凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第三章【陰陽師編】

悪魔だって風邪を引く

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 十月中旬、某日。


 俺は学校の帰り、美少女コンテストの景品の図書券を持って、サタコと本屋で買い物をする約束をしていた。

「へっくちゅ」

 なんだ?風邪ひいたのか?

「おいぃ!鼻水!鼻水ぅ!!」

 サタコの鼻からはダラダラと鼻水が滴り落ちてくる。ったく、そんなんじゃ憧れのヒロイン失格だぜ。

「どれ」とサタコの鼻をティッシュで拭いてやる。まるで子育てだな……

「恭、クシャミが止まらないのだが、これはなんだ?」

「風邪だろ?鼻水も凄いし」

「風邪?病気か?」

 風邪を知らない!?魔界には風邪が無いのか?

 その時俺はタダの風邪だろうと気にもとめずに、サタコを連れて本屋さんへと向かった。

 本屋さんの前でサタコに図書券を渡す。持たせろとあまりにも五月蝿いので、「絶対落とすなよ」と念をおし、持ってきた図書券三万円分を渡す。


「へっくちゅ」

「痛っ!」

 サタコのクシャミはまだ止まらないのだが、サタコがクシャミをする度に魔力が解放され、静電気が俺を襲う。正直近くに居るとチクチクして鬱陶しい……
 そしてその都度鼻水を拭ってやらなければならないので、下手に離れるわけにも行かないのだ。鼻水が暴走して本に付き、弁償なんて事になりかねないからな。俺の運からして十分に有り得る話だ。

「へっくちゅ、へっくちゅ」

「痛っ!痛い!お、おい大丈夫かよ?顔も真っ赤だぞ!?」


 サタコの顔は先程に比べて赤くなってきていた。白いほっぺが今は林檎のように真っ赤だ。

「サタコ、何か栄養を取った方がいいんじゃないか??調子が悪い時は栄養を取るのが一番だぞ?」

「栄養?そうだな、強い体にするに越した事は無いな」

 そう言うとサタコは鎌を錬成する。鎌の重さに耐えられないのか、ふらつく足で俺に斬りかかってくる。

 本日二度目のラックドレイン。俺は覚悟した。俺はそれでもやはりサタコが心配だった。サタコにはいつも元気で、ふてぶてしくて、愛らしい姿を俺は求めているからだ。

 サクッと鎌が俺の体を貫通するも、そのスピードにいつものキレが無い。

「ど、どうだサタコ?少しは元気になったか?」

「う、うむ……へ、へ、へーっくちゅ!!!」

 サタコさんの歴代最高クシャミが炸裂!鼻水が俺のズボンにベッタリだ……

 お、俺の下半身が何かイヤラシイ感じになってるじゃねぇか!??こんなんじゃ街をあるけねぇぇ……

 不幸はそれに留まらない。大きなクシャミと共にサタコの魔力が解放され、サタコの手から炎が飛び出たのだ!

「おいぃ!さ、サタコ!燃えてる!図書券が燃えてるってぇぇぇ!」

 サタコの持っていた図書券三万円分は、あっという間に燃え尽きた……

 何してんのぉ!?と思わずツッコミを入れたかったが、サタコの様子がおかしい。フラフラと千鳥足で本屋の前を歩き、突然パタリと倒れたのだ!!

「サタコ、サタコしっかりしろ!!サタコぉぉ!!」

 どうする佐藤恭、サタコは悪魔だ。病院に連れていく訳にはいかねぇ……警察?いやいや駄目だ、身元がバレちまう……他には……くそ、どうしたらいいんだ!

 俺はサタコをお姫様抱っこして、急いで走り出した!サタコの体は軽く、苦しそうな表情が俺の足を更に速める。


 ──。


「急に押しかけて悪ぃ……俺一人じゃどうしていいのか……」

 俺が選んだ選択肢は、シルシルの家だった。シルシルと、シーの関係は実に九年以上。シーが病気になった事もあるに違いないと踏んだのだ。

「いえ、こんな時に助けあえない仲間なんて、居ない方がマシですから!サタコちゃんが早く良くなるように、私達も全力を尽くします!」

 シルシルの頼もしい言葉に俺は泣きそうだった。そしてシーも、サタコと普段はいがみ合ってはいるが、顔を覗き込み、誰よりも心配そうな顔を見せている。

「シー、お前は病気とかなった時どうしてるんだ?病院とか行くのか?」

「俺様は病気になった事はねぇ……もしも病気になったら、動物病院行きだろうけどな」

 そうだった、コイツは猫だ。身元がバレるとかバレないとか関係ねぇんだった。

 そんな会話をしていると、サタコがうっすら目を開ける。息遣いは相変わらず荒く、ハァハァしている。

「きょ、恭ぉ……ハァハァ……わ、私はこのまま、死ぬのだろうか……うっ」

「ば、バカ言ってんじゃねぇ!!そんな事ある訳ねぇだろ!!」

 俺は完全否定する。そんな事、俺がさせねぇ!サタコは俺が守ってやるって決めたんだ!例え方法が無くても、俺が必ず探し出して助けてやる!

 俺はサタコの手をグッと握り「必ず助けてやる」と言うと、サタコは「下僕のクセに」と言い残し、安心したのかまた目を閉じ苦しそうに眠りにつく。


「一体どうすれば……」


 その時俺には、まだ考えが浮かんでいなかった……
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