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14 荷馬車は牽くものです
しおりを挟む「さて、では屋敷に戻るぞ」
「あ、あの……旦那様?」
「ん? どうした?」
俺は、奴隷商人からおまけで貰った荷馬車に、奴隷たち14人と多くの食料を乗せ、引っ張りながらその声に答える。
はなしかけて来たのは、あの元執事のじーさんだ。
「な、何故、旦那さまが荷馬車をお牽きに!?」
「何故って……お前たちは、病人・ケガ人・老人だろう? それなら、俺が引っ張るのが一番効率が良い」
ネーヴェリクは魔族としては驚くほど腕力が無いからな。
「大丈夫デス、カイトシェイド様はお強いので、皆様が乗ったくらいの荷馬車なら問題ありまセン」
俺の脇を歩くネーヴェリクがほんわりと微笑みながら太鼓判を押すが、奴隷たちの顔には困惑の色が広がっている。
「おい! 何、頭からお花咲かせたようなバカな事をほざいていやがる! 病気でも無ぇ足が二本残ってるヤツ等は自力で歩かせるのが普通だろ!!」
そう荷馬車から叫んだのは、例の殺人鬼くんだ。
「ん? お前、歩きたいのか? だが、今はまだ止めておけ。かなり失血しているせいで、顔色が悪い」
奴隷たちには『荷馬車の上でおとなしくしていろ』と命令しているのだが、確かに、あの執事のじーさんと殺人鬼くんには命令呪の効き目が悪いのだろう。
他の奴隷たちは困惑しつつも、俺たちに話かけはしないが、この二人には『おとなしく』の効果が薄いようだ。
夜とはいえ、まだチラホラと夜間に酒をふるまうような食堂が開いているらしく、道行く人たちが不思議そうにこちらを注目している。
「ほら、お前たち、あんまり叫ぶから……俺たちが注目されるだろ?」
「……いえ、あの、注目されているのは、そういう理由ではないと……」
「? では、どういう理由なのデショウか?」
ネーヴェリクがちょこん、と首をかしげて後ろの奴隷たちに問いかける。
良いぞ、ネーヴェリク! それは俺も知りたい。
「いえ、あの……旦那様が荷馬車を牽いておられるからだと……愚考いたしますが……」
曰く、この辺りだと、普通、荷馬車を牽くのは牛や馬などの動物らしい。
魔王城だと竜やモンスターを使ったり、雑用ついでに自分の『分身体』で運ぶのが普通だったんだけどなぁ……
でも、今更、動物を借りに行くのも面倒だ。屋敷はもうすぐだし。
「そうか。では、今後、俺は荷馬車を牽かないように注意する。ああ、そうだ。えーと……名は?」
俺は、元・執事のじーさんに問いかける。
「奴隷に名などございません、旦那様のお好きにお呼びください」
えー……?
俺、ネーミングセンス無いから面倒だなぁ……
「あそこの商人からは何て呼ばれていたんだ?」
「はい、わたくしは『ベータ』と」
「では、ベータ。気づいているだろうが、実は俺たちはこの辺りの出身ではない。しかも、この町に来てから、まだ時間が短い。この辺りの常識に疎い部分があるから、俺やネーヴェリクが何か不思議な行動をしていると感じたら教えてくれ」
「は、はぁ……い、いえ、かしこまりました」
「この辺りっつーか、一体どこに住んでいりゃ、ご主人様が自分で荷馬車を牽くような行動を取るんだよ……」
はははははー。
殺人鬼くんがブツブツと何か言っているが、そこは聞こえなかったフリをしよう。
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