しぇいく!

風浦らの

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第一章【挑】

レギュラー選抜大会

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    ■■■■

   ── 全国卓球選手権地区予選まであと一ヶ月──

   この日女子卓球部は、顧問の先生からある提案を受けていた。

    「今日は皆に話がある。実は三年生の中から、もう一度レギュラーメンバーを選定し直して欲しいと申し入れがあった。三年生は今年で最後の大会である事も分かっている。実力を見込んで選定したつもりだったが、その熱意に応えてもう一度全ての人間に平等にチャンスを与えようと思う」

    顧問の先生の発言に、一様にざわつき始めた部員達。だが乃百合は密かにガッツポーズをしていた。こんなチャンスはもう来ない。これを逃せば新人戦まで大会は無いからだ。それに、一年生ながらにレギュラーを取る。その事にこそ価値があると言うものだ。

    「よって今回は実戦形式で選定しようと思う。実践で強いものがレギュラー。これ以上わかり易い選び方は無い。異論は認めない。これから直ぐに三つのグループに別れてリーグ戦をやってもらう。その結果、上位二名がレギュラーだ。わかったか?」
    「あの、先生」
    「なんだ?」
    「リーグの割り振りはどうするんですか?」
    「そうだな。強い者が固まったら意味が無いからな。とりあえず現レギュラーは均等に二人づつ分けて、残りは私の独断で実力を判断し、バランスよく割り振ることにしている。他に質問は無いか?」

    ざわつきが治まらない部員達だったが、その目は明らかに輝いていた。皆卓球が大好きで、真剣勝負に飢えているのだ。勿論、乃百合とブッケンも例外ではない。

    「乃百合ちゃん」
    「ブッケン!」

    二人は互いの健闘を祈り、軽くラケットを合わせた。

    ■■■■

    「よーし、グループ分けが出来たぞー。それぞれ自分の名前がある卓球台に集合して、それぞれ総当りで試合をしてくれ。勝敗が一緒だった場合は、失点数の少ない方を勝ちとするから、一点でも無駄にするなよ」

    顧問の先生がホワイトボードにグループ表を張り出した。
    A、B、Cと三つに分けられたグループには、それぞれ四人ずつの名前が書かれており、ブッケンはAグループで、乃百合はBグループだった。

    「うわっ乃百合ちゃん、海香うみか先輩と同じだね」
    「そういうブッケンだって部長のグループじゃん。どっち道、レギュラーメンバーを倒さなければ納得出来ない訳だし、どのグループも先生が言うようにバランスがいいよ。頑張るしかないよね」
   「うん!   私達、毎日頑張ってきたもんね。絶対、一緒にレギュラーになろうね!」

    そうは言っても、乃百合の入ったBグループはレベルが高い。三年生でレギュラーを張る児島南こじまみなみ、一年生だが経験者の田中深月たなかみつき。そしてなんと言っても、一年生の時からずっとレギュラーメンバーに入ってきた原海香はらうみかが居る。
    海香の卓球はこの学校では群を抜いており、乃百合は練習ですらまとなにやり合えたことが無く、不動のエースと呼ばれている。

    「皆グループに別れたなー、じゃあ始めてー」

    顧問の先生が見守る中、いよいよレギュラー選抜グループリーグが始まった。

    ■■■■

    乃百合の初戦の相手は海香だった。

    「あぁぁぁ、いきなり海香先輩ですか」
    「お、乃百合ちゃーん。手加減しないからね~、うっしっしー」

    今にもイタズラしそうな程あどけない笑顔を覗かせた海香は、先輩と言っても乃百合と一つしか違わずまだまだ子供だ。が──、
 
    その実力は本物。

    【0-3】
    【1-5】
    【2-8】

    乃百合はドライブ主体で攻めてくる海香に対して手も足も出なかった。鋭く回転のかかったボールをなんとか返すも、浮き上がりチャンスボールとなってしまうボールをスマッシュで撃ち抜かれ続け、点差は開く一方だ。
    そしてなんと言っても海香の得意とするカーブドライブは、乃百合が見たことも無い角度で曲がって見せた。

    「つ、強い……先輩は今まで会った中で一番強いです」
    「嬉しいけど、煽てても手加減しないからねー。そう言えば乃百合ちゃんも随分上手くなったよね。一ヶ月前は触れる事も出来なかったボールもあったのにー」
    「そりゃ毎日努力してますから。『私達』もっと上手くなりますんで、よろしくお願いします!」
    
    そして──

    【3-11】

    結局乃百合は、後半意地を見せるも大切な初戦を落とした。
    三年生の南先輩が深月ちゃんに負けるのは考えづらく、海香先輩が他の誰かに負けるとも思えない。

    それはつまり──、

    ──もう一敗も許されない──

    予想通りに南先輩が深月ちゃんを下すのを見届けた後、深月VS乃百合の試合が組まれた。
    ここで負けたら終わり。そう自分に言い聞かせ、乃百合は卓球台の前に立った。

     「いくよ、深月ちゃん!」

     乃百合の狙いすましたサーブが相手コートを襲う。スピンのかかった良いサーブだった。
      少し反応が遅れたが、負けじと深月も腕を伸ばし返してくる。
     しかし乃百合は、待ってましたとばかりに間髪入れずに逆方向に弾き返した。

     【1-0】

      ピンポン玉の弾む子気味いい音と共に、乃百合に得点が告げられた。

      【前陣速攻】

     乃百合の最も得意とするこの形。
     前に前に構え、相手が体制を整える前にうち崩す、速さと勢いで戦うスタイルだ。

    「もう一丁!」

    元々小学生の時、個人で県大会に出場した乃百合のポテンシャルは高い。最近はブッケンと共に朝練を頑張り、自主練も行ってきた乃百合の力は、体の成長と共により早く、力強くなっていた。

    【4-2】
    【6-3】

    「乃百合ちゃん、早っ……」

    【10-6】

     なんとか勝ちを拾おうと深月も頑張ってはいるが、実力差は歴然だった。
     最後のスマッシュを叩き込み、乃百合は額の汗を拭った。

   【11-7】

    「ありがとうございました!    深月ちゃん、また試合しようね!」
    「う、うん!    次は負けないんだから」

    二人は握手を交わし、健闘を讃えあった。
    そしていよいよ、残るは最後の相手──、
    児島南との対決へ。


    
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