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第4章 おっさん、祭りに参加する
第82話 精神特訓3
しおりを挟む「俺の中の記憶を操作しただと?」
「そうだ。相手の記憶を簡易的に操ることができる極めて特殊な魔術、分類的には邪術に値するものだがな」
「ということはさっきのは……」
「お前にとって今一番大切なものだ。その記憶にオレが手を加え、お前の中に”偽り”を埋め込んだんだ」
「バカな……そんなことができる奴がいるなんて。あんた何者だ!」
相変わらず口の悪さは健在なのだな。少しはマシにはなるかなとは思っていたが……
「ま、そんなことは気にするな。とりあえず今はやるべきことに集中しろ」
「ちっ……バケモノめ」
バケモノ……ね。そんなことを言われていた時期もあったな。
特に魔王を倒してから後、英雄として祭り上げられていた時代だ。
俺のことを救世主として見ている群衆がいる中でひっそりと陰で批判する人も当然いた。力を持った人間は必然と批判を呼び込む。これは避けようにも避けられないことだ。
どんなに優れた権力者でも人間なのは変わりない。もちろん、それに従う民もまた人間。
人が集まるということは様々な思想が生まれるということだ。皆が皆、同じ意見、同じ考え方の世界なんてこの世に存在はしない。たとえあったとしてもそれは法か何かの権力的行使で縛られているに過ぎないのだ。
「身体はもういいのか?」
「ああ、むしろスッキリしたくらいだ。モヤモヤしていたものもなくなった気がする」
「精神的負荷に耐性が付いた証拠だ。精神欠陥もだいぶなくなっただろう。普通なら魔術解放の瞬間に苦痛で吐いてしまうものなんだが強靭な精神力に助けられたな」
「……せんせーはオレの”弱み”を知っていたのか?」
「別にそんな深い理由でこんなことをしたわけじゃない。ただお前の戦い方は迷いが見えた」
「迷い……?」
迷いというよりは何か悩みを抱えているような印象だ。さすがの俺も神レベルの能力を持っているわけではない。人の心を瞬時に読んだりすることはもちろん不可能だ。
だが推定することはできる。それも最も分かりやすい方法が相手の戦い方、いわゆるコンバットエクササイズをじっくりと観察することだ。
戦い方には十人十色、様々な戦闘方法がある。特に個人の性格が戦闘に反映されることケースはかなり多い。俺も昔は色々な奴と拳を交えてきた。それも一般冒険者から魔王までかなり幅は広い。
だからこそ俺はガルシアの中に抱えるもの、弱点を一瞬にして見つけ出すことができた。
俺が持つ唯一無二の経験が成す業ってやつだ。
「そんなことで人の中身を見れるってか。なんだよそれ……」
信じられないという表情をするガルシア。
仕方ないことだ。これは世間でいう離れ業に近いもの、誰にでもできるわけじゃない。
「とりあえずガルシア。此処には用は済んだ。皆の元へ戻るぞ」
俺たちはホールの出口へと向かい、扉を開ける。
その時だった。
「あら、レイナード先生じゃないの」
(げっ、フィオナ!)
扉を開けてすぐ目の前にフィオナは立っていた。
偶然を装っているが、確実にこれは待ち構えていたな。しかもなんかちょっと怒っているみたいだし……
(これは面倒なので相手をしないが吉だな)
俺はそのまま気づかないふりをしてその場を去ろうする、が……
「待ってくださいなレイナードせ・んせ・い」
フィオナは笑顔で俺の制服の襟元をグイッと引っ張り、逃がさないようにする。
「お、おうフィオナじゃないか。全然気づかなかったぞ」
「嘘はやめてくれないかしら?」
フィオナは目を細くし、じーっと見てくる。
まぁ確かに無理があるか……しっかりと目合っちゃったし。
「わ、悪かった悪かった。で、学園長様がわざわざこんな所に何の御用で?」
「何の御用? あなた、自分のしていることが分かっていて言っているのかしら?」
「な、何の話だ?」
もちろんフィオナが来た理由は分かる。施設の無断使用のことだ。
あのホールは使用許可が下りないと入れない。監視用魔道具もいくつか設置されてあるのも確認済みだった。監視役の人間がそれを発見し、フィオナに伝えたというところだろう。
しかしここはシラを切ってなんとかやり過ごすことにする。今はまわりくどい説教なぞされている暇なんてないからな。
だがフィオナは必死に逃げようと模索する俺を離さなかった。
「嘘をついても無駄よ。知っているわよね? あそこが無断使用禁止なの」
「へ、へぇ~そうだったのかぁ……知らんかったなぁ~」
あくまで嘘を通すことに専念する。
「はぁ……なるほどあくまで嘘を通す気ね。分かったわ。それならこっちにも考えがある」
そう言うとフィオナは何も言わず去っていった。
(ふ、ふぅ……なんとか切り抜けたな)
フィオナが最後に意味深な表情をしていたのは気になるがまぁいいだろう。
俺たちは急いでレーナ達の元へと戻った。
だがその2日後の給料日、俺は大幅に減額されていた給与明細を見てフィオナに速攻で謝りに行くという一連の事態が起ころうとはこの時の俺はまだ知る由もなかったのだった。
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