上 下
34 / 127
第3章 おっさん、冒険をする

第34話 駆け引き

しおりを挟む
「どういうことですか、ゲッコウ様。今まではそんな素振り……」
「気が変わったのだ。お前は恐らくしきたりを破ることとなるだろう。それは何を意味するか分かっているんだろうな?」
「は、はい……」
「なら答えは出ているはずだ。相手を待たせてしまっている、行くぞ」

 ドスのきいた低い声で彼女を圧倒する。
 その存在感はとてつもないものだった。
 近づいただけでも焼けそうな……何か強い力を秘めている、そんな感じだ。

 従うしかないハルカ。
 コクリと頷き、ついていくことを承諾する。

(なるほどな……あれが原因か)

 状況を察する。
 
 それにしてもあの不愉快なオーラはなんなんだ?
 目に見えて分かる強い覇気。
 魔力によるものか? いや……違うな。

 ゲッコウの身に宿している謎の力が何かが分からない。
 今まで色々な奴のオーラに触れてきたが、あいつは他の奴とはまた違うものを感じた。

 まぁとりあえず最初はあいつのことを知るのが先決だ。
 俺はすぐ横にいたレーナに五感魔術を用いる。

『おい、レーナ聞こえるか?』
『えっ……?』

 レーナは俺の方を向き、驚くような表情をする。

『五感魔術を使って言葉をお前の脳に伝達している。とりあえず聞け』
『あ、はい』

 俺はとりあえずレーナに指示を送る。

 まず一つは感情的にならないこと。人は感情的になればなるほど冷静さを欠きやすくなる。チャンスがピンチに変わるのもこれが原因になることがある。
 そして二つ目は相手をよく見ること。行動や仕草は大きなヒントになる。そこから答えを導き出すことは決して難しいことじゃない。
 そして最後に勝手な行動はしないこと。俺が指示をするまで動かない。

 以上のことを伝え、俺は彼女についてくるように言う。

 もし仮に交戦状態になりえる状況になってしまったらレーナには下がるように伝えた。

 ハルカは俺たちの方へ向き、ニコッと笑う。

(あいつ、何笑ってんだ?)

 俺たちが諦めたように見えたのか奴らに抵抗する素振りを見せない。
 
 ふざけるな。俺がわざわざここまで来た理由はなんだ?
 お前に自由を与えるためだ。
 悪いが簡単に終わらせるわけにはいかない。

 それにこの俺をガン無視とはあの男、いい度胸をしている。
 ハルカしか見えていないのか知らんが、気に食わない。

 俺はゲッコウと言う男の行く方向に立ちはだかる。

「ちょっと待ってもらおうか」
「ん? なんだ貴様」
「オレか? オレはそこにいるハルカ・スメラギのワークメイトさ」
「ワークメイト……? ああ、報告で聞いたな。なんかくだらんことをやっていると」
「報告……? ということはお前たち彼女を監視していたってことか?」

 さぁ……ここからは駆け引きだ。
 できる限りの情報源を手に入れたい。

 俺は奴の表情を見ながら話を進める。

「もし仮にそうなら、それは異国間交流法に違反しているのではないか?」
「ふん、今時現地に出向いて監視する奴などおらんわ」
「と、いうことは追従系の魔術とかか?」
「それをお前に言った所でなんのメリットになる?」
「いや、単なる興味だ」

 なるほど。恐らく魔術ではないのは間違いなさそうだ。
 微かにだが、顔に余裕らしきものが見受けられた。
 それにこいつからは魔力をあまり感じない。
 正直その辺の底辺魔術師よりもないくらいだ。

 そう思えばこの莫大な力はより不自然さを増す。
 それにこの国で魔術を使用する者はハルカ説によると少ないらしい。
 そこから模索すると魔術を使っているという可能性は低くなる。

 そしてそれ以外に考えられるとしたらマジックアイテムだ。
 それは人の生活スタイルや行動を映し出すマジックアイテム<グラウンズミラー>。
 一般人の間では決して流通しない封じられしマジックアイテムだ。

 主に王室護衛、いわゆる重役人の身を守るための監視用として用いられる。
 世界でも五つほどしか存在していないとのことだ。

 この情報は決して一般人の耳に入ることはない。
 耳に入るのは莫大な力を持った国と神魔団のメンバーくらいだ。

 神魔団には優秀な工作員がいる。
 普通なら絶対に持って帰れない情報を持ち帰って来るので団にとってはとてつもなく大きな存在だった。

(これは国が絡んでいる可能性が高いな)

 おそらく黒幕はこいつとはまた別にいる。
 彼ともう一人、この国を動かせられるような膨大な権力を持ったものが。

 繋がりを暴けば必然的に答えが見えてくる。
 
「貴様は何がしたいのだ? 悪いが我々は急いでいるのだ。そこをどいてもらおうか」

 おっと、どうやらここまでのようだ。
 これ以上攻めると交戦状態になりかねない。
 俺はすぐ後ろに下がる。

 俺がその場から下がると奴らはそのまま歩いていく。
 ハルカとすれ違う時、俺は彼女に目で意思を伝える。
 それに気づいたのか、ハルカは首を縦に振りそのまま闇の街へと消えていった。

「レイナード……」

 去った後、レーナが悲しそうな顔をして俺を呼んだ。

「どうしたレーナ」
「私……何にもできなくて」

 自分が何もできず立っていたことに悔しさを感じているみたいだ。
 
 俺は彼女の潤んだ目を見て、

「気にするな。大雑把な情報は掴めた。収穫はなかったわけじゃない」
「す、すみませんでした……」

 俺は彼女に気持ちを切り替えるように言う。

「レーナ、落ち込むのはまだ早い。次なる行動に移すぞ」
「何をされるおつもりで?」
「ふん、ついて来れば分かるさ」

 俺はそう言って再度繁華街の方へと足を運ぶ。

「え? あ! ま、待ってくださいレイナード!」

 
 レーナは疑問に思いながらも走って俺の後についてくる。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

虐げられた武闘派伯爵令嬢は辺境伯と憧れのスローライフ目指して魔獣狩りに勤しみます!~実家から追放されましたが、今最高に幸せです!~

雲井咲穂(くもいさほ)
ファンタジー
「戦う」伯爵令嬢はお好きですか――? 私は、継母が作った借金のせいで、売られる形でこれから辺境伯に嫁ぐことになったそうです。 「お前の居場所なんてない」と継母に実家を追放された伯爵令嬢コーデリア。 多額の借金の肩代わりをしてくれた「魔獣」と怖れられている辺境伯カイルに身売り同然で嫁ぐことに。実母の死、実父の病によって継母と義妹に虐げられて育った彼女には、とある秘密があった。 そんなコーデリアに待ち受けていたのは、聖女に見捨てられた荒廃した領地と魔獣の脅威、そして最凶と恐れられる夫との悲惨な生活――、ではなく。 「今日もひと狩り行こうぜ」的なノリで親しく話しかけてくる朗らかな領民と、彼らに慕われるたくましくも心優しい「旦那様」で?? ――義母が放置してくれたおかげで伸び伸びこっそりひっそり、自分で剣と魔法の腕を磨いていてよかったです。 騎士団も唸る腕前を見せる「武闘派」伯爵元令嬢は、辺境伯夫人として、夫婦二人で仲良く楽しく魔獣を狩りながら領地開拓!今日も楽しく脅威を退けながら、スローライフをまったり楽しみま…す? ーーーーーーーーーーーー 1/13 HOT 42位 ありがとうございました!

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

貴方の傍に幸せがないのなら

なか
恋愛
「みすぼらしいな……」  戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。  彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。  彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。  望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。  なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。  妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。  そこにはもう、私の居場所はない。  なら、それならば。  貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。        ◇◇◇◇◇◇  設定ゆるめです。  よろしければ、読んでくださると嬉しいです。

よくある悪役令嬢ものの性悪ヒロインのポジにTS転生してしまったので、前世で培った知識を活用して、破滅フラグを回避しようと思います!

アンジェロ岩井
恋愛
グレース・ベンフォールはふとした事から、前世の記憶を思い出す。 それは、前世の自分がオタクであり、尚且つ、世界史に傾向し、ある特定の時代だけを専門に学んでいたいわゆる“世界史界枠”の人間であったという事を。 そして、同時にこの世界が“悪役令嬢ものの”作品であり、自分が悪役令嬢ものの作品に登場する、天性性悪ヒロイン(主人公)である事も思い出す。 このままでは、断罪場面で、逆に断罪されて、公金を横領していた、父親ともども捕まえられて処刑されてしまう。 男爵令嬢、グレース・ベンフォールは自身に降りかかる、破滅フラグを回避するために世界史知識と前世の世界史の師匠である幼馴染みと共に奔走していく。

魔法大全 最強魔法師は無自覚

yahimoti
ファンタジー
鑑定の儀で魔法の才能がなかったので伯爵家を勘当されてしまう。 ところが停止した時間と老化しない空間に入れるのをいいことに100年単位で無自覚に努力する。 いつのまにか魔法のマスターになっているのだけど魔法以外の事には無関心。 無自覚でコミュ障の主人公をほっとけない婚約者。 見え隠れする神『ジュ』と『使徒』は敵なのか味方なのか?のほほんとしたコメディです。

処理中です...