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第三章【陰陽師編】
美少女コンテスト
しおりを挟む俺達は、決勝が始まる前に円陣を組んだ。この戦いは絶対に負ける訳にはいかない。
みんなの心を一つにして、必ずや勝利をもぎ取るのだ!
「シーちゃんとサタコちゃんを、賭けの対象にするなんて許せません! 絶対に勝ちましょう!」
「勝ってお尻ペンペンだな」
なんてハレンチな……
「おぅ、何盛り上がってんだ?」
野太い声でシルシルの懐から顔を出したのはシーだ。
今までどこ行ってたんだよ……
え? 寝てた? 確かに気持ちよさそうなベッドがあるが……って危うく俺のイメージが崩れるところだったぜ。さてと、じゃあ気を取り直して──、
「みんな行くぞぉぉぉぉぉ!!」
「「おおぉぉぉッ!!」」
円陣を組み、掛け声と共に前を向くと、その視線の先には間場 凛が居た。
「わお、凄い気合いね。私も負けていられないわね。あ、そうだそうだ」
何かを思い出したかのように、間場 凛は人差し指で、空中に何かを書き始める。信じられない事に、その指先には光が灯り、暗闇でペンライトを動かしたように線を紡ぎ出す。
これは、漢字……?『封』と読める。やはりコイツも不思議な力があるようだ。シルシルの様な付与型の能力者なのだろうか。
「皆気をつけろ!」
俺が二人を庇おうとしたが、それより早く間場 凛が気合いの入った言葉を発する!
「封陣!」
言葉を放っただけなのに、大気が震え、体に衝撃が走った。
「な、何すんだよ!!」
俺の声は思わず荒くなった。
「ごめんね。なんの心配も要らないよ、ただ──、私は『ズル』が嫌いだからね。念の為、念の為」
アッケラカンと笑ってみせる間場 凛。確かに俺達の体にはなんの異変も感じられない。
健闘を祈ると手を振り会場に向かう彼女の背を見ながら、シルシルが俺に向かって呟いた。
「凶さん……み、未来が……見えません」
──ッ!
一体どうした事か。シルシルの能力が消えた──、という事なのだろうか?
サタコの方に視線を落とすも、サタコは無言で首を横に振る。
最後の言葉『私はズルが嫌い』から察するに、能力を封じられたのだ。
こんな力を隠してやがったとは。絶対に勝って正体を暴いてやるぜ!
「私は最初から能力に頼るつもりは無かったですから、別にいいんですけどね」
「そ、そ、そうだな! わ、私もだ! 奇遇だなシルシル」
サタコさん。そこは嘘でもハッキリそうだと言ってくれ。
「んじゃ、俺は客席から応援してるから、しっかり頼むぜ!!」
俺は二人とハイタッチを交わし客席側に向かった。
■■■■
観客席側に着くと、会場は異様な熱気に包まれていて、さながらアイドルの野外コンサートだ。
「それでは、エントリーナンバー二番、モブ子ちゃんの登場です!!」
司会者に呼ばれ姿を現したのはモブ子ちゃん。名前に騙されていたが、この子もめちゃくちゃ可愛い。観客席には『愛loveモブ子』の横断幕や、写真付きの団扇を持った男達が居る。
「モブ子ぉぉぉぉぉぉ!!!」
うわぁ……すげぇ声援だな。
モブ子の特技披露は、カラオケだった。今流行りのloveバラードを披露し、会場では涙を流す者が出る程だ。
そして自己アピールは大盛況のうちに幕を閉じた。
これは……強敵だ……
『続きまして、エントリーナンバー四番サタコちゃんの登場でーす!!』
司会者に呼ばれてペタペタと、裸足で会場に登場したサタコの頭には、猫耳が付けられている。
正解だサタコ。よくぞここまで成長したものだ。ロリ+ケモミミは鉄板中の鉄板。これが嫌いなオタクなんてオタクじゃない。
「サタコちゃーん! こっち向いてー!」
「可愛いー!」
「愛くるしすぎる!」
サタコにもかなりファンが付いたようだ。元々見た目は可愛いからな。見た目は。
これならなんとかなりそうだけど、問題はサタコの特技だ。一体何を披露するつもりなのだろうか。
「特技は歌を披露する。心して聞くが良い」
え、特技が歌!?
聞いた事ないんですけどぉ!?ってかモブ子と被ってるんだよ、ダダかぶりなんだよ……
音楽が流れ、サタコがマイクを手に歌い出す。
こ、この曲は……サタコの大好きな、魔女っ子マジョリんのOP曲だ!
サタコの自己アピールは歌だけに留まらず、音楽に合わせて踊りだした。
俺のいない所で、コッソリ振り付けを練習していたと思うと正直可愛い。
歌も振り付けも完璧だ!伊達に何十回と繰り返し見ていないな。お前こそ本物のオタクだぜ!
俺は成長したサタコの姿に感慨深くなり、ポロリと目から涙が零れた。きっとお遊戯会を見に行く父親ってこんな気持ちなのだろう。
「マジョリんパウワー!エグゼンティボーッッ!」
最後の決めポーズが終ると、会場からは惜しみない拍手と、オタク達からの歓喜の声が響いた。
ペコリとお辞儀をして、サタコはまたペタペタと帰っていく。
こんなお利口なサタコちゃん見た事ないんですけど……ともあれ、オタク票は完全に頂いたな。
『続きまして、エントリーナンバー五番、天神 瑞ちゃんの登場でーす!!』
「キター!!」
「神がかってる!」
「可愛すぎる巫女さん!」
「瑞ちゃーん!」
出てくるなりシルシルの顔は既に真っ赤だ。人の事は言えないが、元々こういうのには向いてないタイプなのだろう。
四人の中ではシルシルが一番バランスが良い。可愛さ、綺麗さを併せ持ち、年上、年下にも対応できそうだ。問題は特技だな。
「あ、あの、その……特技は……猫と戯れることです」
そ、それは特技なのか……
シルシルは服の首元のボタンを一つ外す。観客席からは「おー!」という声が響き渡る。
すると服の隙間から、ひょっこりと顔を出した真っ白な子猫が、ぴょんと飛び出してきた。そして、シルシルが楽しそうに戯れ始めると「可愛いー!」と会場のあちらこちらから聞こえてくる。
美少女と子猫。
やるなシルシル。これ以上の癒しを俺は知らない(あくまで個人的な意見です)
シーの存在が助けてくれたのか、シルシルの表情が柔らかになり、より一層その可愛さが際立っている。
これは貰ったんじゃないか!?
「ありがとうございました!」
深々とお辞儀をして、割れんばかりの拍手に送られ、シルシルはアセアセと帰っていった。
『最後はエントリーナンバー十番! 間場 凛ちゃん、お願いしまーす!!』
司会者にアナウンスされ、銀髪を靡かせ間場 凛が登場する。
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カムイイムカです
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23話でおしまいになります
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