3 / 35
第三話 完全転生
しおりを挟む――ユーリ。貴方は今日からユーリよ。
――ユーリ……うむ! 中々良い名ではないか。俺も賛成だ。
薄っすらと誰かの声が聞こえてくる。男の人の声と女の人の声だ。
聞き覚えは……もちろんない。
(俺は……あれからどうなったんだ?)
確かすっごく大きな光の渦に身体ごと飲まれてそれから……
――ああ、流石は私の可愛い息子。私に似て、可憐な顔立ちをしているわ。
――なっ、何を言うか! ユーリは俺に似て、逞しく男らしい顔立ちをしているではないか!
――いいえ、この子は私似ですよ。
――違う! 俺似だ!
……なんかうるさいな。
さっきから私に似ているとか俺に似ているとかよく分からない論争が耳元に入って来る。
というか、誰に対して争っているんだ?
(それに俺は今、どういう状態になっている?)
何も見えず、感覚という感覚が失われていた。
ただ先ほどと違うのが意思が自由に制御できるのと別に聴覚があったということくらい。
だがそれ以外は何もできなかった。
(クソ、またこのパターンかよ)
そう思い、嘆いていたその時だった。
『完全転生、完了。意思操作及び聴覚以外の行動制限を解除する』
またもさっきのように耳元で囁いてくる誰かの声。
これは……俺がさっきまで話していた女の人の声だった。
(確かだいせいじゃ? とか最後に言っていたような……)
しかしその声を聞いた途端、俺の身体に変化が現れ始めた。
(な、なんだ? 身体が……)
突然、身体全体の感覚が瞬時に戻って来る。
先ほどまでは薄っすらとした聞こえてこなかった何者かの声も鮮明に聞こえてくるようになり、まるで固まっているかのように動かなかった身体は自由を得た。
もちろん、視覚も徐々に回復していき、俺はそっと目を開けた。
すると視界に入ったのは、
「あっ、あなた! ユーリが……ユーリが目を開けたわ!」
「なにっ!? そりゃ本当か!」
そんな会話が聞こえてくると同時に俺の視界にも何者かの顔が目に映る。
最初に映ったのは……滅茶苦茶美人な白銀の髪を持つ女の人だった。
(だ、誰だ? この美人は……)
視界は鮮明。まったく曇ることなく、その顔は俺の脳に焼き付いていく。
もちろん見覚えはない。
そしてもう一人、視界に入る者がいた。
今度は漆黒の髪にもみあげから繋がっている顎鬚が印象的な男の人。
恐らく、元冒険者か何かだろう。
かなり身体はガッチリとしており、とにかく図体が大きかった。
だがもちろん、この人にも見覚えはない。
(どうなってんだ? ここは一体……)
どこなんだ……?
まったくもって現状況が読めない。
俺はとりあえず彼らに情報を聞き出すべく、言葉を発しようとしたその時だった。
「……あ、えう……」
……あれ? おかしいな。
上手く舌が回らない。というか、言葉を喋ることができなかった。
「……う、えあ……」
やはり何度試してみてもまともに言葉すら発することが出来ない。
ただ口だけは動かすことができ、その意思を声に出すことだけが無理だった。
「あ、あなた今の見た? ユーリが何か話そうとしていたの!」
「あ、ああもちろんだ! まさかこんなにも早く声を聞くことができるとはな!」
目を輝かせながら、こちらを見つめてくる大人二人。
何をそうさせるのか全く持って意味不明であったが、今はそんなことはどうでもよかった。
それよりも……
(なぜ喋ることができない?)
別にふざけているわけじゃない。真剣にやった結果がこれだった。
でも彼らの言葉は聞き取ることができる。
俺はその摩訶不思議な現象に理解が追い付いていなかった。
一応、いくつかの可能性は考えられるが、どれも非現実的な仮説ばかり。
考えれば考えるほどバカらしくなってくるほどの仮説だが……一概に否定ができないのも事実だった。
「ね、あなた。私が先にユーリを抱っこしてもいい?」
「な、なに! お前が先にユーリを抱っこしたいと言うのか?」
「ええ、そうよ。ダメかしら?」
「……ぐぬぬ。気は進まないが、まぁよかろう。こんなにも可愛い我が息子を生んでくれたのはお前だからな」
「うん、ありがと」
会話の後、その美人な女の人が男の人の頬にキスをし、男の方の顔はみるみる赤くなっていく。
(ちくしょう。恋人すらできたこともない俺の目の前で堂々とイチャつきやがって……)
過去の暗く悲しい出来事が瞬時に俺の脳内に蘇る。
すると俺は女の人にそっと抱えられると、彼女の腕の中に収まる。
「どう? ユーリ。初めての抱っこは」
温かった。幼い頃に感じた今は亡き母の温もりに近しいものがそこにはあった。
(懐かしいな。昔はこうして母さんに抱っこしてもらってたっけ)
ノスタルジーに浸り、次々と過去の出来事が思い返される。嫌なことも嬉しかったことも全て。
だがしかしだ。俺はそれと同時に、ある一つの事実を悟った。
一応、可能性の一つとして考えていたことではあったが……
「ほーら、ユーリ。このかっわいい天使みたいな子があなたですよ~」
女の人は俺の身体を揺さぶりながら、身の丈以上にもなる大鏡の前へと立ち、自身の姿を見せた。
そしてその瞬間、今まで分からないことづくしだった謎の全てが解明されることとなった。
その鏡に映っていたのは女の人と、その人に抱きかかえられる小さな生命。
特有のプクッとした小さな手に、まだ髪の毛すらも生えそろっていない丸っこい頭。
身体は小さく、少し太り気味であった。
そう……俺の目に映ったのは一人の赤ん坊の姿。
そして、その赤ん坊こそが紛れもない俺自身だったのである。
0
お気に入りに追加
2,179
あなたにおすすめの小説
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。
風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。
※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる