凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第二章【能力者狩り編】

仲良く漂流

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 ■■■■

    夏と言ったらやっぱり海!!

 俺達は例の如く大吉の誘いで海に来ていた。最近は涼達と遊ぶ事も多くなり、俺達一行は随分賑やかにだった。

    海では女子メンバーの悩殺水着姿を堪能し、ビーチバレーを楽しんだ。

 スイカ割りもしたな。あの時はシルシルの振り下ろす棒の速さに驚き、サタコのわざとらしく俺の頭を狙った行動にも笑わせてもらった。

 そうそう、サタコが「泳げないから、ボートに乗って海の上でゴロゴロしてみたい」と言うものだから、持ってきたボートを膨らまして、浅瀬でパチャパチャ楽しく遊んだな。

    しかし──、



 それももう過去の話。



 気がついたら俺は。いや、俺達は────、
    ───、
    ──。
   
「おい、サタコ……起きろ!    寝てる場合じゃねぇって!」

 モチっとした頬をペシペシ叩き、涎を垂らしながら寝ているサタコを無理やり起こした。

「ん……あぁ……朝か?」
「朝って言うより夕方だ!    とりあえず起きてくれ!」

 辺りは夕日に照らされオレンジ色に染まり、涼しくもある風が優しく頬を無でている。つい先程までは太陽の日差しがカンカンと照りつける、真夏日だった筈なのに……

「夕方ぁ?    またすぐ寝る時間が来るのか?    起きてる暇が無いでわないか。ふぁぁあ」

 大きな欠伸をし、まだ寝ぼけたことを言っているサタコさん。俺は一刻も早くこの状況を伝えなければならなかった。

「いいか、サタコ。よく聞いてほしい。俺達は今『漂流』している」
「この世界で数千年前に絶滅したと言われるアレか?」
「それは恐竜」
「海から氷が流れてくるやつか?」
「それは流氷」
「→↓↘!?」
「ごはぁッ。そ、それは昇○拳……ひょうりゅうだ・・・・・・!    “ひょうりゅう”!」
「フハハハ。恭、漂流と言ったらアレだぞ?    海の上をプカプカとさ迷い帰れなくなるやつだ。そんな訳なかろう」

 ドンピシャもドンピシャ。俺達は今まさに『漂流』しているのだ。
    乗っていたボートで横になり「気持ちいいなぁ」「帰りたくないなぁ」なんてほざいているうちに、ウトウトつい居眠りしていたようだ。
    そして目が覚めればこの有り様。今となっては“帰りたい”の気持ちでいっぱいだ。

 俺のいつに無く真剣な表情に、サタコの顔色が変わり始めた。

 座っている物、ゴムボート。周りの景色、見渡す限りの海。太陽、今正に沈みそう──、

 タダでさえ白いサタコの顔が、白を通り越し青くなる。

「き、きょ、恭ぉぉ!    ひょうりゅうぅぅ!」
「さっきから言ってんだろ!」

 やっとこ目を覚まし状況を理解したサタコさん。辺りを何度も見渡し、頬を指で抓るも、痛さに涙が滲んでる。これは夢では無い。

「俺達の置かれている状況がわかったか?    もう冗談とか言っている場合じゃねぇ。力を合わせてなんとかこの危機を乗り切るんだ。それしかねぇ」

 フンッと鼻を鳴らすサタコさん。一体何がおかしいのだろうか。

「では私が先に帰って、助けを呼んできてやろう。泳げなくても、魔法で水の上を歩けるからな」

 サタコさん俺の話聞いてましたか?    一人だけ助かろうだなんて、なんてやつだ。

「おいおいおい、俺を置いていく気かよ!?」
「恭、必ず助けを連れて戻ってくる」

 サタコはそそくさととボートから飛び降り、水面に立つ。そして“グッドラック”と親指を立て、一目散に駆け出していった。その行動に迷いは無い。

「ひでぇぇ!    ずるいぞサタコ!    戻ってこーーーい!!」

 しばらく走っていたサタコだったが、俺の声が届いたのか、くるりとUターンしこっちに戻ってくる。

「あぁサタコ……なんだかんだ言っても俺のパートナーなんだな……」

 サタコが猛ダッシュで戻って来る。そんなに俺の事が心配なのか?    ほんとうに可愛い奴だ。
 感慨深く思っていたが、どうやら違う。サタコの後ろに何か見える。黒っぽい影に俺は気づいた。

 海に浮かび移動する黒いフラッグと言えば一つしかない。

「恭ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 四ヶ月こちらの世界で生活したサタコにも、その知識はあったらしい。涙声で叫びながら全力で走り戻ってくる!

 サメさんが水面にザバーっと大きな口を開き現れた!!    勿論狙いはサタコだ。海の上でも動物に大人気のサタコさん。

 サタコはそれを避けるように大きく前方に飛んだ。そして、勢いよくゴムボートの中に転がり込んで来て、間一髪惨劇は免れた。

「早く助けを呼びに行ってくれよ。俺はここで待ってるから」

 サタコに罰を与えねばと、俺は敢えて冷たい態度を取った。

「恭ぉ!    恭ぉぉ!?    みみみ、見たであろう!?」
「え?    何が?    ただのサメだろ?    早く行けよ。日が暮れるだろ?」
「……えっ……」

 俺の突き放す様な言動に、シュンと膝を抱え、水平線を見つめるサタコさん。

    ちょっと虐めすぎたか?    いやいや、肝心な時に見捨てられたんだ。この位はやって当然だ。

 ──、それから何分か経ちサタコが口を開いた。

「恭?」
「ん、どした?   反省したのか?」
「人間は海水を飲めるのか?」
「いや、海水で水分を賄うのは無理だ。漂流した時に海水を飲むと余計に──、ハッ!」

 サタコの口角が僅かに上がる。

「お、おま、まさか……この悪魔め……」

 そう。海水は飲めないが『お湯』という条件付きだが、飲み水ならいくらでも賄える。その事にサタコは気づいたのだ。

「な、なぁサタコさん?    仲良くしようぜ?     お、俺達はパートナーだよな?」

 サタコはより一層口角を引き上げ「フハハハハッ!    恭にそこまで懇願されては断れまい」と、急に元気になって高笑い。

 この悪魔め、無事に帰ったら絶対仕返ししてやる!

「ありがとうサタコ、力を合わせて絶対帰ろうぜ!」

 色々と気になるが、とりあえず内部分裂は免れた。何はともあれ、まずは状況整理だ。持ち物は──、

 俺、海水パンツ。サタコ、水着。
    以上。

 終わった……こんな状況で一体どうしろと?    神は何故俺にばかりこうも試練を与えてくるのか。俺の人生ここで終わらるつもりなのだろうか。 
    せめて彼女の一人や二人、欲しかったな。

 水着姿のサタコを見詰めながら、そんな事を考えていると、どうもサタコの胸に目がいってしまう。なんと言うか、“大きい”のだ。

 サタコって、こんなに胸が大きかったか?    なんか Bに格上げされている様な……成長期か?  いやいや、こんな状況で何を考えているんだ俺は。しっかりしろ、佐藤恭。

「どうした?   そんなにジロジロ見て」

 やばい。気づかれたか?    このままではまた内部崩壊してしまう。

「ははーん。さては恭、これが欲しいのだな?」

 そう言うとサタコは、ワンピースの首周りをグイッと広げ、俺をチラチラ見てくる。

「えっ、いや、あの……」

 そして、おもむろに水着の中に手を突っ込むと、中からスルスルスルっと『昆布』を取り出した。

「昆布かよ!!」
「お昼に拾ったのだ。帰ったら酢昆布にしようと思ってな。バレては仕方が無い。半分食わせてやる」

 サタコの水着の中から出てきた昆布。ある特定の趣味の方達には大層喜ばしい物だろうが、俺には流石に抵抗が……

「なんだ、いらないのか?    私も丁度痒くなってきた所だったから、そろそろ捨てるとするか」

 サタコが海に昆布を捨てる仕草をする。

「ま、待て待て待て!    食べる、食べるから捨てるな!」

 俺の恥ずかしい程の必死さに、サタコの口角が再び上がり「どうぞ」と昆布を手渡してくれた。
    俺は、この屈辱は忘れまいと思いながら昆布をしゃぶった。

 ■■■■

 結局、なんの手段も思いつかないまま夜が更けた。
 俺達はボートに寝転がり。街中では決して味わう事のないであろう静けさと、満点の星に囲まれ一日を終える。
    昼間あんなに寝たはずなのに、疲れのせいか、あるいは現実逃避のためか、グッスリ眠った。

 ■■■■

 ──、次の日。

「サタコ、起きろ、サタコ!」
「んにゃ………なんだ、学校に行くのか?」

 相変わらず朝の弱いサタコさん。しかし、俺の一言で一気に目が覚める。

「島だ!    島の近くに流れ着いたぞ!!」
「おぉぉぉ……陸、陸だぁ……」

 俺達の目の前に現れたのは、小さいながらも、しっかりとした『島』だった。
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