凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第三章【陰陽師編】

ラッキーアイテム

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 ■■■■

     月が変わって十月。
 今日から大学生活が再スタートする。

 俺はだらけきった夏休み生活から一転、早起き生活を強いられていた。落ちてきそうな瞼を必死に目の筋力で支え、出発の準備を整える。

 普段は気にも止めないが、テレビの『今日の運勢』コーナーをボンヤリと眺めながら、朝食のパンをひとかじり。


『今日の射手座のラッキーアイテムは   【食べかけのパン】です』


「…………こ……これだ!!!」


 俺は今さっき食べていたパンを鞄にしまい込み、サタコに朝食を与える為にゆすり起こす。


「ん……恭。もう起きる時間か?」
「そうだ。夏休みが終わったからな。寝ててもいいけど、朝飯食わないとダメだろ?」

 サタコはだるそうに上体を起こすと、片手でサクッと俺の肩辺りを鎌で斬る、
 そしてすぐさま夢の世界へと帰っていく。

 適当ぉ!?    コイツ、俺の不幸の結末も見ずに二度寝するとは!    お前には見届ける義務ってもんがあるだろぉが!!

 なーんてな。今日の俺はそんな事では怒ったりしない。俺には『ラッキーアイテム』がついてるからな!    現に今こうしてる間も不幸はやって来ない。なぜ今まで気づかなかったのか。迂闊だったぜ佐藤恭。


 ■■■■


 俺はラッキーアイテム様の御加護により、悠々と登校していた。

「凶さんおはようございます、学校始まりましたね。また今日から頑張りましょう!」

 学校について最初に声をかけてきたのはシルシルだ。

「おはようシルシル!おう!頑張ろうな!」

 にひひっと笑い、元気よくシルシルに挨拶する。と、

 すれ違いざまにシルシルに人がぶつかり、よろけて俺の方に倒れて来た。


「きゃっ」

 咄嗟に危ない!   とシルシルを受け止めると、ムニッという感触と共に柔らかいシルシルの体が俺に密着する。


「あ、ありがとうございます凶さん……その……あの……」


 顔を真っ赤にしているシルシル。見れば、俺の右手がシルシルのCカップを鷲掴みにしてるじゃないですか!   何やってんのぉ!?    俺の右手ぇぇ!

 俺はいつもの如くお腹に打撃が来るのを恐れ、反射的に腕でお腹を守った。


 …………あれ?


 いつものようにズドーンと来ない。恐る恐る顔を上げシルシルを見ると、口元に手を当て顔を真っ赤にしたまま動かない。

 俺に残されたのは、幸せな感触の残る右手だけ……これも『ラッキーアイテム』のお陰だとでもいうのか……

 その日の授業は、右手の感触が邪魔して全く頭に入らなかった。


 ■■■■


 次の日の朝。


『今日の射手座のラッキーアイテムは【女性用の下着】です!    お出かけの際は必ず着用して出かけてくださいね!    それでは今日も一日頑張りましょう!』


 ……………ナニコレ急にハードル高くねぇ!!?

 流石に無理か……いや、いやいや佐藤恭。やっと普通の生活を手に入れたのだ!このまま易々と逃してなるものか!!

 しかしそんな物いったいどこで手に入れたらいい?    こんな朝早くにやってる店等無いだろう。コンビニ?    いや、見たことないな……


 そうだ!!


 ■■■■


 コンコンとノックをするが、全く応答が無い。これだけの大きな家だ、気づかなくても無理は無い。
 マナー違反だと思いながらもガチャりとドアを開け、どあの軋んだ音と共に中に入った。


「い、居ないのか?    お、おーい……」


 不意にトントンと肩を叩かれ、思わず振り向くとそこには──、


「んぎゃあぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 響き渡る絶叫と共に体が仰け反った!


「んもう、失礼しちゃうわね!それにしてもこんな朝早くに何の用?ダーリン!夜這……いえ、朝だから朝這いね!積極的ぃ!」

 紫色の坊主頭のマッチョな男。そう、ここは通称『死の洋館』サクの住居だ。

 コイツなら……

「お、おう。残念ながら夜這いじゃねぇんだ。実はお前の下……し、した……」


 む、無理ぃいいい!!
    泣きたい!    屈辱的過ぎる!!     なんで俺がゴリマッチョニューハーフに下着を借りたいとお願いしなきゃなんねぇんだよ!?
    おかしいだろ!   勘違いされるだろぉが!    絵面も最悪だし!


「下?    下着が欲しいのん?   いいわよダーリン!」


 よくぞ下着を連想できたな。あんたこそ生粋の変態だよ。

「こっちよ」

   ルンルンとオリジナルの歌を口ずさみ、サクが洋館の奥へと案内してくれる。

 一階の一番奥の部屋。ここがサクのランジェリールームらしい。

 下着だけの部屋とか、どんだけ贅沢な使い方してんだよ……


 ガラッと引き出しを開け、真っ赤なランジェリーを取り出し俺に渡す。


「それで、ダーリンったら私の下着をどうするつもり?」


 ギクッ……


「まさか、クンカクンカするつもりぃ?いや~ん!!」
「ば、バカ!ちげーよ!!んな事するかぁ!!」
「それじゃ何?」


 …………………。


「…………着るんだよ」


 …………………。


「私の想像の遥か上を行ったわぁぁあ!!!」


 どうやらサクの想像を上回った様だ。

    もう……死にたいぜ。


「そうと決まれば早速試着よ!!」
「何が決まったんだよ!!?」


 しかし、もうここまで来たんだ。これ以上恥をかくこともあるまい。後で事情を話せば、分かってくれるだろうし。それより俺はブラジャーなる物を着たことが無い。見るのも初めてに近い。サクに着け方教えて貰うのも悪くねぇ、か……


 俺は服を脱ぎ、サクに真っ赤なブラジャーを着けてもらう。

   結構締め付けがキツイのな……


「んま!ダーリン素敵ぃ!凄く似合っているわよーん!!!こっちの世界にようこそー!」
「やめろ。お願いだからやめてくれ」

 俺は真っ赤なブラジャーを身に纏い、ワイシャツに袖を通し、出発の準備をした。これで今日の俺は無敵だ。

「言っとくけど、これは今日の『ラッキーアイテム』だからしょうがなく着てるんだからな!その辺勘違いすんなよ!」
「はーい、りょーかい」


 サクに釘を刺し、サタコに食事を与える為に急いで家に帰った。その帰り道──、


「あれは、一郎、二郎、SABUROUじゃねぇか」

 登校中の三つ子とすれ違った。
    何やらクスクス笑われたが、サタコがまたいらん事を吹き込んだんだろう。俺はそのまま気にせずアパートの階段を駆け上り、玄関を開ける。


 ガチャ。


「恭ぉぉ!!!どこに行ってたのだ!私はてっきり、また逃げたのかと思ったぞ」
「俺が逃げる?ふふふっ。サタコも冗談を言うんだな。さぁ、早くラックドレインしてくれ。俺は大学に行かねばならんのだ」

 もう余裕だ。何せ俺にはラッキーアイテムがついている。

 サタコは少し戸惑った顔を見せたが、都合がいいとばかりに鎌を出し、俺の胴体を真っ二つにした。


「じゃ、俺は大学に行くからいい子にしてるんだぞ」
「それはいいのだが、恭。ブラジャーが透けてるぞ」

 え……??    い、今なんて……

 俺は自分の胸元を見る。真っ白なワイシャツの下から「こんにちわ!」とばかりに真っ赤なブラジャーが透けていた。これが噂に聞く『スケブ』か!!!

「こんにちわ!」じゃねーからぁ!!
    ダメだダメだダメだ、こんな真っ白なワイシャツじゃ透っけ透けじゃねぇか!白はまずい、黒だ、そう黒!    最強の黒で学校に行くのだ佐藤恭ぉ!!

 俺は時間も差し迫っていたため、急いでワイシャツを白から黒に着替える。

 その光景を見ていたサタコがポツリと──、


「恭は『ブラ男』だったのだな。マンガで読んだことがあるぞ」



 ………………。



「何これぇ!!普通の生活を送る代償が、デカすぎるんですけどぉぉぉぉ!!!」
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