そしてその手には──

    「の、乃百合ちゃん……私も貰った……みたい」
    「えぇ……」
    
    そして更にその隣では──

    「あーっ!   和子も貰った!    ファンレターですね!   わぁい!」

    便箋を取り出し大喜びの和子。
    なんと三人纏めてラブレターを貰ってしまったのだ。

    「それにしてもとんだ浮気者だな」
    「同じ人とは限らないでしょ?」
    「いや、よく見てよブッケン!   これ、三枚とも同じ便箋だよ!」
    「ほ、本当だ……」

    更に更に、顔を見合わせた三人の元に大慌てで駆け寄ってきたの興屋まひると藤島桜。その手には全く同じ便箋が握られていた。

    「おいっお前ら、読んだか!?」
    「え?   あぁ、このラブレターですか?    まっひー先輩達も貰ったんですね」
    「バッカヤロウッ!   ラブレターじゃねぇ!」
    「えっ?」
    「とにかく読んでみろ、話はそれからだ」

    まひるに言われるがままに、三人はそれぞれ便箋から手紙を取り出し目を通した。

    そこに書かれていた内容に、三人は目を疑った。

    「う……嘘……」
    「こんな嘘ついてどうする?」
    「で……でも……」
    「全ての辻褄が合う。これは本当だ。受け入れろ」
    「そんな…………私、今から行ってきます!」

     誰よりも早く行動を起こしたのは乃百合だった。
    信じるしか無いが、あまりにも急過ぎる。
    
    いつも当たり前のように側にいた、憧れの先輩──

   海香先輩が転校するなんて────


    階段を駆け上り、二年生の教室へ向かう。

    二年C組。

    「ここだ!」

    上級生の教室だったがそんな事は関係ない。勢いよく扉を開け教室へと飛び込んだ。
    生徒達は何事かと、一斉に乃百合を注目する。

   「海香先輩ッ!!」

    その言動に察した生徒が、乃百合に話しかけた。

    「あれ?   卓球部の子だよね?   海香なら部室に行くって言ってたよ?    もうすぐホームルーム始めるのに、何やってるんだろうね」
    「えっあ、そっか部室!   あの、ありがとうございますッ!!」

    そうして再び飛び出して行き、一目散に部室へと駆け出した。

   ──海香先輩、海香先輩に会いたい──

    やってきた卓球部の部室の前。
    慣れ親しんだ筈の、部室の扉を開けるのが怖かった。
    やたらと重い、錆びついたドアを開けると、そこにはいつもと変わらぬ海香の姿があった。

    「海香……先輩」

    海香は部室に残された自分の荷物を整理していた。

   「もう来たかー。流石だねー」
   「茶化さないで下さい!」
   「まあまあ。そう言わないでよー。私だって寂しく無いわけじゃ無いんだよー。言いにくいからこそ、手紙という手法を使ったんだけどなー」

    確かにそうだと乃百合は自分の言動を恥じた。このシチュエーションで一番ショックなのは海香に違いないのだから。

   「おっ?    全員揃ったかなー?    まぁ座ってよー。少しだけ、話をしよう」

    乃百合に少し遅れて、他のメンバーも、部室へとやって来た。
    六人全員が部室に揃うと、海香は語り始めた。

    「書いた通りだよー。お母さんの体調が良くないんだー。結構ヤバイみたい。ほら、私って片親じゃん?    この辺に頼れる親戚も居ないんだよねー。だからさ、お爺ちゃん達が居る高知県に引っ越す事になったんだよねー。
    生活もあるし、お母さんのお世話もしなきゃだし、お金だってかかる。だから、これは仕方がない事なんだよー」

    「そんな……」

    寂しさから反論を口にしようとしたが、それ以上の言葉が出てこない。
    それ程までに今の状況は『仕方がない』事だった。

    「寂しいです……」
    「私も寂しいよー。すっごく寂しい。でもね、乃百合ちゃん。私はそこまで悲観してないんだー」
    「えっ……」
    「こんな事になってから、私には新しく夢ができたんだー。笑っちゃうよねー」
    「夢……ですか?」
    「そう。二つの大きな夢ができたの」

    乃百合達を前に、海香は自分の夢について語り出した。

   「一つは将来、卓球のプロになる事。お母さん、私が卓球やってるの大好きなんだって。だからさ、プロになった姿を見せて元気づけると同時にお金も稼いで楽させてあげたいなーって」
    「プロに……」

    「そしてもう一つ。こっちの夢の方が難しいかなー?」
    「プロになるより難しい夢ですか!?」
    「そう。これは一人じゃ叶えられない夢だから」

    乃百合達はどんな夢が飛び出すのかと顔を見合わせたが、そんな様子を見た海香が笑顔になってこう伝えてきた。

    「全国大会で念珠崎と戦って。勝つ!   そして優勝する!」

    ───────ッ

     「全国大会で……私達と、海香先輩が!?」
    「そうだよー!    全国大会で!    つまり、お互いに全国大会に出てこなきゃ叶わない夢。だから大変なんだけど、もしそれが叶うなら、こんなにワクワクする事はないよねー!    それこそプロになるよりハードルが高くて、叶ったら嬉しい最高の夢。こんな事になったからこその、私の夢なんだよー」

    全国大会────

    その言葉にまひるが笑い出すと、釣られて他のメンバーも笑い出す。

   「はーっはっはっは、そりゃ傑作だ!    いいねぇ!   全国大会で対戦かよ!    よっしゃ、その勝負乗ってやるぜ!」
    「ありがとう、まっひー」
    「ただなぁ海香、一つだけ勘違いしてねぇか?」
    「ええー?」
    「悪ぃけど、勝つのは俺達だッ!!」
  
    まひるの言葉に、他のメンバーは大きく頷いた。

    その後笑い合い、授業そっちのけで思い出話に花を咲かせた六人。楽しかった事も熱くなった事も、辛かった事も、皆で共有出来る思い出。


    その二日後、海香は高知県へと引越していった。

   大きな出来事を乗り越え、それぞれが交わした約束を胸に、また新たな一歩を踏み出し始める──


    なおその後行われた県大会では、海香、まひる共に抜けた事が響き見事に惨敗。そして、圧倒的な強さを見せた甘芽中が優勝を果たした。

    個人戦では決勝で鶴岡琴女と池花華がぶつかり、池花華が地区大会の借りを返した。念珠崎メンバーの中では、乃百合の県大会ベスト8が最高成績となった。


    第三章【誓】─完─

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