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03.貴方は異常です!

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 さて、とりあえず話が全く読めないので少女から話を聞くことにしました。
 で、今は場所を変えてさっきの酒場に戻ってきたわけだが……。

「身体の方は大丈夫か? お怪我とかは……」

「だ、大丈夫です。本当に助けていただいてありがとうございます。貴方が来てくださらなかったら今頃わたしは……」

 間違いなく死んでいただろうな。
 俺も良かったよ。事が起こる前で。

 殺された後だったら、どんなに辛い思いをしたことか。
 ただでさえ精神的に負荷がかかっていた時に人の死体なんて見せられたら、それこそ恐ろしいことになる。

 本当に良かった。助けてあげることができて。

「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたしはソフィアと申します」

「俺はランス。ランス・べルグランドだ。よろしくな、ソフィア」

「こ、こちらこそよろしくお願いします……!」

 互いに自己紹介を済ませ、ぺこっとお辞儀。

「……で、さっきの話の続きなんだけど、魔法を教えてほしいっていうのはどういうことで?」

 いよいよ本題へ。
 俺はジョッキに入ったジュースを片手にソフィアに問う。

 するとソフィアは少しモジモジしながら、

「こ、言葉通りの意味です。わたし、実はまだ冒険者になったばかりで、魔法も最近になって勉強し始めたんです。あそこにいたのも勉強した魔法を試そうと思っていて……」

「だからあんな森の中に一人でいたってことか……」

「はい。でも、実践していくにつれて思ったんです。より強くなるには自分の力だけじゃダメなのかなって……」

 と、言った。

(なるほど。だから魔法が得意そうな人間に教えてもらおうとしたってわけか)
 
 意味は分かった。

 だが俺はその言葉に一つ、疑問を呈した。

「でもなんで俺なんだ? 正直、俺は人に教えられるほど魔法が達者なわけじゃ――」

「そんなことありませんっ!」

「うおっっ!?」

 いきなりバンと机を叩き、立ち上がるソフィア。
 だがすぐに「はっ」と我に返ると、「ごめんなさい」と言ってちょこんと座った。

「そんなことないです。貴方のさっきの魔法、わたしはこの二つの目でしっかりと見ました。わたしは今まで仕事柄色々な魔法を見てきましたが、あんな魔法はみたことありません」

「そ、そうなのか?」

 てか仕事柄ってソフィアは一体何の仕事をしているんだ?
 逆にそっちの方が気になってしまうところだ。

「それに、あんな強大な魔法を無詠唱で発動できるのもおかしいです。通常、あのレベルの魔法なら術式解析だけでもかなりの時間を有するはずなのに」

「は、はぁ……」
 
 術式解析とは呪文詠唱のことを指す魔法用語だ。
 予め魔法ごとに決められた呪文を言葉で綴ることで複雑化した術式の紐を解いていく。

 俺の場合、そんなの面倒だからすっ飛ばしているわけだが、ソフィアの話から察するにそれは普通ではないみたい。

 というか……

(俺の魔法ってそんなにすごいのか?)

 確かにこの一年で結構成長したと思う。
 さっきの魔法だって一年前と比べたらたいぶ腕を上げたと実感できたほどだった。

 魔法の威力、弾速、魔法を放つ際にかかる魔力負荷の軽減。

 全てにおいてレベルアップはしていた。

 でも、おかしいとまで言われるレベルであるかは俺には分からなかった。

 だってオレ、冒険者になってから今までずっと一人でやってきたから他の人の魔法なんて見たことないし。

「そ、そこまでスゴイのか? 俺の魔法って……」

「スゴイも何も超スゴイですよ! 異常レベルです!」

「い、異常……」

 もちろん、自覚はない。
 でもソフィアがお世辞で言っているとも思えなかった。

 もしそうなのだと仮定するとしたら、なんで俺は――

「――殿下! 殿下はいらっしゃらないか!?」

「んっ!? なんだなんだ?」

 突然、バタンと酒場の扉が豪快に開くと、中から数名の鎧をきた集団が現れた。
 
(あれって……国家騎士じゃないか?)

 胸元にある紋章を見ると、王国軍直轄の騎士たちであることがすぐに分かった。

 でもなぜだろう? みんな汗だくなりながら、慌てている様子だった。

「なんでこんなところに騎士様が……ねぇソフィア?」

「そ、そう……ですね」

「……?」

 何故かソフィアは騎士たちの方を向かず、ずっと違う方向を見ていた。
 しかもローブを慌てて着て。

 まるで自分の顔を隠しているかのようだった。
 
 すると、その国家騎士たちがドスドスと音を立てながらこちらに寄ってきた。
 そして先頭に立つゴッツイ騎士様が俺たちのテーブル前でスタッと止まると、

「歓談中に申し訳ない。この店にソフィア=フォン・グリーズ殿下がいらっしゃらなかっただろうか?」

 と、聞いてきた。

「ソフィア=フォン・グリーズって……あの第一王女様のことですか?」

「左様だ。我々は今、王女殿下の捜索の任を受け、行方を捜している最中なのだ」

「行方不明なんですか?」

「ああ……ここ数日、城にお戻りになっていないと国王陛下からお達しがあってな。今、国家騎士たちを総動員させて王都内を探し回っている」

 へぇ……そりゃ大変だ。
 そういえばギルドに向かう途中で何人か走りゆく国家騎士たちを目撃したっけ。

 あれはそういう意味だったのか。
 
 てかちょっと待てよ。
 確か今、ソフィアって言わなかったか?

「そちらのローブのお方も殿下を知らないだろうか?」

 今度はソフィアの方へ騎士たちの注目が集まる。

「い、いえ……存じ上げていません」

 ソフィアは小声でそう答えると、フードをさらに深く被る。
 だが、先頭にいた騎士様はその行動に何かを感じたのか「ん?」と眉を歪めると、

「いきなりで申し訳ないが、顔を見せてはくれないだろうか?」

 そう言って、ソフィアを見る。

「い、嫌です……わたし、あまり人に顔を見られるのが好きじゃないんです」

 いや、さっきまで堂々と俺にその面見せていたけど……?
 ソフィアの謎行動に俺は首を傾げる。

 だが次の瞬間、先頭に立っていたゴッツイ騎士様が「はぁ」とため息を漏らすと、

「……バレバレですよ、ソフィア殿下。そんなことでは私の目は誤魔化せません」

 と、言う。

「え? ソフィア殿下?」

 俺はまだ状況を理解できていなかった。

「やっぱり、分かっていたのですね。アルバート」

 ソフィアも諦めがついたのか、フードを取り、その素顔を露わにする。

「もちろんです。殿下がご誕生成された時から仕えて早20年、こんな変装も見破れないようでは国家騎士失格というものです」

「え、え……?」

 一人空気になるオレ。
 情報整理が追い付いていない中、ソフィアは俺の方へと視線を合わせてきた。

「ごめんなさい、ランスさん。隠すつもりはなったのですが……」

「隠す? ということはソフィアって……」

「はい。わたしの本名はソフィア=フォン・グリーズ。グリーズ王国の王女で現国王、フォルト=フォン・グリーズの実娘です」

「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 まさかの真実に、俺の驚嘆の声は酒場中に響き渡った。
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