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第1章 彼はそれを密室と呼ぶ
第9話 暗雲
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「ライズくん」
そこにいたのはライズだった。
リィエンが助手を務める魔法薬学の教師であり、例の魔法薬学保管庫の管理人。
その立場から彼は、あの事件が発覚してからずっと、休みなく働いていた。
「ライズくん、それで……」
どうだった?と。
尋ねかけた言葉をリィエンは飲み込んだ。
つい先ほどまで、ライズは校長室にいた。
だから、そこでどんな話があったか聞きたかったのだけど。
「リィエン?」
「……なんでもないよ。それよりどうしたの?」
「ついさっき、魔法執判官が到着したと連絡があったんだ。これから迎えに行くんだが——」
「僕も行くよ」
リィエンは広げてあった資料を手早くしまうと、ライズと共に足早に部屋を抜ける。
扉を閉める寸前、いくつもの視線が自分たちにそそがれるのを感じながら——リィエンはそれらをすべて無視し、外へ出た。
パタン。
扉が閉まると、とたんに夕闇に包まれる。
数時間ぶりに出た廊下は、すっかり薄暗くなっていた。
まだ1日も経っていないのに。
あの春の光の下、ふたりで荷物を運んだあの時間がずいぶん昔のことのように感じられる。
(あのときは、こんなことになるなんて……)
魔法薬学保管庫に荷物を運び入れようとしたあのとき。扉の向こうに見えたのは、仰向けに倒れた男子生徒の死体だった。
腹部につき立ったナイフに、見開いたままの瞳。
真相はわからないが、それでもリィエンが真っ先に思い浮かべたのは、殺人だった。
「それで、ブラスヴァリー校長とはどんな話を?」
校舎の出口に向かいながら、リィエンはようやく、ライズに聞きたかったことを尋ねる。
「ああ、魔法薬学保管庫の管理状況について色々と。鍵の保管方法とか、部屋の結界とか。そういう話だな」
「今後については?」
「魔法執判官の捜査に協力するように言われた。あの部屋のことは俺たちが一番詳しいし……校長や上役たちは今、対外的なことで忙しいからな」
「その、魔法執判官っていうのは?」
「ん?」
ライズは意外そうな顔をして、すぐに納得したようにうなずいた。
「そうか、リィエンの国にはいないんだな。魔法執判官は、そうだな。簡単に言えば……魔法の事件専門の警察みたいなものだな」
この世界で、魔法が使える者の割合は5%程度と言われている。
その5%の魔法使いたちが起こす魔法絡みの事件は、当然、普通の警察の手には負えない。
だからそのような事件は通常、魔法執判官と呼ばれる特殊な職業の者が捜査にあたる。
彼らは一般の警察よりも多くの権限を与えられており、時にはその場で事件に対する処罰を【判】断し、刑を【執】行する。
それで、魔法執判官と呼ばれていた。
「警察……」
学校で生徒が死亡したとなれば、捜査が入るのは当然だろう。
けどどうしても、リィエンは警戒を強めてしまう。
「校長は、……君のことについては、なにか?」
「俺のこと?」
ライズが不思議そうな顔をする。
その様子を、リィエンはつぶさに観察する。
リィエンから見て、ライズは疲れてそうではあったが、なにか深刻な事態に陥ってそうには見えなかった。
そのことに、少しだけ安堵する。
「何もないなら、それでいいよ」
そこで一旦会話が途切れる。
同時に、薄暗い廊下の向こうに外へ出る通用口が見えてきた。
扉に近づくと、先を行くライズが慣れた手つきでそれを押し開ける。
そして一歩踏み出して——足を止めた。
そこには。
そこにいたのはライズだった。
リィエンが助手を務める魔法薬学の教師であり、例の魔法薬学保管庫の管理人。
その立場から彼は、あの事件が発覚してからずっと、休みなく働いていた。
「ライズくん、それで……」
どうだった?と。
尋ねかけた言葉をリィエンは飲み込んだ。
つい先ほどまで、ライズは校長室にいた。
だから、そこでどんな話があったか聞きたかったのだけど。
「リィエン?」
「……なんでもないよ。それよりどうしたの?」
「ついさっき、魔法執判官が到着したと連絡があったんだ。これから迎えに行くんだが——」
「僕も行くよ」
リィエンは広げてあった資料を手早くしまうと、ライズと共に足早に部屋を抜ける。
扉を閉める寸前、いくつもの視線が自分たちにそそがれるのを感じながら——リィエンはそれらをすべて無視し、外へ出た。
パタン。
扉が閉まると、とたんに夕闇に包まれる。
数時間ぶりに出た廊下は、すっかり薄暗くなっていた。
まだ1日も経っていないのに。
あの春の光の下、ふたりで荷物を運んだあの時間がずいぶん昔のことのように感じられる。
(あのときは、こんなことになるなんて……)
魔法薬学保管庫に荷物を運び入れようとしたあのとき。扉の向こうに見えたのは、仰向けに倒れた男子生徒の死体だった。
腹部につき立ったナイフに、見開いたままの瞳。
真相はわからないが、それでもリィエンが真っ先に思い浮かべたのは、殺人だった。
「それで、ブラスヴァリー校長とはどんな話を?」
校舎の出口に向かいながら、リィエンはようやく、ライズに聞きたかったことを尋ねる。
「ああ、魔法薬学保管庫の管理状況について色々と。鍵の保管方法とか、部屋の結界とか。そういう話だな」
「今後については?」
「魔法執判官の捜査に協力するように言われた。あの部屋のことは俺たちが一番詳しいし……校長や上役たちは今、対外的なことで忙しいからな」
「その、魔法執判官っていうのは?」
「ん?」
ライズは意外そうな顔をして、すぐに納得したようにうなずいた。
「そうか、リィエンの国にはいないんだな。魔法執判官は、そうだな。簡単に言えば……魔法の事件専門の警察みたいなものだな」
この世界で、魔法が使える者の割合は5%程度と言われている。
その5%の魔法使いたちが起こす魔法絡みの事件は、当然、普通の警察の手には負えない。
だからそのような事件は通常、魔法執判官と呼ばれる特殊な職業の者が捜査にあたる。
彼らは一般の警察よりも多くの権限を与えられており、時にはその場で事件に対する処罰を【判】断し、刑を【執】行する。
それで、魔法執判官と呼ばれていた。
「警察……」
学校で生徒が死亡したとなれば、捜査が入るのは当然だろう。
けどどうしても、リィエンは警戒を強めてしまう。
「校長は、……君のことについては、なにか?」
「俺のこと?」
ライズが不思議そうな顔をする。
その様子を、リィエンはつぶさに観察する。
リィエンから見て、ライズは疲れてそうではあったが、なにか深刻な事態に陥ってそうには見えなかった。
そのことに、少しだけ安堵する。
「何もないなら、それでいいよ」
そこで一旦会話が途切れる。
同時に、薄暗い廊下の向こうに外へ出る通用口が見えてきた。
扉に近づくと、先を行くライズが慣れた手つきでそれを押し開ける。
そして一歩踏み出して——足を止めた。
そこには。
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