凶から始まる凶同生活!

風浦らの

文字の大きさ
上 下
70 / 90
第三章【陰陽師編】

愛とは

しおりを挟む
 十月後半、某日。

 大学校内にて。


「恭、折り入って相談があるのだが」

「相談はいいけど、なんでお前がここに居るんだよ!」

 俺の目の前に居たのは、雪水  涼だ。コイツは大学が違うから、本来なら居るはずが無いのだが……

「大学とはそういう所だろ?」

「そうだけどそうじゃねーだろ!勝手に入ってくるんじゃねぇ!ったく、ユキちゃんにでも会いに来たのか?」

「その事なんだが……」

 そこまで話したところで、「はーい、皆授業を始めますよ」と講師がやって来た。涼は話を中断し、席に座り一緒に授業を受ける。俗に言う『天ぷら学生』だ。本当自由な奴だな……


 ──。


 授業を終え、俺達は場所を変え涼の相談に乗ることに。大吉とユキちゃんには付いてきて欲しくないようで、二人だけで学食を食べながら向かい合う。

「んで、相談ってなんだよ?」

「それなんだが、福田さんに対する愛が無いんだ。いや、あるんだが、以前に比べて少ないんだ……」

「そりゃそうだろうよ。お前の契約上、仕方が無いんじゃねーの?」

「その通りだ。俺は人を愛し続ける事が出来ない。しかし、抜け道があるのも確かだ。それの相談なんだが……」

「ちょちょ、抜け道があんのか!?」

 驚いた!契約を無視して愛し続ける方法があるってのかよ!?

「そ、その方法って……?」

「うむ、瑞の契約は知ってるな、アレは能力付与型で、能力が付与される事で願いが叶ったと見なされる。要は『一括払い』だ。逆に俺や恭は持続型の契約で、常にエネルギーを供給してやらなければならない、その代わりにエネルギーが溜まったら大きな見返りがある。言わば『貯金』だな」

「お、おぅ……お前から真面目な話がきけるとはな……」

「そこでだ。俺の場合、愛のエネルギーが溜まった時、永遠の愛が約束されている。それを今、使おうと思っている」

「永遠の愛!?そんな事が出来るのか!お前達の場合、試練が多そうな組み合わせだからな、いいんじゃねーの?俺は賛成するぜ」

「ただ問題があって、出会って四年だが、まだサクのエネルギーが溜まりきっていないのだ。このまま発動させていいものか……とな」

 不完全なままで発動したらどうなる??俺の場合は、訪れる幸運がしょぼくなるだけだったが……

 チラリ涼の顔を見れば、いつも余裕たっぷりの顔が今日はどこか優れない様子。

「このまま発動したら、愛は膨れ上がるが、永遠では無い。つまり、サクにエネルギーを与えていけば、いづれまた尽きる。という事だ」

「な、成程……それは難しいな」


 暫く静まり返る。無理も無い、ここは適当な事は言えないよな……シリアス回はしっかりやらかさなきゃ駄目だ。分かっているな佐藤恭!しかしどっちだ、どっちが涼とユキちゃんにとって幸せになる可能性が高い?

 俺は考えた。考えに考え抜いて出した答えは……


「涼。今はまだ待つんだ」

 その言葉に涼は両手をテーブルに付き、勢いよく立ち上がる!その勢いで椅子が後ろに倒れてしまった。

「恭!このままだと、俺は福田さんに嫌われてしまう!!愛がない、冷たいと思われながら、俺は……」

「ま、まぁ聞けよ涼。今願いを叶えて振り出しに戻ったら、意味ねーだろ?それに、愛がどの位で尽きるかも未定だ。賭けにしては無謀すぎる。それより俺に『秘策』がある」


「秘策?」と目を丸くする涼、興味深そうにグイッと体を前のめりに出して来る。
 涼の着ていた開襟シャツのボタンが大きく開かれているため、胸元が丸見えだ。男のつもりだから見えてもいいと?サクを見習えよお前……

 俺は胸元から目を逸らし、「おほん」と喉元を整え、本題に入る。

「こういうのはどうだろうか、お前は精神に病を抱えている。という『設定』にするんだよ。愛が無いのを病気のせいにするんだ。付き合いたての今なら通用するだろ?」

「成程……朝食後は愛が皆無だからな……日が落ちる迄は調子が悪い設定にするか……」


 ───。


 そんな感じで俺と涼は、大学終わりにユキちゃんと一緒に帰ることに。時間はまだ十五時だ、涼の愛が貯まるにはまだ早い。

「涼ちゃん!」と涼の腕にしがみつくユキちゃん。なんとも羨ましい光景だ。しかし、当の涼はというと、冷や汗をかきながら、顔色も悪い。そんなに嫌なのかよ……

  俺の心を読んだのか、涼が俺の耳元で小声で話す。

「お前だって、大吉にこんな事されたら嫌だろ」

 そりゃあそうなんだが、なんか条件違くね?

「涼ちゃん!なんか離れたがってない?前はもっとくっついてくれたじゃない?私の事、嫌いになったの……?」

「え、いや、べ、別にそんな事は……」

 愛していた時の記憶はあるのだろう。しかし心が付いてこないのか。本当に面倒臭い体質だぜ。しょうがねぇ、助けてやるか。

「あのさ、ユキちゃん。実は涼は病気なんだよ」

「病気!?なんの!?大丈夫なの涼ちゃん!??」

 おぉ……凄い圧だな。しかし負けるな佐藤恭!

「まぁ大した事は無いんだけど、精神の病気なんだよ、なあ?涼」

「そ、そうそう!実は月が出るまでイチャイチャ出来ないんだよ!」

 バカヤロォ!嘘下手か!お前はオオカミ男かよ!

「そうなの!?それで!?」

 それでって言われても……

「そ、それで……そう!明るいうちにイチャイチャすると内蔵が破裂するんだよ!」

 おいおいそれは最早、精神の病気じゃねーだろーに。それに内蔵破裂ってグロ過ぎだろ。

「えーっ!!それで!?それで!?」

 ユキちゃん、もう可愛そうだから、やめてあげて……

「そ、それでだな……内蔵が破裂したら、浮気しちゃうんだよ!浮気、嫌だよね!?浮気!」

 どんな理屈だよ……内蔵破裂したヤツと浮気する奴なんているのかよ……

「へー、それで!?」

「そ、それで!?」

 ユキちゃんの「それで?」攻撃に遂に言葉が詰まる涼。もうこれ以上幼稚園児並の嘘は重ねられない。

「う…………ごめん……」

 罰の悪そうな顔を浮かべる涼。

 しかし、その涼の手を取り、ユキちゃんは優しい笑顔を浮かべる。その笑顔、正に天使。

「ううん、いいの。本当は分かっていたの。涼ちゃんが夜しか私の事を見てくれない事は。きっと言えない何かがあるんだよね。それがやましい事じゃ無いことも分かってるの」

「そ、それじゃあ……」

「ちょっと意地悪しちゃったかな?ごめんね、涼ちゃん」

「福田さん……」

 そして見つめ合う二人。

 なんだこの茶番は……これが『愛』とでも言うのか。愛されたことの無い俺には理解できない世界なのだろう。

 俺がしみじみ考えていると、「涼~、ユキちゃ~ん」と、遠くから声が聞こえる。

 この声は……

「あ、ダ~リン発見~」

 出やがったなゴリマッチョ。お前が悪の根源だろーよ。

「涼とユキちゃん、本当に仲良しよね~羨ましいわね~」

 おい、何故そこで俺を見る……

「そうなんだよ、本当にこれぞ『愛』って感じなんだぜ?愛された事の無い俺には、到底味わえないな」

「んも~何言ってんの?ダーリンには私が居るでしょ?」

「え?」

「あの、初めてあった日から、好きでした!付き合って下さい!」

「ごめん、無理」

「いやぁぁぁぁんんん」



 ヒロイン候補、一名脱落。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...