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121 【ミーカイルside】ダンジョン・攻略戦②

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 ドドドドドドドドド……

 入口に現れたエルフ少女。
 彼女が何やら時空魔法を唱えたと思ったら、物凄い量の液体が放出されたのだ。

「……え? 水……ですの?」

 そう。見た目は単なる水。

 だが、僅かに傾斜している通路をその液体は重力に従い滑らかに滑り下り……鉄と銀の弾を放出していた扉を水没させてゆく。
 無類の殺戮性能を持つはず鉄と銀の弾であっても、水中では大して進むことができない。
 通路の三分の一も進めずに水中にゆるゆると落下して行く狂弾の数々。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 しかも、水の放出は止まらない。
 扉を全て水没させ……通路の全てを水に沈め……

 ボシュッ、ボシュッ、ボシュ……

 それでも一定の時間を置いて弾を放出していたはずの扉だが、その隙間から、水と言う凶器がさらに下の階へ進もうとチョロチョロ漏れ出している。

 ボシュ……ビシ……ビキッ……ドッ!!

 これでは、破壊されるのは時間の問題では……と、いう思いがミーカイルの頭をよぎった瞬間、その予想をたがわぬ形で扉が破壊され、大量の水が下の階へと流れ落ちて行く。

 実はこの扉……攻撃能力を重視しているため、耐久力自体は大したことが無い。
 通路が下方向に傾斜していることも不利に働いた可能性は否定できないが、そこにものすごい水圧がかけられたのだ。
 いや、かけられた……ではなく、まだ現在も放水は続いている。

 2枚目の扉、3枚目の扉が破られるのはそう遠い未来ではない。

「み、ミーカイル様っ、排水用の通路を! お早くっ!! 最後の扉も破られますわっ!!」

「く、ダンジョン・ポイントを使って地下に貯水槽を創るッ!!」

 だが、排水路が完成したのは、罠である3枚の扉が完全に破壊され、さらには地下10階までに闊歩していたモンスターたちをも押し流した後だった。

「ミーカイル様、こちらも攻撃に出ないと! あれだけの魔族達を送り込んで来た以上、カイトシェイド側には防衛の魔族がロクに居ないはずじゃ!!」

「そ、そうですわ。あの罠を突破されたとしても、まだこちらには獣魔人軍も、アンデッド軍もおりますわ!」

「コアは我々がお守りします故、ミーカイル様は、カイトシェイドめを打ち取るのじゃ……!」

「そ、そうだね。……それじゃ、僕自らカイトシェイドのダンジョンに」

 行ってくる、という言葉を遮るように下級魔族の兵士が駆け込んで来た。
 おそらくゾンビーだと思われる身体の所々からシュウシュウと煙を上げている。

「た、大変です! フジョシーヌ様っ!」

「あら? どうしたの?」

「さ、先程の放水攻撃ですが、どうやらあの水、かなり純度の高い聖水だったらしく、アンデット軍が壊滅状態でして……!」

「な、なんですってっ!?」

「まるで、天使が自ら創ったような高品質で……! 魔獣軍だけでは、持ちこたえることが難しく……! くっ……」

 そう言うと、煙を上げていた傷口を押さえるゾンビー兵士。
 ところが、ヘルプの声を上げたのはアンデッド族だけではない。

「トラオウ様っ!! 大変です!! 奴ら『魔マタタビB』を大量に持ち込んでいるらしく、兵士の一部が骨抜きにされておりますっ!!」

「『魔マタタビB』じゃと!?」

 これは、普通のマタタビをマンドラニンジンのエキスに漬けてマタタビ効果を増強させたアイテムである。
 だが『魔マタタビB』とは、特に回復効果も、戦闘能力が上がる効果も無い単なる嗜好品。

 その反面、『魔マタタビB』を作るのに必須なマンドラニンジンは魔素の高い地域にしか生えない植物。
 魔力回復薬マギ・ポーションの原料のような戦略物資に必要不可欠な貴重な素材を、本当に、ただ、ただリラックスし、マッタリするためだけの嗜好品に注ぎ込むのは、本来、愚行中の愚行。

 だが、その分、威力は強力らしく、画面に映し出された兵士達はゴロゴロと喉を鳴らし、泥酔しているようにぼんやりとしている。

「嗜好品をこんな風に扱うとは……ね」

「なるほど……確かに、きゃつめ、下級魔族の扱いが上手いというのは嘘ではないようじゃ……!」

 怒涛の快進撃で突き進んで来るカイトシェイド側の魔族達を見つめて、ギリリと歯を食いしばった。
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