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しおりを挟むブライトンとパーベル・アビーの合同ダンスパーティーの日はいよいよ明日行われる。
エヴァリーも当日は少しだけ忙しいが、それは前半だけで、後半は普通にパーティを楽しめるような日程だった。
だが、楽しむ……といってもダンスもほとんど踊れない。そして……
「エヴァ、お願い……嘘って言って……」
リリアンはこれ以上無いほど呆れ果てた顔をエヴァリーに向ける。
「いやだって……いろいろ忙しくて気づいたら…––」
「ダンス、パーティーなのよ?パートナーが居ない?1人で踊るの?しかも、ドレスも無しにっ––!?いつものお気楽行事とは違うのよ!」
リリアンは天井を見上げて腰に手を当て、イライラしたように忙しなく部屋の中をぐるぐると歩き回る。
「大丈夫だよ、スーツで行って仕事が終わったら2人と合流して、適当に美味しいものを食べて帰ろうよ」
エヴァリーの言葉に、リリアンの動きが止まる。
「……本当にそれでいいの?今までとは違うのよ、今回は」
「ブライトンでやるから?まぁ確かに歴史上初らしいね、宮殿みたいな所だからそれは盛り上がる––––」
「違うわよ。…ってっきり、あのアイゼイア先輩って人と行くのかなって思ってたから」
リリアンは、ベッドに座るエヴァリーの隣に腰を下ろす。
「なんで私が先輩と?無い無い無い無いっ––!」
エヴァリー激しく首を左右に振った。
否定しているのに、どこか恥ずかしくてエヴァリーは耳が熱くなる。
「……なんかよくエヴァの話に出てたから、アイゼイア先輩。何かあるのかなー話てくれるのかなーって思ったけど、パートナーでも無いしドレスも用意して無いなら、本当に何も無いのねっ」
リリアンは、どこか悲しそうな笑みを浮かべているが、それでいて何かを期待しているような口ぶりだった。
––エヴァリーが恋心を抱いている相手に触れたら、相手の記憶は消えてしまう。
「エヴァって、余り人と関わらないから、最近は凄く生き生きしてたし、でもその体質もあるから何か悩んでたり苦しんでたら力になりたいって思ってたの。
もし、アイゼイア先輩に恋しちゃってーとか…だから…–––」
リリアンは立ち上がると、机の引き出しから上品なシルバーの肘まである長いグローブを取り出す。
「これだったら、もしかして、踊れたり…するかなって思って」
ドレス用のグローブに間違いない。
リリアンが私のために…
リリアンが…––私のためにっ––!
控えめにいって抱きしめたい––衝動に駆られて、エヴァリーも思わず立ち上がる。
「そっか、グローブがあれば、体が…直に……触れないから––いや、待って待って待って、そもそもアイゼイア先輩が好きとか、そういうのは……––それに、先輩にはちゃんとお似合いの人が居るよ」
「そうなの?」
リリアンは大きな緑色の目を大きく見開き、エヴァリーを見上げる。
「うん、ブライトンの生徒会長。凄く綺麗な人で、雰囲気的にも…––2人はそんな感じに見える」
エヴァリーが小さく微笑むと、リリアンはそれをじっと見つめる。
「……そうなんだ」
「だから、心配しなくて良いよ。私にとって恋は、空想の世界の事。本の中の出来事、実際には起きない事だから」
エヴァリーは心置きなくリリアンを抱きしめる。
––アイゼイア先輩は、きっと会長とダンスパーティに行く––
––そう言えば、ジャージまだ返して無かったな…エヴァリーはそんな事を考えながら、リリアンをギュッと抱きしめた。
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