73 / 127
第4章 おっさん、祭りに参加する
第72話 伝説の3年A組
しおりを挟む―――ガタン!
「悪い! 今大丈夫か!?」
俺は保健室、正確には医務室の扉を騒々しく開けて中へと入る。
「え、ええ!? ど、どうかしたのですか?」
「ああ、すこし体調不良者が出てな。早急に見れるか?」
「あ、はい! 全然大丈夫です!」
「すまない、では頼む」
時刻はもうすぐ日没。残業のある者以外はそろそろ退勤の時間だ。
特にその中でも朝が早く帰りも早いのが医療講師。まぁいわゆる学園内のお医者さんといった人のことを指す。
そしてこの名門、アロナード学園医務室の一切を仕切るこの人は医療講師のミキ・カルサワ。美しい黒髪と清楚な身だしなみ、そして赤フレームの眼鏡をかけた美女だ。歳はまだ若いらしいがその大人しい性格と外見などの雰囲気からたいぶ年上に見られることが多いらしく、現に一部の生徒からは『ミキ姐』の愛称で通っているらしい。
ちなみに噂によると彼女はこの世界の人間ではないらしく、前世の世界では『なーす』と呼ばれる職業についていたそうだ。名前と髪色からハルカと同じホンニの人間なのかと思ったが、そうではないらしい。俺も前に疲労で体調を崩した際に、彼女の世話になった。
それから何度か彼女の世話になっており、今に至るわけだ。
「……う~ん、これはただの疲れですね。熱もないようですし大丈夫かと……」
「そ、そうなのか? 顔が真っ赤だったから相当熱があるのかと……」
「だから大丈夫って言ったじゃないですか……」
俺の早とちりだったのか……? だがなぜあんなに顔が真っ赤になっていたのだろうか。確かに今は先ほどより顔が赤くはなっていない。
「す、すまん。かなり辛そうに見えたからつい早すぎる判断を……」
「い、いえ。大丈夫です」
「本当か?」
はいと頷くレーナは最後に小声で一言付け加える。
(そ、それに……少し嬉しかったですし……)
「ん? 何か言ったか?」
「い、いいえ! 何でもないです」
少しあたふたしたレーナに疑問を抱く。だがまぁなにがともあれ大丈夫ならそれでいい。
レーナは我々1年A組にとってはいなくてはならない存在だ。魔技祭ももうすぐそこまで来ている。
(ひとまずレーナには帰ってもらおう。大丈夫とはいえ心配だ)
俺はレーナに今日は帰るように指示をする。
「え、先生でも私にはまだ仕事が……」
彼女のことだから嫌というだろうとは予想していたが案の定だ。レーナは首を中々縦に振らない。
「だがレーナよスカーレットは尋問のスペシャリストでもある女だ。からかわれたとはいえ、相当精神に負荷を掛けられたはずだ」
「確かに凄い威圧感を感じました。少し恐怖すらもあったくらいです……」
「そりゃそうだろうな。あいつは今まで尋問だけで何人もの人間を屈服させてきた奴だ。本気になれば人を殺すことだって可能だろう」
「そ、そんなにすごい人なんですか?」
「ああ、まぁ昔の話だ」
実の所を言うと昔のスカーレットはとんでもなく恐ろしい存在だった。噂によれば神魔団に入る前は大陸の犯罪組織に属していたらしくその時はかなり気性の荒い性格で人ひとり近寄れなかったという。彼女にとって人ひとり殺すなんて容易いことだし武器なんてものは必要ない。話術と威圧だけで人を服従させ、いつでも殺すことができるのだ。
その能力を神魔団に買われ、入団したわけだがやはりその面ではビックセブンの中でも飛びぬけたものを持っていた。
「とりあえず、レーナ。今日は帰れ。今は大丈夫かとは思うが恐らく自分の思っている以上に精神に負荷がかかっている可能性がある。その反動で体調を崩す……なんてこともあり得るんだ」
「そ、そうなんですか……」
少し落ち込んだ表情を見せるレーナ。彼女の仕事に対してのやる気は俺も十二分に認めているが無理をさせるわけにはいかない。
俺はその後、なんとか彼女を説得し家に帰ってもらうことになった。
「……ふぅ、あそこまで引き下がらないとは」
保健室の椅子に腰を掛け、コーヒーを飲みながら一服する。
「レーナさんは凄く頑張り屋さんな所がありますからね。それは事務をやっていた頃とは変わっていないです」
「事務として働いていた時もあんな感じだったのか?」
「はい。とにかくレーナさんはやる気があって仕事も誰よりも出来ていましたね。事務員の中では名前を知らない人はいないくらいでしたし、人望も厚かったです」
「ほう……」
ミキは医療講師の傍ら、仕事がない時はよく事務室に出向き仕事を手伝っていたらしい。
その時からレーナとは面識があり、昔のレーナを知る人物の一人だ。
ミキの言う通り、レーナは昔から少々無理して頑張るタイプの人間だったらしい。
(……レーナらしいな)
俺は腰を叩きながら椅子から立ち上がる。
「さて、そろそろ仕事に戻るか。魔技祭の分析も終わってないしな」
「そういえばレイナード先生は今度の魔技祭にかなり力をいれていらっしゃるとお聞きしましたよ」
「ん? ああ、もちろんだ。優勝するつもりでいる」
「そうなんですかっ! じゃああの伝説の3年A組と戦うことになるんですね」
「伝説の3年A組? それはどういうことなんだ?」
俺が首を傾げるとミキは少し驚いた表情を見せる。
「えっ、ご存じないのですか?」
「あ、ああ……伝説ってなんだ?」
ミキの表情を見るからに知らない人がいるなんて思わなかったと言わんばかりの顔だ。
そして俺はこの時、魔技祭で最も強大な相手の事を始めて知ることになるのであった。
0
お気に入りに追加
2,108
あなたにおすすめの小説
虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~
雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――?
私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。
「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。
多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。
そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。
「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で??
――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。
騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す?
ーーーーーーーーーーーー
1/13 HOT 42位 ありがとうございました!
婚約破棄は誰が為の
瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。
宣言した王太子は気付いていなかった。
この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを……
10話程度の予定。1話約千文字です
10/9日HOTランキング5位
10/10HOTランキング1位になりました!
ありがとうございます!!
(完)聖女様は頑張らない
青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。
それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。
私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!!
もう全力でこの国の為になんか働くもんか!
異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
よくある悪役令嬢ものの性悪ヒロインのポジにTS転生してしまったので、前世で培った知識を活用して、破滅フラグを回避しようと思います!
アンジェロ岩井
恋愛
グレース・ベンフォールはふとした事から、前世の記憶を思い出す。
それは、前世の自分がオタクであり、尚且つ、世界史に傾向し、ある特定の時代だけを専門に学んでいたいわゆる“世界史界枠”の人間であったという事を。
そして、同時にこの世界が“悪役令嬢ものの”作品であり、自分が悪役令嬢ものの作品に登場する、天性性悪ヒロイン(主人公)である事も思い出す。
このままでは、断罪場面で、逆に断罪されて、公金を横領していた、父親ともども捕まえられて処刑されてしまう。
男爵令嬢、グレース・ベンフォールは自身に降りかかる、破滅フラグを回避するために世界史知識と前世の世界史の師匠である幼馴染みと共に奔走していく。
知らない世界はお供にナビを
こう7
ファンタジー
私の異世界生活の始まりは土下座でした。
大学合格決定してからの帰り道、一ノ瀬楓はルンルン気分でホップステップジャンプをひたすら繰り返しお家へと向かっていた。
彼女は人生で一番有頂天の時だった。
だから、目の前に突如と現れた黒い渦に気づく事は無かった。
そして、目を覚ませばそこには土下座。
あれが神様だって信じられるかい?
馬鹿野郎な神様の失態で始まってしまった異世界生活。
神様を脅……お願いして手に入れたのはナビゲーター。
右も左も分からない異世界で案内は必要だよね?
お供にナビを携えて、いざ異世界エスティアへ!
目指すはのんびり旅の果てに安住の地でほそぼそとお店経営。
危険が蔓延る世界でも私負けないかんね!
シリアスよりもコメディ過多な物語始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる