凶から始まる凶同生活!

風浦らの

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第二章【能力者狩り編】

天国と地獄

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 ■■■■

    夏のプール、それは男のロマン。
    地上に舞い降りた天使達が暑さを忘れるが如く、惜しむことなく肌を露出し、水浴びをする為集まってくる。
     まさに地上の天国!
 これは、そんな天国に足を踏み入れた勇敢な男の、ある夏の物語である。

「ついに!    ついに来たぁぁぁ!!    この日をどれだけ待ちわびた事か!!    ゲリラ豪雨に降られた日も、カルガモの子供に親と間違えられた日も、携帯をトイレに落とした日でさえも!    この日があったから耐えられた!!    今行くぞぉ!待ってろ天国!!」
「おいおい恭、嬉しーのはわかるけどよー、もうちょい落ち着けって」

 興奮状態の俺の肩に手を回し、大吉が俺を宥める。

「おぉ、悪ぃ。つい興奮してしまったぜ」

 男なら興奮して当然だ。今日は大学屈指の美少女ユキちゃんと、巫女さん女子大生ことシルシルの水着姿を拝めるチャンスなのだ。俺はその姿をこの目に焼き付けると誓っていた。

 俺達男は既に着替えを終え、今は女子メンバーとプールの入口で待ち合わせている所だ。

    くぅ、ドキドキが止まらないぜ……

「お待たせー!」

 あえて見ないように入口に背を向けて待っていた俺達に、ユキちゃんが声をかけてきた。期待に胸踊らせ振り返る男子達!

 ──おぉ……お、これは……!!

 まずはサタコ!    A'と思いきや、意外にもAはありそうな胸!     水色に白の花柄をあしらったワンピーススタイルの可愛い水着だ。

 そしてシルシル!    Cはあるだろう丁度いいサイズの胸!!    緑に黄色の水玉の入ったビキニで、腰にはパレオを巻いている。可愛らしさとエロさを兼ね備えた、素晴らしいルックスだ。文句のつけようがない!

 そしてそして、ユキちゃん!!    黒とピンクの上下のビキニから溢れんばかりのDカップ!!     出る所は出て締まる所はキッチリと締まった完璧ボディ!!    水着のチョイスも相まって、大人なエロさだ!!

 そしてBカップの涼と、筋肉のサク。  
    更に猫が一匹。

「なんでお前らまでいんだよ!?」

 なんか余計なのが混ざってるぅ!!   こいつらは別に来なくていいんだよ、寧ろ邪魔なんだよ!

「そうよね~、猫が居たらおかしいわよね~?」
「あんただよ、あんた!    あんたが一番おかしいんだよ!    なんだよその水着!!    なんで乳を隠す必要があんだよ!?    ただの変態じゃねぇか!!」

 ブーメランパンツに上は女性用のビキニを着用。挙句の果てには、とぼけた事を言い出すサクに対し、思わず熱のこもったツッコミを入れる。

「だって~、おっぱい見られちゃうじゃな~い!」
「隠してる方が恥ずかしいわ!!」

 鋭くツッコむと、サタコは首を横に振り、俺にだけ聞こえる声でサクを庇う発言をした。

「そう言うな恭。魔界のサキュバスは通常全て女だ。恥ずかしがって当然だ」

 ──え?

 成程……そういう事か……
    涼が男に憧れているからか。
    その影響で、法則に従い本来女であるサキュバスが、この世界に召喚される時に男の姿にになったて訳か。

 俺の頭の中で辻褄が合った。途端に悪い事言ってしまったと、後悔が頭を過ぎる。

「悪かった、サク。それがお前のスタイルなんだもんな!    今日は一緒に楽しもうぜ!!」

 俺はしっかりとお詫びしニッコリと笑う。

「優しいのね~恭ちゃん!    惚れちゃうわ~!    私の愛の魔法で虜にしちゃおうかしら~ん」
「お前が言うと冗談に聞こえないから黙っててくんない!?」

 何故だか余計なのが混じってしまったが、とりあえずここは天国!    存分に楽しもうではないか!

 ■■■■

 十分後。

 ……何故だ。何故こうなった……

 俺は照りつける太陽の下、小学生とゴリマッチョビキニ男、それに猫を従え、天国にて串刺しの刑のような視線を浴びていた。

「ダ~リ~ン!    よそ見しないの~!    他の女の子見ちゃダメなんだからね~!」
「ダーリンって言うなぁァァ!!」

 いつしかゴリマッチョビキニ男にダーリンと呼ばれ、周りにクスクスと笑われていた。

 それもこれも全部大吉のせいだ!あいつが──、

『この人数じゃ混んでて動けないから、二手に別れようぜ?    そうだ、ジャンケンで決めよう!』

 とか抜かしやがるから……

「ぎょぉっぷ!    たっぶ!    だぶべぶぶぶぶ……」

 よそ見をしていたらサタコさんが沈んでいくじゃありませんか……なんだこれは……こんな筈ではなかったのに……

「よう恭、気持ちはわかるけどよぉ、折角なんだし楽しもうぜ?」

 優雅にかまぼこ板をビート板代わりにして、おっさん声でシーが話しかけてくる猫。当然周りから見ていた人達は、「何あれ?」「えー!どうなってんの!?」「やだー可愛い!」と注目を集めている。

「お願いだから猫らしくしてくれ!」

 落ち着け佐藤恭!    取り乱すとろくなことが無い。俺は運が人一倍悪いんだ。今までだってそうだったじゃないか。

    自分に言い聞かせとりあえずプールサイドに腰を下ろす。こうなった事はもう仕方がない。時間は戻らないのだ。諦めをつけ、今後の天国お楽しみプランを練ることの方が、よっぽど有意義な時間の使い方ってものだ。

    このまま終わってたまるかよ……!!

 と、ようやく決意が固まった俺の隣にピタリと体を寄せサクが座ってきた。

「………………」

 悪魔三匹引き連れて、天国が地獄に成り果てた。

 とりあえず俺も泳ごう……最早泳ぐ事にしか楽しみを見い出せねぇ。

    プールに浸かり、久しぶりの水泳を楽しんだ。港町で育った俺は、実は泳ぎが得意なのだ。

「おい。恭」

 サタコが声をかけてくるので見てみれば、水の上に立っているじゃないか……

「泳げないからって立つんじゃねぇ!!」

 俺はプールに浸かったまま、プールサイドにサタコを座らせ、話を聞く。トイレにでも行きたくなったのか。

「どうしたよ?」
「泳ぐと腹が減るな」
「それはつまり……」

 冗談じゃねぇ、この上まだ俺に試練を与えるつもりかよ!?

 俺は逃げた!    クロールで全力で逃げた!!    しかし地上でさえサタコの鎌から逃げ切ったことは無い。勿論水上で逃げられる訳もなく、無情にもサタコの鎌が俺を捉える。

 終わった……すべてが。この日をどれ程楽しみにしてたと思ってたんだよ。あれ、俺達泣いてる?

 途端に「キャー!!」っと響く悲鳴!    一体全体何事か。
 耳をすませば、いたる所で何やら聞こえてくる。

「なにか居るぅ!」
「うわっなんだこいつ!?」
「きゃっ何か触れたわ!」

 次の瞬間、俺の海水パンツが何者かの手により剥ぎ取られた!
     あまりにも一瞬の出来事だった。
 そして俺はノーパンになった。


 ──園内の皆様にご連絡致します。ただ今、プール内において『ラッコ』が発見されたと連絡が入りました──

 園内放送だ。またこのパターンかよ!しかし、今回は『ラッコ』だ。ワニや、サメじゃねぇ。恐るるに足らずだ。それより、今の俺がノーパンである事が最大のピンチだ。このままじゃどこにも行けやしねぇ。


 ──引き続きお客様に連絡を致します。ラッコ捕獲の為、プール内の水を一旦全て抜かせて頂きます。お客様にはご迷惑をお掛けしますが、何卒ご理解の程を……──

  
「なぁぁにぃぃ!!!」

 それはマズイ、マズすぎる!    このまま水を抜かれれば、スッポンポンで大衆の前に姿を晒す羽目になる!

「おい!    サタコ!    …………あれ!?   居ねぇぇぇ!!」

 絶望的にもサタコは遥か遠くにいた。サタコだけでは無い。知り合い全員が遥か彼方で、楽しそうに俺から離れる様に歩いて行くのが見える。

「おーーい!    恭ーー!    プール使えなくなるから、アイス食べに行くぞーー!お前も早く来ーーい!」

 遠くで大吉が俺を呼ぶ。
「待ってくれー!!!」と叫ぶも、俺の声はもう届かない……

 そして──、

 見る見るうちに水位が下がっていくプール。このままではヤバイ……プールサイドにはまだまだ大勢の人が居る。とその時、俺の海水パンツが浮いているのが見えた!

     見つけたぁぁぁぁ!!

 俺は海水パンツに向かって全力クロール!!    しかし進めど進めど距離が縮まらない。よく見れば、俺の海水パンツは『ラッコさん』のお腹の上でパシャパシャと弄ばれていたのだ!!

「こんのクソラッコがぁぁぁぁぁ!!!!」

 怒りMAXでラッコを追いかけるも、水中戦で俺に勝ち目など無かった。
    時間だけが過ぎていく……
    気づけば水位は腰の下まで下がっていた。

     終わりだ。何もかも……

 俺は腹を括った。どうせ晒すならカッコよく!    と。

 目を閉じ、両手を天高く上げ、覚悟のポーズを取る。そしてついにその時は訪れた。

    母ちゃん、産んでくれてありがとう!!    俺、こんなに立派になったよ!

 ■■■■

 ゆっくりと目を開ける。物凄く怖かった。

    何もかも失うその時を、俺は受け入れられるだろうか……

 否!!

 なんと、俺の大切な部分は、大切な仲間達により隠されていたのだ!!
 三方向をサタコ、シー、サクが見事な連携でガードしていている!

「お前ら……」

 俺は泣いた。

「せめて前方はシーじゃなく、サクが守れよな……」


 ■■■■

 その後ラッコさんに海水パンツを返してもらい、何事も無かったかのように大吉達と合流した。
     色々ありすぎたせいで、俺は複雑な気持ちで夕方までプールで遊ぶ事になった。

 帰り道──、

「おう!    恭!    楽しかったなー!」

 と大吉が笑顔で話しかけてきたが、「そうだな」と小さく返すのが精一杯だった。

    天国が一転して地獄に変わった、夏の勇者の物語。
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