上 下
42 / 106

後ろ髪

しおりを挟む
エール、お気に入り登録ありがとうございます!きついお話が続きますが、その分ハッピーにもしたい…。レオもクレイグの事言えないんだよなぁ…という話です。
  
 




 
 靴を、探しに行こう…
 
 レオはそう考えていた。
 
 
 ザイラが屋敷へ歩き出してすぐ、後ろ髪引かれながらもどうしても見つけたいものがあった。
 
 
 ザイラが失くした、という靴。
 もしくは帽子。婦人にとってはそういうものは大事だと聞くし…何より扉の前に靴と帽子が返ってきていたら、また驚きに顔を赤くしたりするのだろうか…と思ったからだ。
 
 誕生日の事を思い出して、またあの嬉しそうな顔を浮かべて欲しいと思った。
 
 
 フェルゲイン卿が愛人にかかり切り、その話は耳に入っていた。
 
 足はなぜかフェルゲイン卿の屋敷に伸びてしまう。
 収穫祭は家族で過ごす大切な行事…
 
 もし…一目…
 そんな少年のような…
 
 馬鹿らしいことこの上ない。
 
 楽しく過ごせていれば、それで良かったのに
 
 昨晩見かけた彼女は、屋敷の窓からぼんやりと1人外を見ていた。
 
 
 舞踏会の日は立場の無い妻ながら夫を庇い毅然とした対応をしていた。
 と思えば少年の格好でウロチョロと裏路地を徘徊し、抱き上げればまるで年頃の少女のように顔を真っ赤にしてまともに口も聞けない。
 
 愛くるしい、と思ってしまったことをレオはずっと後悔していた。
 
 
『俺が留守の間チョロチョロしてるらしいな』
 
 フィデリオの声がレオの頭の中に響く。 
 
 
 
 
 降り頻る雨の中、見間違いかと思う程彼女は誰かれ構わず手を繋いで踊っていた。
 とても楽しそうに見えた。
 
 そのままにしておこう
 
 昨日の姿からは考えられない。
 正直安堵した。

 
 それなのに、次の瞬間には顔を歪めて唇を噛み締めている。
 本当は声を上げて泣き叫びたい、そんな思いさえ抑えて。
 
 彼女に手を差し出すのは許されない。
 
 相手は厄介にしか縁がない人妻だ。
 相手にされない人妻程、籠絡しやすい相手は居ないが…
 今回ばかりは余計な煩いを増やすと、レオにも分かっていた。


『まさか本気じゃないんだろう?』
 
 忠告を、聞くべきだ。
 当然だ。
 命令に近い。
 
 
 
 何をしてるんだか…

 レオは自身のやってる事に呆れて苦笑いを溢す。
 その手には、案外簡単に見つかった靴を大切に握りしめている。
濡れてはいたが綺麗な状態だったのは幸いだ。
 帽子は見つからなかったが、靴だけでもせめて届けよう、レオはフェルゲインの屋敷へ戻る。
 
 その道すがら、見慣れた小箱とブーケが落ちていた。
 そして、その先には夫人が持っていた小さな鞄…
 
 レオの頭は一瞬真っ白になった。
 
 あんなに大切そうに眺めていた小箱は見るも無惨に踏み潰され、跡形もない。
 
 体中の血の気が失せ、冷や汗が吹き出した。
 
 なぜ屋敷に着くまで見送らなかった?
 
 
 持っていた靴がレオの手から滑り落ちる。

 何が起きたか理解した。
 体中の血管がはち切れそうな程の後悔、焦り、怒り…一気に押し寄せる感情を抑えながら、必死に呼吸を整える。
 
 
 ブーケを握りつぶさないようにするのは至難の業だった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜

秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。 宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。 だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!? ※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...