上 下
32 / 36

32

しおりを挟む



 それからもエヴァリーは寝食をわすれて勉学に勤しんだ。
 一体どうしたんだ……と困惑する教授陣もびっくりの快進撃で、遂には前から数える方が早い順位までエヴァリーは食い込んだ。
 
 やれば出来るじゃん——……と一番驚いたのは他でも無いエヴァリーだったが……
 
 それと同時に、パーベル・アビーの姉妹校留学制度を利用して、留学しないかとお声が掛かった。
 外国語の成績が良かったのもあるが、エヴァリーも進路には留学を含めていた。
 
 
 
 新しい土地へ行く……––––
 不安もあるが、その方が自分の中に居る魔女にとっても、自分にとっても良いと確信があった。
 
 ただ粛々と課題をこなして、他の事を考えないように日々を過ごす——……
 
 

「ずっと同じ場所にいない方が良いってデクランさんも言ってたんだよね。
 魔女の気性を抑え込むにも、その方が良いって私も思ってる」
 エヴァリーがリリアンにそう告げると、リリアンは取り乱したが、丁寧に説明し直すとなんとか納得してくれた。
 
「エヴァは、それで良いの?エヴァはそれで、幸せなの?」
 
 リリアンがそう尋ねると、エヴァリーも返答に困ってしまう。
 
「今だって不幸せじゃないよ。いろんな幸せがあるから、世界各国探しに行くよ」
 エヴァリーがそう微笑むと、リリアンは大粒の涙を流してエヴァリーに抱きついた。
 
 
 可愛い、はー幸せ……––––
 そう思いながら、エヴァリーもキツくリリアンを抱きしめる。

「どこへ行っても、私達の関係は変わらないわ」
 
 リリアンの言葉に、エヴァリーも込み上げるものがあった。
 ただ頷きながら、エヴァリーはリリアンを抱きしめ続ける。この温もりを忘れない様に……––––
 
 
 


 時折街に行くと、ダメだダメだと思っても、どこか期待してエヴァリーは古書店を訪ねてしまった。
 
 勿論、そんなばったり会う事は無かった訳だが––––
 
 
 
 2度、街でアイゼイアを見かけた。
 
 一度は普通の書店で 女生徒と楽しげに本を選んでいた。
 
 あの日の自分達と重なって、側から見れば、エヴァリーもあんなふうに楽しげにしてたんだと、やはりどこか胸が苦しくなる。
 
 
 二度目は遠目から、楽しそうに男女のグループで街を歩いていた––––
 
 遠くても、あの麗しさはどうしても視界に入ってしまう。
 それに気付くリリアンとオースティンが気まずそうにするので、気にして無いフリをするのにエヴァリーも必死だった。
 
 
 男女のグループはそんな事はお構い無しにエヴァリー達に近づいて来る。
 
 
 自然に、避けることも無くエヴァリーはアイゼイアとすれ違った。
 
 ほんの一瞬だけエヴァリーがアイゼイアに視線を移すと、楽しげで話すのに夢中になっていた。
 
 ——楽しそう……
 アイゼイアは、本来ああいう場所にいる人だ——
 人に囲まれて、尚輝く……——
 
 眩しいくらいに、アイゼイアは輝いていた。
 
 
 すれ違って、エヴァリーはどこか安堵したのに、理由さえ分からない衝動に駆られて、つい後ろを振り返ってしまう。
 
 ただ、頭を後ろに少し、ほんの少しだけだ。
 
 
 ただ後ろ姿だけでも——……そう思ったのに、エヴァリーは驚きに目を見開いてしまう。
 
 そこには同じ様に振り向くアイゼイアが、煌めく青い瞳をエヴァリーに向けていた。
 
 余りにも驚いて、エヴァリーは呼吸するのも忘れてしまう。

 
〝「エヴァ?」〟
 そう言ってくれるのでは無いか––––
 
 
 だが、アイゼイアは目があった気まずさから軽く頭を下げて、すぐ視線を戻した––––



 胸が引き裂かれる位にエヴァリーは悲しかった。
 だが、覚悟していた事だ––––
 
 それに、想像してたより痛く無い……
 
 
 
 また魔女のお出ましかとエヴァリーは構えたが、魔女はアイゼイアの記憶を消した日以来出て来てくれ無い。



 留学先への日程が決まり、その前に年末の休暇を利用してエヴァリーは現地へ向かう。
 
 今頃向こうは年末の交流会……––––
 
 リリアンはまたオースティンと一緒だ。
 アイゼイアも、卒業前の最後のイベントで会長と一緒だろうとエヴァリーは思った。
 
 
 不意に、エヴァリーは真っ白な便箋を取り出す。
 
 送る予定の無い手紙を、エヴァリーはそこにしたためた。
 
〝お元気ですか?交流会は上手くいきましたか?こちらは雪が降っていて……〟
 そう書き出すと、止まらなくなって、エヴァリーはただペンを走らせる。
 
 
 それを書き終えると、空になったお菓子の缶へそっと仕舞い込んだ。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...