上 下
97 / 106

しおりを挟む
 
 
 
 
『ライラさんの授業が終わったら、ミリとレオ殿は姉様の元へ向かうようにと。何か話があるそうです』
 
 バイラムは腕組みをしながら王国の品々を興味深く眺め、思い出したようにそう言った。
 
 
 
 レオとミリアムはその後直ぐに馬車に乗り、キアラの元へ向かう。
 
 ライラもバイラムに見送られ、帰路へ着いた。
 特別、月が綺麗な夜だった。
 
 
 
 キアラの呼び出しは大きな意味がある。
 
 ミリアムの表情は険しく緊張していた。
 
 
 だが…もし、ミリアムとレオを…
 
 詮索は無用だ。キアラは初めて会った時から、ライラを牽制していた。レオから離れるように…と。
 
 それはレオにも既に何度も伝えられているに違いない。
 
 だが…キアラはトロメイ領へレオを送り出した。
 
 
 
 手狭な部屋は、窓から射す月明かりに照らされている。
 ベット脇のテーブルに、ライラは王国から持ってきた写真立てを飾っている。アレシアやフィニアス、コナーにナディア…ザイラにとってかけがえのない人達だ。
 そして、少し型崩れした小さなドライフラワーのブーケも…
 
 潰れないように、箱に入れて後生大事に持ってきてしまった。
 
 
 
 ライラはレオの事を何も知らない。
 
 最初に会った時は、知らない方が却って良かった。
 
 世にも美しい瞳を持ち不思議な魅力を持って、変幻自在に姿を変える大国から来た第二皇子の側近…
 そしてザイラが何かと必要とした時、その人は音もなく姿を現す。
 
 
 
 ザイラがそうだった様に、レオとミリアムにも、産まれ落ちた家門に有意義な縁を結ばなければならない義務がある。
 全ては、家とその血筋を繋ぐため…
 
 その責務は生きていく上で享受出来る恩恵にも結び付く。
 ただ、決して自由では無い。
 
 
 ザイラとアイヴァンの政略結婚は、確かに本人達以外にはしっかり有益となっただろう。
 
 
 元の物語をぶち壊しておいて、それでも生きたいと願った代償は払わないといけないと思っていた。
 自分には、誰かの隣に居たいとか…居て欲しいとか、そんな風に思って良い気もしていなかった。
 
 
 
 このまま知らない方がきっと良い。
 
 欲をかくから、こうしてどこか胸が苦しくなる。
 
 それでも知りたい…
 
 
 
 だが、なぜか聞いてはいけないような気がしてならなかった…
 
 レオは巧妙に、そしてあくまで自然に、核になる部分を厚く覆い隠している気がしていた。
 
 決して気づかれないように、触れさせ無いように警戒さえしている。
 
 
 
 
 ライラの指に光る歪な指輪にライラは目を落とした。
 
 そのオパールの煌めきを見れば、どうしてもレオを連想させる。
 
 
 
 あのブローチを手放すのなら、今だろう…
 
 これ以上自分の気持ちに嘘はつけない。
 
 レオの抱えている苦しみや、その全てをライラは知りたい。
 
 
 
 それがどんなものであっても、この先どんな辛く苦しい現実を運んできても、後悔はきっとしないだろう。
 
 
 不安定で不確実な関係に安寧を求めるのは愚かな事だ。もう誤魔化せないなら、疲れ果てるまで付き合うしか無い、欲と煩悩に塗れた、病にも例えられる…この感情に。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...