凶から始まる凶同生活!

風浦らの

文字の大きさ
上 下
10 / 90
第一章【出会い編】

初めてのお出かけ

しおりを挟む
    俺の大学生活はGWに突入していた。GWと言えば、以前大吉が計画してくれた動物園計画がある。そして今日はその当日。俺は楽しみ半分、不安半分で家を出ていた。と言うのも──、

「恭、動物園には魔獣が沢山いるんだろ?    楽しみだな」
「そうだな」

    動物園には爆弾を背負って行く事になっていたからだ。前日どこで嗅ぎつけたか、サタコの執拗な“連れて行け”攻撃に屈した俺は、渋々連れていくことにしていた。弱いと言っても俺にしてみれば、この子の機嫌しだいで地獄のような生活が待っているからだ。

    取り敢えず皆と合流する前に、お菓子でも買って行こうかと、途中のコンビニに寄ってみた。当然サタコはお店・・に来るのは初めてで、店内の商品の数々に目を輝かせている。そして、暫く目を離した隙に、店の奥から大量のお菓子を抱えてやって来た。

「おい恭。これも持っていこう」
「歩けねぇ程抱えてくるんじゃねぇ!    大体そんなに買える程お金をもってねぇんだよ」
「お金?」
「ここにシールが貼ってあるだろ?   これは百円、これは二百円、コレなんか千円だぞ。大体髭剃りなんて必要ねぇだろ。さっさと戻して来い」

    俺に怒られて、あからさまにブー垂れるサタコさん。しかし魔王様の執念はこんなものでは無かった。何やら思いついた様子で、ワンピースにくっついていたポケットに手を突っ込むと、中から油性ペンを取り出した。

    アンタはドラ〇もんですか?!

    そして、下手くそな数字を値札シールの上から書き出したのだ。

「見ろ恭。これは十円、これは二十円、そしてこの髭剃りはなんと一円だぞ。喜べ」
「ちょっと、何勝手なことしてんの!    お店の物にそんな事しちゃダメでしょうがぁ!!」
「えっ?」
「大体こんな事しても意味ねぇんだよ。お会計の時は、このバーコードってやつを機械で読み取って値段を調べるんだ。しょうがねぇから、値札を剥がして戻して来い」

    わかったのか観念したのか、サタコは渋々商品を担いでお店の奥に消えて行った。

    ちっ、だから連れてきたくなかったんだよな。この先が思いやられるぜ。

    俺は長持ちしそうな飴やグミ、飲み物等を一通り手に取りレジへと持っていった。

「いらっしゃいませー、お会計はこちらでーす」

   綺麗な店員さんの前に、持ってきた商品を並べる。飴、グミ、お茶、バームクーヘン。

   バームクーヘン?   こんなの選んだっけな?

   おかしいと思っていたところ、レジ台から小さな手が引っ込んでいくのが見えた。

   くっ、コイツ……金がねぇって言ってるのに……まぁ、しょうがねぇ。もうめんどくせぇからかってやるか。

「以上で宜しいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「では失礼しまーす」

    店員さんが商品を手に取りレジに通していく。飴、グミ、お茶、バームクーヘン──、

「え、いや、ちょ」

   その時俺には見えてしまった。不自然に油性ペンで塗りつぶされた、バームクーヘンに付いているバーコードを──、

「お会計は、十三万三百円でございまーす」
「ちょっ、おかしいでしょ!   気づいてよお姉さん!」
「えー?   でもレジには確かに十三万三百円って出てますけど?」
「ああ、もういいです。全て俺のせいなんです……あの、申し訳ないんですけど、そのバームクーヘンはキャンセルでお願いします」

   キャンセルと言う一言を聞いたサタコは、そんな馬鹿なと言わんばかりの表情でこちらを見ているが、そんな事は関係ない。何もしなければ買ってやった物を。

「では、お会計は三百円でございまーす」
「はい、お願いします」

レジでお会計を済ませた俺達は、集合場所の駅へと向かった。道中、納得のできないサタコさんがブツブツ煩かったが、何かを発見して一気にご機嫌が回復した。

「おぉー恭!   見ろ見ろ!   鉄の塊が列を成して走っているぞ!   あれはなんだ?」
「ああ、あれは電車って言ってな、今からあれに乗るんだよ」
「ほー、へー、あの魔獣に乗るのか。楽しみだな」

    サタコにとっては、見るもの全てが新鮮なのだろう。一つ一つのリアクションが、俺にとっても新鮮でその点だけは一緒に居て楽しい。駅での待ち合わせの最中も、アレはなんだと質問攻めを受けていた。

「よう、恭!    あれ?    今日はサタコちゃんも一緒なのか?」
「おはよう恭君!    サタコちゃん!」

 待つこと五分、大吉とユキちゃんが合流する。やはりサタコを連れてくるのは嫌だった……早起きして、さっさとラックドレイン済ませてのんびり遊びたかったなと、二人を前にして思った。サタコが二人に変な事をしないか気が気ではないのだ。

「しかし恭はサタコちゃんにベッタリだな?    もしかしてシスコンか?」
「シスコン。知っておるぞ、妹を大好きなお兄ちゃんの事だな」
「サタコちゃん難しい言葉知ってるんだねー!    すごーい!」

 不覚にもユキちゃんに褒められ、頭をなでなでされているサタコを見て羨ましいと思ってしまった。それにしても意外だったのは、サタコがそんな言葉まで知っていたことだ。魔王の知識は半端ではない。

「他にも知っておるぞ、『幼女』『メイド』『ロリコン』『猫ミミ』全部恭の漫画で覚えたぞ」

 おいぃぃぃ!    このおチビさん何サラッと俺の恥ずかしい趣味バラしちゃってんの!?

 俺は咳払いをし、取り敢えず電車に乗ろうと促す。大吉は、「にひひっ」と、にやけながらも従ってくれる。流石の親友。

「あ、ちょっと待って!    実はもう一人来る予定なの」
「え?    ユキちゃんの友達?」
「そうそう!    あ、来た来た!    噂をすれば」

 少し遅れて申し訳なさそうにしてやって来たのは、黒い髪を左右で束ねたツインテールに、眠そうな目をした女の子だ。でもどこかで見たことあるような……

「紹介するわ、同じ大学の『天神 瑞てんじんしるし』ちゃんよ!    珍しい名前だけど、『シルシル』って呼んであげて!」
「ども、初めましてシルシルです。神社で巫女もやっています。今日は宜しくお願いします」

 ──!!

 思い出した。俺が十二連敗した神社の巫女さんだ。まさか同じ大学に通っていたとは。しかし初対面で『シルシル』はハードル高いぜ……

「おう!    宜しくシルシル!」
「シルシルか。変な名前だな。プクク」

 お前等すげぇな。

 俺も負けじと呼んでみる、この流れを切らしてはならない。流れに乗るのだ。頑張れ佐藤恭!

「よ……宜しく!シルシル……」

「皆さん宜しくです。あ、凶さんですよね?    覚えています。十二連敗の凶さん」

 何故俺の名前を知っている!?    そう言えばあの時、自分の名前叫んでいた様な気もするが。

「なんか違うような気もするけど、そうだね……十二連敗の凶さんです。宜しく」

 皆の頭の上に『?』が浮かんでいるのが見えたが、ようやく全員揃ったので早速出発だ!    目指すは上野動物園!!

 取り敢えず切符を買わなければならないのだが、サタコは一体何歳なのだろうか。見た目的には子供料金でも行けそうなんだが……

「ねーねー、サタコちゃんって何歳なの??」

 絶妙のタイミングでユキちゃんが聞いてきた。それは俺も気になっていた所だ。

「私か?私は八百十……
「十一歳だよ!    十一歳!!」

 サタコの言葉に被せて咄嗟に十一歳と答えたが、果たして見えるか?    中学生に見えなくもないが……

「サタコちゃんは小学生かー、じゃあ子供料金だね!    お姉ちゃんが切符買ってあげるよ」

 ユキちゃんが切符をサタコに手渡すと、サタコは物珍しそうにそれを眺めた。当然切符も初めてのなのだろう。

「サタコ、俺が手本を見せるから同じようにやるんだぞ?」

 サタコはコクコクと頷くと、俺が改札を抜けるのを真剣な目つきで見つめている。こういう時だけは可愛い。

 次はいよいよサタコの番だ。サタコは見様見真似で切符を入れると、勢いよく改札を走り抜けた!

 ──おお!

「見たか恭。これが魔王の力だ」
「いや普通だし。ならここに居る全員魔王になれるな」

 電車に乗り込んでからもサタコのテンションは高い。

「見ろ!    恭!    鉄の塊がすごい速さで走っているぞ!」
「そうだな、驚いたか?」
「見ろ!    見ろ!    恭!!    鉄の塊が土の中に潜ったぞ!!」
「地下鉄だからな。凄いか?」
「なぁ?    恭」
「今度はなんだよ」
「お腹がすいた。ご飯にしよう」
「それはせめて目的地に着いてからにして下さいぃぃぃ!!」

    目的地に着くにも一苦労。動物園ではいい子に出来るか、今から不安で押しつぶされそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...