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本編
不穏な影②
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会場へ戻ると 食後のコーヒーが配られ、談笑している最中だった。
「さとーさん、小柴と不破さん戻りましたー!」
俺のどんよりとした気分とは裏腹に、小柴くんはにこにこと人好きのする笑顔でするりと懐に入り込んでいる。
「ん? あぁ、お帰りなさい。様子を見に行ってくれてありがとうございます小柴くん」
「佐藤さん、皆さん、急に離席してすみませんでした。今朝から腹の調子が悪く、ケーキの香りに……その、当てられてしまって 急いで離席した次第です。ご心配とご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
順に顔を見ながら丁寧に謝罪の言葉を口にすると、すっと頭を下げて、嫌味に見えぬ60度程度で最敬礼を行うとたっぷり3秒程心の中で数えてからゆっくりと姿勢を戻した。
一瞬見惚れてしまう程の綺麗な所作の謝罪は 昔徳仁が新入社員研修で苛立っている時に将来のお勉強と称して徳仁が満足するまで何度も理不尽に謝罪させられたが故に身に付けたものだった。
まさか、こんな時に徳仁からのお勉強が役立つとは皮肉なものだ。
「そうですか。もう 大丈夫ですか? あと少しで本日のプログラムは全て終了となりますが、無理そうなら早退しても良いと上の者からも言付かっています。どうしますか?」
本音を言えば帰りたい。だが、帰ってもアイツが居るかもしれないと思うと どうしても帰りたくない。
それに、あと少しで終わるのならばわざわざ心配して探しに来た小柴くんにも悪いだろう。あと少し 踏ん張ろう。
背筋に冷や汗をだらだらと流しながらも、奥歯にぐっと力を込め 微笑みを崩さぬように徹しながら全てのプログラムが終了するまで静かに席で耐え切るしかない。
「それでは、本日のプログラムは全て終了となります。新入社員の皆さんは明日の9時から1週間こちらの会場にて研修を執り行いますのでよろしくお願いします。お疲れ様でした」
進行をしていた女性の挨拶が終わると、 各グループの社員が簡単な挨拶をして解散して行った。
「佐藤さん、お疲れ様です。先程は本当にすみませんでした。明日からは気を付けます。お先に失礼頂します」
佐藤さんへ簡単な挨拶をすると、怒った様子も一切なく本当に心配してくれているようだった。
会場から出て、振らつく脚を賢明に動かしながらスマホをチェックすると 見知らぬ番号からの着信履歴が残っていた。
「なんだろう徳仁かな……」
萌し
見慣れない番号だったとは言え もしも徳仁からの連絡だったら出なかった上に折り返しすらしなかったとなれば、家を知られている今、何をされるか容易に想像出来てしまう。
最悪、あの動画をどこかにアップロードされてしまえば俺の人生は終わったも同然だろう。
「はぁー、早くかけ直さなきゃ……」
徳仁ではありませんように。そう心の中で唱え、深いため息を吐き出しながらポツリと呟いてコールボタンをタップしようとした瞬間、背後から現れた自分より大きな男に肩を捕まれ、覗き込むように声を掛けられた。
「さとーさん、小柴と不破さん戻りましたー!」
俺のどんよりとした気分とは裏腹に、小柴くんはにこにこと人好きのする笑顔でするりと懐に入り込んでいる。
「ん? あぁ、お帰りなさい。様子を見に行ってくれてありがとうございます小柴くん」
「佐藤さん、皆さん、急に離席してすみませんでした。今朝から腹の調子が悪く、ケーキの香りに……その、当てられてしまって 急いで離席した次第です。ご心配とご迷惑をお掛けしてすみませんでした。」
順に顔を見ながら丁寧に謝罪の言葉を口にすると、すっと頭を下げて、嫌味に見えぬ60度程度で最敬礼を行うとたっぷり3秒程心の中で数えてからゆっくりと姿勢を戻した。
一瞬見惚れてしまう程の綺麗な所作の謝罪は 昔徳仁が新入社員研修で苛立っている時に将来のお勉強と称して徳仁が満足するまで何度も理不尽に謝罪させられたが故に身に付けたものだった。
まさか、こんな時に徳仁からのお勉強が役立つとは皮肉なものだ。
「そうですか。もう 大丈夫ですか? あと少しで本日のプログラムは全て終了となりますが、無理そうなら早退しても良いと上の者からも言付かっています。どうしますか?」
本音を言えば帰りたい。だが、帰ってもアイツが居るかもしれないと思うと どうしても帰りたくない。
それに、あと少しで終わるのならばわざわざ心配して探しに来た小柴くんにも悪いだろう。あと少し 踏ん張ろう。
背筋に冷や汗をだらだらと流しながらも、奥歯にぐっと力を込め 微笑みを崩さぬように徹しながら全てのプログラムが終了するまで静かに席で耐え切るしかない。
「それでは、本日のプログラムは全て終了となります。新入社員の皆さんは明日の9時から1週間こちらの会場にて研修を執り行いますのでよろしくお願いします。お疲れ様でした」
進行をしていた女性の挨拶が終わると、 各グループの社員が簡単な挨拶をして解散して行った。
「佐藤さん、お疲れ様です。先程は本当にすみませんでした。明日からは気を付けます。お先に失礼頂します」
佐藤さんへ簡単な挨拶をすると、怒った様子も一切なく本当に心配してくれているようだった。
会場から出て、振らつく脚を賢明に動かしながらスマホをチェックすると 見知らぬ番号からの着信履歴が残っていた。
「なんだろう徳仁かな……」
萌し
見慣れない番号だったとは言え もしも徳仁からの連絡だったら出なかった上に折り返しすらしなかったとなれば、家を知られている今、何をされるか容易に想像出来てしまう。
最悪、あの動画をどこかにアップロードされてしまえば俺の人生は終わったも同然だろう。
「はぁー、早くかけ直さなきゃ……」
徳仁ではありませんように。そう心の中で唱え、深いため息を吐き出しながらポツリと呟いてコールボタンをタップしようとした瞬間、背後から現れた自分より大きな男に肩を捕まれ、覗き込むように声を掛けられた。
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