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第一章【挑】
始まりはそんな一言
しおりを挟む幼き頃の常葉乃百合と六条舞鳥。
ピンポン球に魅せられた乃百合が、六条舞鳥に発した言葉──
「卓球しない?」
この一言から全ては始まった。
■■■■■■
ここはとある東北の市民体育館──
小さな体をいっぱいに使ってピンポン玉を追いかける少女達が居た。
今日は小学生の地方大会が行われており、今は準決勝の真っ只中である。
「ブッケン……諦めないで!」
小さく声援を送られている女の子の名前は六条舞鳥、通称ブッケン。
この試合を落としたら負けが決まってしまうブッケンだったが、相手のリターンに対し右に左にと揺さぶられ続け劣勢だ。
なんとか喰らいつこうと必死にピンポン玉を追いかけるも、汗で濡れた床に足を取られ、肝心なところで体勢が崩れてしまい──
──えっ、そんな……──
遅れた分必死に手を伸ばすも僅かに届かず、ブッケンはそのまま床にダイブしてしまった。
【5-11】
無情にも最後の得点がコールされ、 その瞬間少女達の県大会行きが絶たれ、最後の選手となったブッケンは、チームに戻る事も出来ずにその場に突っ伏したまま動けなかった。
「ブッケン、整列だよ。最後の挨拶をしなきゃ」
「……うん……ごめんね……ごめんね乃百合ちゃん……」
見兼ねて声をかけた乃百合は、ブッケンの幼馴染で一番の親友だ。
そんな乃百合の差し出した手を握り、力無く立ち上がったブッケンは涙を零しながら整列すると、悔しさと申し訳なさを押し殺し最後の挨拶をした。
「ありがとうございました」
■■■■
控え室に戻った選手達の空気は重い。
六年生はこの大会が小学生生活で最後の試合であり、ブッケンや乃百合達には二度と小学生として大会に出る事は無い。
「みんな、ごめんね……最後に私が負けちゃったから……県大会に……」
ブッケンは大人しい性格だが責任感が強く、自分の事を責めずにはいられなかった。しかしこのチームには、そんなブッケンを責める者は誰一人として居ない。
「ブッケンのせいじゃないって! これはチーム戦だったんだから、チームの負けなんだよ! チームが負けた、それだけだよ。悔しいけど、私達全員の後一歩が足りなかった」
「乃百合ちゃん……」
乃百合は元気があり、チームのリーダー的存在だ。
本当は誰よりも悔しい感情を抱いていたが、それを見せはしない。幼いながらも乃百合は自分の立場をよく理解している。
「舞鳥先輩は頑張りました! 私達、めちゃくちゃ感動しました!」
「先輩達、本当に凄かったです! 準決勝まで来るなんて立派ですよ! 相手は福美卓球クラブですよ! 私達、本当に熱くなりました!」
「先輩、中学でも卓球続けてくださいね! 私、また先輩達と一緒に卓球やりたいです!」
口々に六年生に向けられた後輩達の激励に、ブッケンの目頭には再び熱い物が込み上げた。
今度は悔し涙では無い。
「うん。ありがとう皆。先に中学で待ってるからね」
「ブッケン、これはプレッシャーですぞー? 可愛い後輩達に追い抜かれないように、頑張らないとね」
「もう、乃百合ちゃんってば!」
先程まで重く暗い雰囲気だった控え室は、いつしか煌めく涙と笑い声で溢れかえっていた。
「よっしゃー! 中学では全国目指すぞーッ」
「ぜ、全国!?」
「約束だよ。ブッケン!」
「うん。わかった。乃百合ちゃん」
鼠谷小学校卓球クラブ。
地方大会【1-3】準決勝敗退──
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