75 / 127
第4章 おっさん、祭りに参加する
第74話 小さな巨人
しおりを挟む
「信じられんな……」
噂に聞いていた仮面鬼との邂逅を果たし、困惑する。
完全に聞いていた話と違う。ミキからあんな話を聞かされたばかりだというのに驚異はまったく感じなかった。
(……それに魔技祭当日にしか顔を出さないって話じゃなかったか?)
俺的にはもっと屈強で見るからにインテリ系講師、というイメージが頭の中にあった。
だが実態は屈強さをまったく感じず、それにして身体は細身。言葉遣いもやんわりとして少しくたびれた感じの男だった。
顔はマスクですっぽりと覆われ、素顔を見ることはできなかったが声質から察するに年は結構重ねているような感じだった。
(やはりどう考えても信じがたいな……)
人を率いるようなカリスマ的なものも感じなければあっと驚くようなオーラも感じない。
俺の心中では沢山の疑念が交差していた。
「……あれ、レイナード先生?」
廊下を歩いていると後ろから俺の名を呼ぶ声がした。
少し高く澄んだような女子の声だ。
「ん? ああ、オルカか」
呼びかけてきた女子の正体はオルカだった。
オルカは今までロングだった紺色の髪をばっさりと切り、ショートヘアへとイメチェンを遂げていた。
「髪、切ったのか?」
「あ、はい。似合い……ますか?」
「ああ、すごく似合っているぞ」
「よ、よかったぁ……私、髪の毛が短いのはあまり自分には似合わないって思っていたので心配だったんです」
「いや、本当に似合っている。オルカは顔立ちが良いんだ。どんな髪型にしても似合うさ」
「そ、そんなこと……」
オルカは頬を少し赤く染め、すこしはにかむ。
それにしても女という生き物は髪型一つでこうも変わるものなんだな。前のオルカは可憐な所に変わりはないのだが若干、年頃の女の子と言った印象があった。だがショートにしたことで少し大人っぽく見えるようになった気がする。ニッコリ笑った時はオルカそのものなのだが真顔の時はどこか大人びた印象を受けた。
「それにしてもこんな時間まで何をしていたんだ? 初等部はとっくに下校時間のはずだが」
「ちょっと高等部の大書庫で勉強をしてまして……気が付けばこんな時間に」
「高等部の学術書が読めるのか?」
「はい。初等部、中等部にある書庫の学術書は一通り読み終えたので」
(ま、マジかい!)
仮にも此処、アロナード総合魔術学園は大陸でも五本の指に入り、国では最大規模を誇る書庫を持っている特殊な学園だ。
書庫も大きく分けて三つあり初等部、中等部、そして高等部にある大書庫がある。本のバリエーションも様々あり学術書を始め小説、ニュースペーパー、雑誌、標本、はたまた料理本といった趣味的なものまで一式揃っている。噂によれば学術書だけでも全部合わせて数百万点くらいあるとのことだ。
彼女はその半分ほどを既に網羅していたのだ。
「す、すごいな……初等部にいるのが勿体ないくらいだ」
「そんなことはないですよ。私なんてまだまだです。あ、でも今度中等部に飛び級することが決まったんですよ~!」
「そ、そうなのか? そりゃ凄いな」
「えへへ……なんか先生に「君の能力はもう初等部のものじゃない、中等部で新たな学びの場と知識を得てきなさい」って言われたんです」
ああ……こりゃ先生指導を放棄したな。
でもこればかりは仕方がないことなのである。彼女の才能は既に学園でも折り紙付きだ。一人の講師では手に負えなくなると言う気持ちは分からないでもない。つまるところ、その先生は下手したら自分より能力のあるオルカに絶望でもしたのだろう。
これは講師の世界では割とレアなケースであると前に講師統括が朝礼で言っていた。
(ま、オルカの能力は中等部でも手に負えないくらいだろうな)
恐らく数か月もしない内に高等部へ昇格してくるだろう。と、なると高等部1年で入って来るクラスとなればA組かB組になる。
近い未来、オルカに教える立場になる可能性がある。というか絶対にそうなるだろう。
俺はそう確信した。
するとオルカは何かモジモジしながら、
「あ、あの……先生。今、時間ありますか?」
「時間か? ああ、まぁ大丈夫だが」
こう答えるとオルカは少し安心したかのような仕草を見せる。
が、緊張しているのか言いづらいのかわからないが中々口が開かない。
「お、オルカ……?」
問いかけようとした時、彼女は大きな声で、
「そ、その……も、もしよければ私に実戦指導をしていただけないでしょうか!」
「うあっ! びっくりした! 実戦?」
「は、はい!」
いきなり大声を出してきたので思わずビクッとなってしまい終いには変な声まで出てしまった。
だが相当言いづらかったのだろう。少しだけオルカの身体が震えていた。
「だ、大丈夫かオルカ。身体が震えているみたいだが……」
オルカはちょこっと縦に首を振り、返答に答える。
俺はオルカの頭に手を乗せ、そっと撫でまわす。
「別に気にすることはない。俺もオルカがどこまで成長したのか知りたかった所だ」
「そ、そうなん……ですか?」
「ああ。お前の噂は高等部にまで響いているからな。どんな感じなのか気になっていたんだ」
オルカは少し顔と耳を赤らめ、目をそらす。
「よし、今の時間は外の演習場は開いていないから地下演習場へ行くか」
「……は、はい!」
華美で澄んだ美しい瞳を煌々と輝かせ、オルカは俺の元へとついてくる。
噂に聞いていた仮面鬼との邂逅を果たし、困惑する。
完全に聞いていた話と違う。ミキからあんな話を聞かされたばかりだというのに驚異はまったく感じなかった。
(……それに魔技祭当日にしか顔を出さないって話じゃなかったか?)
俺的にはもっと屈強で見るからにインテリ系講師、というイメージが頭の中にあった。
だが実態は屈強さをまったく感じず、それにして身体は細身。言葉遣いもやんわりとして少しくたびれた感じの男だった。
顔はマスクですっぽりと覆われ、素顔を見ることはできなかったが声質から察するに年は結構重ねているような感じだった。
(やはりどう考えても信じがたいな……)
人を率いるようなカリスマ的なものも感じなければあっと驚くようなオーラも感じない。
俺の心中では沢山の疑念が交差していた。
「……あれ、レイナード先生?」
廊下を歩いていると後ろから俺の名を呼ぶ声がした。
少し高く澄んだような女子の声だ。
「ん? ああ、オルカか」
呼びかけてきた女子の正体はオルカだった。
オルカは今までロングだった紺色の髪をばっさりと切り、ショートヘアへとイメチェンを遂げていた。
「髪、切ったのか?」
「あ、はい。似合い……ますか?」
「ああ、すごく似合っているぞ」
「よ、よかったぁ……私、髪の毛が短いのはあまり自分には似合わないって思っていたので心配だったんです」
「いや、本当に似合っている。オルカは顔立ちが良いんだ。どんな髪型にしても似合うさ」
「そ、そんなこと……」
オルカは頬を少し赤く染め、すこしはにかむ。
それにしても女という生き物は髪型一つでこうも変わるものなんだな。前のオルカは可憐な所に変わりはないのだが若干、年頃の女の子と言った印象があった。だがショートにしたことで少し大人っぽく見えるようになった気がする。ニッコリ笑った時はオルカそのものなのだが真顔の時はどこか大人びた印象を受けた。
「それにしてもこんな時間まで何をしていたんだ? 初等部はとっくに下校時間のはずだが」
「ちょっと高等部の大書庫で勉強をしてまして……気が付けばこんな時間に」
「高等部の学術書が読めるのか?」
「はい。初等部、中等部にある書庫の学術書は一通り読み終えたので」
(ま、マジかい!)
仮にも此処、アロナード総合魔術学園は大陸でも五本の指に入り、国では最大規模を誇る書庫を持っている特殊な学園だ。
書庫も大きく分けて三つあり初等部、中等部、そして高等部にある大書庫がある。本のバリエーションも様々あり学術書を始め小説、ニュースペーパー、雑誌、標本、はたまた料理本といった趣味的なものまで一式揃っている。噂によれば学術書だけでも全部合わせて数百万点くらいあるとのことだ。
彼女はその半分ほどを既に網羅していたのだ。
「す、すごいな……初等部にいるのが勿体ないくらいだ」
「そんなことはないですよ。私なんてまだまだです。あ、でも今度中等部に飛び級することが決まったんですよ~!」
「そ、そうなのか? そりゃ凄いな」
「えへへ……なんか先生に「君の能力はもう初等部のものじゃない、中等部で新たな学びの場と知識を得てきなさい」って言われたんです」
ああ……こりゃ先生指導を放棄したな。
でもこればかりは仕方がないことなのである。彼女の才能は既に学園でも折り紙付きだ。一人の講師では手に負えなくなると言う気持ちは分からないでもない。つまるところ、その先生は下手したら自分より能力のあるオルカに絶望でもしたのだろう。
これは講師の世界では割とレアなケースであると前に講師統括が朝礼で言っていた。
(ま、オルカの能力は中等部でも手に負えないくらいだろうな)
恐らく数か月もしない内に高等部へ昇格してくるだろう。と、なると高等部1年で入って来るクラスとなればA組かB組になる。
近い未来、オルカに教える立場になる可能性がある。というか絶対にそうなるだろう。
俺はそう確信した。
するとオルカは何かモジモジしながら、
「あ、あの……先生。今、時間ありますか?」
「時間か? ああ、まぁ大丈夫だが」
こう答えるとオルカは少し安心したかのような仕草を見せる。
が、緊張しているのか言いづらいのかわからないが中々口が開かない。
「お、オルカ……?」
問いかけようとした時、彼女は大きな声で、
「そ、その……も、もしよければ私に実戦指導をしていただけないでしょうか!」
「うあっ! びっくりした! 実戦?」
「は、はい!」
いきなり大声を出してきたので思わずビクッとなってしまい終いには変な声まで出てしまった。
だが相当言いづらかったのだろう。少しだけオルカの身体が震えていた。
「だ、大丈夫かオルカ。身体が震えているみたいだが……」
オルカはちょこっと縦に首を振り、返答に答える。
俺はオルカの頭に手を乗せ、そっと撫でまわす。
「別に気にすることはない。俺もオルカがどこまで成長したのか知りたかった所だ」
「そ、そうなん……ですか?」
「ああ。お前の噂は高等部にまで響いているからな。どんな感じなのか気になっていたんだ」
オルカは少し顔と耳を赤らめ、目をそらす。
「よし、今の時間は外の演習場は開いていないから地下演習場へ行くか」
「……は、はい!」
華美で澄んだ美しい瞳を煌々と輝かせ、オルカは俺の元へとついてくる。
0
お気に入りに追加
2,108
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
1/13 HOT 42位 ありがとうございました!
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる