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第3章 おっさん、冒険をする

第36話 初めての錬金術

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「よし、これで準備は整ったぞ」

 俺たちは変成薬を使うのに必要な素材を集め、宿屋に帰ってきた所だった。

 俺は20代半ばの女の髪、レーナも何とか20代後半くらいの女の指紋を採取することができた。
 予想以上に時間はかかったが、作戦決行に支障はない。

 時間もないので早速作業を始める。

「レーナ、今すぐ作業を開始するぞ」
「は、はい。ですが一体何を……?」
「錬金術で変成薬を全能薬へと練成させる」
「れ、錬成ですか?」

 全能薬。
 変成薬とは違い、あらゆるものへと身体を変化させることができる万能薬だ。
 それは生物や無生物を問わない。
 神話の全能神ゼウスのように万能な力を持つことからその名がつけられたという。

 今では品としては流通しておらず、エリクサーなどとは違って一部の人間しかその名を知らないという幻の秘薬だ。
 ちなみにこの秘薬を錬成できる者は俺を除くと神魔団メンバーの一人であり錬金術師であったハイアットくらいしか知らない。
 俺は彼から知恵を得て錬金術を学んだ。
 正直、錬金術に関して言えば彼の右に出る者はいないだろう。 

 そして俺が変化の対象者の髪やツメアカをなぜ必要としたのかというと記憶よりもコピーのクオリティが高くなるからだ。
 全能薬は想像したものに自身を変化させることができる。
 だが、その想像力が曖昧だと完全にコピーすることができないのだ。

 これは万能と言われた薬の唯一のデメリットと言えるだろう。
 違和感なく完全にコピーするにはこれが一番良いやり方だと言うわけだ。

 俺は四次元空間に保管してあった小さな錬金釜を平然な顔をして取り出す。

「レイナードって何でもできるんですね。魔術だけじゃなく錬金術まで」
「魔術は独学だが、錬金術はある人からほんの少しだけ知恵を貰った。俺一人で全てを学んだわけじゃない」
「でも凄いことですよ。本当に商人だったのか疑っちゃいます」

 ああ、そうだった。俺は商人という設定で学園生活を通しているんだった。
 四次元保管庫を見せたのはさすがにまずかったか。

 だが、今更考えても仕方がない。
 作業を続ける。

「レーナ、この錬金釜に変成薬と取ってきた髪と指紋のついた髪飾りを入れてくれ」
「りょ、了解です」

 この髪飾りは持ち主が捨てていった物で、たまたまそれを見ていたレーナが拾ったものだ。
 その髪飾りには指紋がたっぷりとついており、素材として使うには申し分ない。

「この髪飾り……綺麗だったので残念ですね」

 レーナは少し残念なようだ。
 それを横目で見ていた俺は、

(髪飾りか……全て終わったら買ってやるか)

 その他にも錬金術には欠かせない金属の破片などを投入し、蓋をすぐに閉める。
 ぐつぐつと煮込み料理をする要領で時間が過ぎるのを待つ。

「錬金術ってこうやるんですね……私初めて見ました」
「レザードとかには教わらなかったのか?」
「あ、はい。レザードさんに教わったのは魔術と体術だけです」
「そうか」

 ま、確かに今の時代は技術が進歩して中級錬金術なら誰でもできる世の中になったし、人を問うこともなくなった。
 それに伴って錬金術をより簡単に行えるための道具なども作られた。錬金釜もその一つだ。
 昔は全て混ぜて錬金スペルを詠唱すれば、完成といった容易な物ではなかったので大きな進歩である。
 ひと昔前の錬金術はとても高度な技術が必要で貴金属と身体をリンクさせる能力や爆絶な魔力量を誇った者でないと決して行うことができなかった。

 その中で俺たちはより高度な上級錬金術を容易にやっていたのだから、周りの人間と比べたら次元が違うレベルだったのだろう。

 数時間が経った。
 
「よしそろそろ頃合いだな」

 錬金術はタイミングが重要である。
 少しでも狂えば全く別の物が出来上がってしまうことも錬金術ではよくあることだ。

 ここだ。
 俺は例の如くスペルの詠唱をしなくても良いので少しタイミングをずらす。

 魔力を注ぐと錬金釜が大きく揺れる。
 青なのか赤なのか分からないような異色に光り、今にも爆発しそうな勢いだ。
 そして錬金釜から閃光が放たれると―――



「よし、完成だ」
「で、できたんですか?……」

 初めての光景に少しビビりながらも錬金釜をそっと覗く。
 すると中には小瓶に入った金色の液体が二つ入っていた。

「こ、これが全能薬ですか?」
「そうだ。これを飲めば対象の人間に自らを変化させられる。想像する必要もない」
「スゴイ……ホントにそんなものが作れるなんて」

 興味を持ったのか顔をキラキラさせながら錬金釜を見ている。

「興味があるのなら今度教えるぞ」
「えっ!? いいのですか?」
「ああ、ちょっとだけならな」
「わぁ!……ありがとうございます!」

 錬金術一つでそんな笑顔をされたら反応に困る。
 よっぽど感銘を受けたのだと見受けられる。
 今時の若者で錬金術を見てここまで興味津々な反応をする人は中々いない。

 しかし今はやるべきことが先にある。
 俺はレーナに、
 
「だがまずはハルカの件を終わらせないことには何も始まらん。今は集中するぞ」
「は、はい。もちろんです」
 
 一気に真剣な表情に変わる。
 外を見るといつの間にか日が落ちて夜になっていた。
 宿屋の窓を開けると昨日と同様、夜市場が盛んに行われていた。

(相変わらず人が多いな)

 その光景を少しだけ見て俺は窓を閉める。

 その後、俺たちは夜中まで綿密に作戦会議を行い、次の日の朝を迎えたのだった。
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