3 / 160
03.貴方は異常です!
しおりを挟むさて、とりあえず話が全く読めないので少女から話を聞くことにしました。
で、今は場所を変えてさっきの酒場に戻ってきたわけだが……。
「身体の方は大丈夫か? お怪我とかは……」
「だ、大丈夫です。本当に助けていただいてありがとうございます。貴方が来てくださらなかったら今頃わたしは……」
間違いなく死んでいただろうな。
俺も良かったよ。事が起こる前で。
殺された後だったら、どんなに辛い思いをしたことか。
ただでさえ精神的に負荷がかかっていた時に人の死体なんて見せられたら、それこそ恐ろしいことになる。
本当に良かった。助けてあげることができて。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。わたしはソフィアと申します」
「俺はランス。ランス・べルグランドだ。よろしくな、ソフィア」
「こ、こちらこそよろしくお願いします……!」
互いに自己紹介を済ませ、ぺこっとお辞儀。
「……で、さっきの話の続きなんだけど、魔法を教えてほしいっていうのはどういうことで?」
いよいよ本題へ。
俺はジョッキに入ったジュースを片手にソフィアに問う。
するとソフィアは少しモジモジしながら、
「こ、言葉通りの意味です。わたし、実はまだ冒険者になったばかりで、魔法も最近になって勉強し始めたんです。あそこにいたのも勉強した魔法を試そうと思っていて……」
「だからあんな森の中に一人でいたってことか……」
「はい。でも、実践していくにつれて思ったんです。より強くなるには自分の力だけじゃダメなのかなって……」
と、言った。
(なるほど。だから魔法が得意そうな人間に教えてもらおうとしたってわけか)
意味は分かった。
だが俺はその言葉に一つ、疑問を呈した。
「でもなんで俺なんだ? 正直、俺は人に教えられるほど魔法が達者なわけじゃ――」
「そんなことありませんっ!」
「うおっっ!?」
いきなりバンと机を叩き、立ち上がるソフィア。
だがすぐに「はっ」と我に返ると、「ごめんなさい」と言ってちょこんと座った。
「そんなことないです。貴方のさっきの魔法、わたしはこの二つの目でしっかりと見ました。わたしは今まで仕事柄色々な魔法を見てきましたが、あんな魔法はみたことありません」
「そ、そうなのか?」
てか仕事柄ってソフィアは一体何の仕事をしているんだ?
逆にそっちの方が気になってしまうところだ。
「それに、あんな強大な魔法を無詠唱で発動できるのもおかしいです。通常、あのレベルの魔法なら術式解析だけでもかなりの時間を有するはずなのに」
「は、はぁ……」
術式解析とは呪文詠唱のことを指す魔法用語だ。
予め魔法ごとに決められた呪文を言葉で綴ることで複雑化した術式の紐を解いていく。
俺の場合、そんなの面倒だからすっ飛ばしているわけだが、ソフィアの話から察するにそれは普通ではないみたい。
というか……
(俺の魔法ってそんなにすごいのか?)
確かにこの一年で結構成長したと思う。
さっきの魔法だって一年前と比べたらたいぶ腕を上げたと実感できたほどだった。
魔法の威力、弾速、魔法を放つ際にかかる魔力負荷の軽減。
全てにおいてレベルアップはしていた。
でも、おかしいとまで言われるレベルであるかは俺には分からなかった。
だってオレ、冒険者になってから今までずっと一人でやってきたから他の人の魔法なんて見たことないし。
「そ、そこまでスゴイのか? 俺の魔法って……」
「スゴイも何も超スゴイですよ! 異常レベルです!」
「い、異常……」
もちろん、自覚はない。
でもソフィアがお世辞で言っているとも思えなかった。
もしそうなのだと仮定するとしたら、なんで俺は――
「――殿下! 殿下はいらっしゃらないか!?」
「んっ!? なんだなんだ?」
突然、バタンと酒場の扉が豪快に開くと、中から数名の鎧をきた集団が現れた。
(あれって……国家騎士じゃないか?)
胸元にある紋章を見ると、王国軍直轄の騎士たちであることがすぐに分かった。
でもなぜだろう? みんな汗だくなりながら、慌てている様子だった。
「なんでこんなところに騎士様が……ねぇソフィア?」
「そ、そう……ですね」
「……?」
何故かソフィアは騎士たちの方を向かず、ずっと違う方向を見ていた。
しかもローブを慌てて着て。
まるで自分の顔を隠しているかのようだった。
すると、その国家騎士たちがドスドスと音を立てながらこちらに寄ってきた。
そして先頭に立つゴッツイ騎士様が俺たちのテーブル前でスタッと止まると、
「歓談中に申し訳ない。この店にソフィア=フォン・グリーズ殿下がいらっしゃらなかっただろうか?」
と、聞いてきた。
「ソフィア=フォン・グリーズって……あの第一王女様のことですか?」
「左様だ。我々は今、王女殿下の捜索の任を受け、行方を捜している最中なのだ」
「行方不明なんですか?」
「ああ……ここ数日、城にお戻りになっていないと国王陛下からお達しがあってな。今、国家騎士たちを総動員させて王都内を探し回っている」
へぇ……そりゃ大変だ。
そういえばギルドに向かう途中で何人か走りゆく国家騎士たちを目撃したっけ。
あれはそういう意味だったのか。
てかちょっと待てよ。
確か今、ソフィアって言わなかったか?
「そちらのローブのお方も殿下を知らないだろうか?」
今度はソフィアの方へ騎士たちの注目が集まる。
「い、いえ……存じ上げていません」
ソフィアは小声でそう答えると、フードをさらに深く被る。
だが、先頭にいた騎士様はその行動に何かを感じたのか「ん?」と眉を歪めると、
「いきなりで申し訳ないが、顔を見せてはくれないだろうか?」
そう言って、ソフィアを見る。
「い、嫌です……わたし、あまり人に顔を見られるのが好きじゃないんです」
いや、さっきまで堂々と俺にその面見せていたけど……?
ソフィアの謎行動に俺は首を傾げる。
だが次の瞬間、先頭に立っていたゴッツイ騎士様が「はぁ」とため息を漏らすと、
「……バレバレですよ、ソフィア殿下。そんなことでは私の目は誤魔化せません」
と、言う。
「え? ソフィア殿下?」
俺はまだ状況を理解できていなかった。
「やっぱり、分かっていたのですね。アルバート」
ソフィアも諦めがついたのか、フードを取り、その素顔を露わにする。
「もちろんです。殿下がご誕生成された時から仕えて早20年、こんな変装も見破れないようでは国家騎士失格というものです」
「え、え……?」
一人空気になるオレ。
情報整理が追い付いていない中、ソフィアは俺の方へと視線を合わせてきた。
「ごめんなさい、ランスさん。隠すつもりはなったのですが……」
「隠す? ということはソフィアって……」
「はい。わたしの本名はソフィア=フォン・グリーズ。グリーズ王国の王女で現国王、フォルト=フォン・グリーズの実娘です」
「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
まさかの真実に、俺の驚嘆の声は酒場中に響き渡った。
3
お気に入りに追加
1,502
あなたにおすすめの小説
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~
神城弥生
ファンタジー
なろう小説サイトにて「HJ文庫2018」一次審査突破しました!!
皆様のおかげでなろうサイトで120万pv達成しました!
ありがとうございます!
VRMMOを造った山下グループの最高傑作「Another Of Life Game」。
山下哲二が、死ぬ間際に完成させたこのゲームに込めた思いとは・・・?
それでは皆様、AOLの世界をお楽しみ下さい!
毎週土曜日更新(偶に休み)
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる