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第一章【挑】
合宿最終日
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■■■■
辛かった合宿も、最後の午後練習を残すのみとなった。
ここまで来ると流石に疲れを見せる者がチラホラ伺える。
和子はかなり参っている様子で、必死に自分の脚を揉んでマッサージをしており、ブッケンは暑さに参ったのか、膝に手をつき呼吸も荒く、滴る汗がその過酷さを物語っている。
そしてその中でも一番顔色が悪いのは乃百合だった──、
「アイス……五本……六百円……ああああッッ」
乃百合はまひるとの勝負に敗れ続けアイスを五本奢るハメになっていた。残りのお小遣いを考えると、嫌でも顔色が悪くなる。
「お、おい乃百合……そんなに無理しなくていいんだからな。俺、別に奢って欲しくて勝負してた訳じゃないし……」
「それじゃあ私の気が治まらないんですよ!」
「お、おお……熱いな……じゃあさ、アイスの代わりに大会で活躍してくれ。それでチャラにしてやるよ」
「……本当ですか!? まっひー先輩……マジ天使! 鬼から天使に変身しました!」
「鬼ってお前な……」
■■■■
残す練習メニューはあと一つ。
この【フリートーク】を行えば、長かった合宿も終わりを迎える。
フリートークは、部員達にとって初めての事だった。
一日目は卓球について話し合った。
テクニックの事や、疑問点、抑えておきたい相手選手、効率良い練習方法等、数多くの話題が上がった。
二日目になると、皆慣れてきたのか、好きな男の子の話、アーティスト、そして将来の夢について語り合った。
和子は将来アイドルになりたいらしい。
築山文は看護士、翔子は実家のお店を継ぐ。
まひるはインストラクターだ。
中でも話題をさらったのが大山朱美だった。
事の発端は、ブッケンが放ったこの一言。
「大山先輩って、こう見えて魔法少女になりたいらしいですよ。可愛いですよね!」
大山は顔を真っ赤にして、子供の頃の話だからととりつくろったが、ここぞとばかりに周りの子達に弄られた。
これまで大山先輩は堅物で知られて居たが、前の事件がきっかけで、ブッケンと親しくなり次第にその物腰が柔らかくなっていた。
──そして最終日のフリートーク──
部長の提案で、締めのバーベキューがてら外でやろうという話になっていた。
都合のいい事に、この日は夜風が気持ちいい穏やかな気温だった。
バーベキューに火を起こしながら築山文は仕切りを始める。
「さあ。最後のフリートークよ。これが終われば辛かった合宿も終わり。後は大会を残すのみよ。皆、今日まで本当にありがとう」
この次の大会が終われば三年生は引退。
一年生は僅か四ヶ月程度の付き合いだが、どの先輩もかけがえのない、代わりの効かない先輩達だ。
「私は小学四年生の時から卓球を始めてね。今年が六年目なんだけど、卓球は中学で辞めようと思っているの。だから悔いの残らないように全力を出し切るつもり」
「部長、卓球辞めちゃうんですか?」
「うん。私って皆が思ってる程優秀じゃないから。看護師になる為に、勉強一本でやっていきたいんだ」
一同はなんと声をかけたらいいのか分からず、思わず口をつぐんだが、副部長の翔子がしんみりさせまいと口を挟んだ。
「私も卓球性活三年間の集大成を見せるよ! 文と共に過した、この三年間全て出し切って結果で応えてみせるから!」
「えっ、翔子先輩って中学から卓球始めたんですか!? 私と一緒……それであんなに上手になれるんですね」
思わず和子が反応すると、フリートークは卓球歴から、卓球を始めたきっかけにまで話が膨らんだ。
「まっひーは確か小学三年生からだったよね? なんで卓球始めたの?」
「あー。うちは兄貴が卓球やっててその影響で。なんかこう当時はカッコよく見えたらしくて、俺にもやらせろーってうるさかったらしいっすよ」
いかにもまひるらしいエピソードに、一同は大いに笑った。
「ブッケンは?」
「え、私ですか? 私は四年生の時に乃百合ちゃんに誘われて、それで……」
「へー。じゃあ乃百合は? なんで卓球始めたの?」
「私はお母さんに地元の公民館に連れていってもらった時、そこで卓球大会があって。その時始めて見たピンポン玉が、弾む度にお喋りしてるように見えて、なんか可愛いなって。それで始めました」
「なんだそれ」
まひるは笑ったが、バーベキューのお肉を焼いていた海香がまた違った反応を示した。
「でも私、それちょっと分かるかもー。卓球でラリーしてる時、なんかこう──、会話してなくても相手の事がわかる時があるんだー。それってちょっとピンポン玉がお喋りしてる感覚に似てるかも」
海香の一言に、意外にもその場に居た者達が「私も!」と、次々同調し始めた。
ピンポン玉を介して、この子達は沢山のコミュニケーションを取ってきた。
「そう考えると、私達、いっぱいお話してきたね」
「うん。したね」
「喧嘩もしたよね」
「うん。した」
「練習、頑張ったよね」
「うん」
「絶対、県大会行こうね」
部長の最後の問いかけには、全員が声を揃えて「もちろん!」と答えた。
田舎の夜空の下、
念中卓球部は誓い合った。
■■■■
最後のフリートークが終わると、バーベキューが待っていた。
外で仲間と食べるお肉は、いつか食べた高級焼肉よりも美味しかった。
最後に乃百合とまひるがどっちが多く食べれるか競争していたが、結局乃百合の完敗で幕を下ろした。
楽しい時間もあっという間に過ぎ、そろそろ解散かと思われた頃、顧問の先生が皆を集めだした。
その手には一枚の紙が握られている。
「よーし。皆、合宿お疲れ様ー。よく頑張った。後は三日後の大会に備えて、各自体調を整えておくよーに。で、だ。ついに決まったぞ!」
「先生、決まったってなんですか?」
先生は高らかに持っていた紙を掲げた。
「お待ちかねの、地区大会の組み合わせが決まりましたッ!」
「おおおーっ」
我先にと先生の手元に群がる子供達だったが、その内容を見た者からは、順に悲鳴に似た絶叫が響き渡った。
「一回戦の相手が『甘芽中』ゥゥッ!?」
辛かった合宿も、最後の午後練習を残すのみとなった。
ここまで来ると流石に疲れを見せる者がチラホラ伺える。
和子はかなり参っている様子で、必死に自分の脚を揉んでマッサージをしており、ブッケンは暑さに参ったのか、膝に手をつき呼吸も荒く、滴る汗がその過酷さを物語っている。
そしてその中でも一番顔色が悪いのは乃百合だった──、
「アイス……五本……六百円……ああああッッ」
乃百合はまひるとの勝負に敗れ続けアイスを五本奢るハメになっていた。残りのお小遣いを考えると、嫌でも顔色が悪くなる。
「お、おい乃百合……そんなに無理しなくていいんだからな。俺、別に奢って欲しくて勝負してた訳じゃないし……」
「それじゃあ私の気が治まらないんですよ!」
「お、おお……熱いな……じゃあさ、アイスの代わりに大会で活躍してくれ。それでチャラにしてやるよ」
「……本当ですか!? まっひー先輩……マジ天使! 鬼から天使に変身しました!」
「鬼ってお前な……」
■■■■
残す練習メニューはあと一つ。
この【フリートーク】を行えば、長かった合宿も終わりを迎える。
フリートークは、部員達にとって初めての事だった。
一日目は卓球について話し合った。
テクニックの事や、疑問点、抑えておきたい相手選手、効率良い練習方法等、数多くの話題が上がった。
二日目になると、皆慣れてきたのか、好きな男の子の話、アーティスト、そして将来の夢について語り合った。
和子は将来アイドルになりたいらしい。
築山文は看護士、翔子は実家のお店を継ぐ。
まひるはインストラクターだ。
中でも話題をさらったのが大山朱美だった。
事の発端は、ブッケンが放ったこの一言。
「大山先輩って、こう見えて魔法少女になりたいらしいですよ。可愛いですよね!」
大山は顔を真っ赤にして、子供の頃の話だからととりつくろったが、ここぞとばかりに周りの子達に弄られた。
これまで大山先輩は堅物で知られて居たが、前の事件がきっかけで、ブッケンと親しくなり次第にその物腰が柔らかくなっていた。
──そして最終日のフリートーク──
部長の提案で、締めのバーベキューがてら外でやろうという話になっていた。
都合のいい事に、この日は夜風が気持ちいい穏やかな気温だった。
バーベキューに火を起こしながら築山文は仕切りを始める。
「さあ。最後のフリートークよ。これが終われば辛かった合宿も終わり。後は大会を残すのみよ。皆、今日まで本当にありがとう」
この次の大会が終われば三年生は引退。
一年生は僅か四ヶ月程度の付き合いだが、どの先輩もかけがえのない、代わりの効かない先輩達だ。
「私は小学四年生の時から卓球を始めてね。今年が六年目なんだけど、卓球は中学で辞めようと思っているの。だから悔いの残らないように全力を出し切るつもり」
「部長、卓球辞めちゃうんですか?」
「うん。私って皆が思ってる程優秀じゃないから。看護師になる為に、勉強一本でやっていきたいんだ」
一同はなんと声をかけたらいいのか分からず、思わず口をつぐんだが、副部長の翔子がしんみりさせまいと口を挟んだ。
「私も卓球性活三年間の集大成を見せるよ! 文と共に過した、この三年間全て出し切って結果で応えてみせるから!」
「えっ、翔子先輩って中学から卓球始めたんですか!? 私と一緒……それであんなに上手になれるんですね」
思わず和子が反応すると、フリートークは卓球歴から、卓球を始めたきっかけにまで話が膨らんだ。
「まっひーは確か小学三年生からだったよね? なんで卓球始めたの?」
「あー。うちは兄貴が卓球やっててその影響で。なんかこう当時はカッコよく見えたらしくて、俺にもやらせろーってうるさかったらしいっすよ」
いかにもまひるらしいエピソードに、一同は大いに笑った。
「ブッケンは?」
「え、私ですか? 私は四年生の時に乃百合ちゃんに誘われて、それで……」
「へー。じゃあ乃百合は? なんで卓球始めたの?」
「私はお母さんに地元の公民館に連れていってもらった時、そこで卓球大会があって。その時始めて見たピンポン玉が、弾む度にお喋りしてるように見えて、なんか可愛いなって。それで始めました」
「なんだそれ」
まひるは笑ったが、バーベキューのお肉を焼いていた海香がまた違った反応を示した。
「でも私、それちょっと分かるかもー。卓球でラリーしてる時、なんかこう──、会話してなくても相手の事がわかる時があるんだー。それってちょっとピンポン玉がお喋りしてる感覚に似てるかも」
海香の一言に、意外にもその場に居た者達が「私も!」と、次々同調し始めた。
ピンポン玉を介して、この子達は沢山のコミュニケーションを取ってきた。
「そう考えると、私達、いっぱいお話してきたね」
「うん。したね」
「喧嘩もしたよね」
「うん。した」
「練習、頑張ったよね」
「うん」
「絶対、県大会行こうね」
部長の最後の問いかけには、全員が声を揃えて「もちろん!」と答えた。
田舎の夜空の下、
念中卓球部は誓い合った。
■■■■
最後のフリートークが終わると、バーベキューが待っていた。
外で仲間と食べるお肉は、いつか食べた高級焼肉よりも美味しかった。
最後に乃百合とまひるがどっちが多く食べれるか競争していたが、結局乃百合の完敗で幕を下ろした。
楽しい時間もあっという間に過ぎ、そろそろ解散かと思われた頃、顧問の先生が皆を集めだした。
その手には一枚の紙が握られている。
「よーし。皆、合宿お疲れ様ー。よく頑張った。後は三日後の大会に備えて、各自体調を整えておくよーに。で、だ。ついに決まったぞ!」
「先生、決まったってなんですか?」
先生は高らかに持っていた紙を掲げた。
「お待ちかねの、地区大会の組み合わせが決まりましたッ!」
「おおおーっ」
我先にと先生の手元に群がる子供達だったが、その内容を見た者からは、順に悲鳴に似た絶叫が響き渡った。
「一回戦の相手が『甘芽中』ゥゥッ!?」
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