ゲスクズに狙われてる俺はイケメンな上司に守られて幸せになります

本編

強引なわんこ①

　俺は今、先程声を掛けてきた男が用意したタクシーに押し込まれ、2人きりで乗っている。


……明確には運転手も居るから3人だが。



「最近はアプリでタクシー呼べるから便利っすよね！」

「……なんで俺に構うんだ？　何で俺の家まで来ようとする？」

「え～？　そんなの一緒に仕事する仲じゃないっすか！　体調悪そうだったら家まで送るぐらいするっすよ！　俺、友情大事にするタイプなんで！」



　太陽のように明るい笑顔を見せるその男は 先程知り合ったばかりの小柴 悠介こしば ゆうすけだ。



　数分前、俺が見知らぬ電話番号へかけ直そうとしている まさにその時、背後から現れた小柴に肩を捕まれ、覗き込むように「不破さん今からタクシー呼ぶんすか？！」と聞かれたのだ。



「俺、アプリでさっきタクシー呼んだんすよ！　いやー、不破さんが電話する前で良かったぁ～。2台もタクシー呼ぶところだったっすよ！　あ、不破さん家どこっすか？」

「いや、俺は別に」

「何言ってんすか！　体調悪い時ぐらい頼ってくださいよ！　水臭いっすよ？　ほらほら乗って」

「いや、でも俺は」

「あ、ほら運転手さん困っちゃうんで、とりま行先言ってくださいって！　あ！　俺が聞いてると言えないっすか？　耳塞いどくんでどうぞっす」

「はぁー……じゃぁ」



　ヘラヘラと先程よりも砕けた態度の小柴に流されるようにして今に至るという感じだ。お陰様で徳仁かも分からない着信には折り返しの電話すら出来ていない。

　アパートの少し手前で降りると、部屋まで付き添おうとする小柴へお礼を言って、タクシー代を多めに渡して断り 戦々恐々と部屋の鍵を開けた。



「ただいまー…… 」



　ゆっくりドアを開きながら声を掛けたが、玄関には徳仁の履いていたブランド物の靴が無くなっている事に気付いて ほっと溜息を吐き出した。



「良かった……帰ったんだ」



　徳仁が居ない事にホッとした途端、先程まで忘れていた腹痛を感じ ジャケットを脱ぎながらソファーに座り込んだ。



「あ"～ｯくそっ！　……腹痛い……なんで俺ばっか。くそっ……」



　ソファの上で腹を抱えて蹲るうずくまると 悪態を着きながら少しだけ意識を手放した。

　目が覚めると窓の外は茜色から紫色のグラデーションが出来上がっていた。



「……風呂……いや、シャワーで良いや」



　しっかりと湯船に浸かって疲れを取りたい気もするが、それ以上に体のだるさが酷くて動くのすら面倒くさい。とはいえ そのままで居るのも気持ち悪い。

　シャワーを浴びる為にのっそりと立ち上がり、ジャケットを手に取ると 逆さになったポケットから何かが落ちたような気もしたが、ちらっと見た限りは何も無く、ジャケットをハンガーに掛けて除菌消臭スプレーをしてハンガーラックに掛けた。
　
　 服を脱ぎながら先程まで一緒に居た小柴くんについて少しだけ考えを巡らせる。

　アイツ高卒だからなのか知らないけど喋り方が独特で断れない雰囲気があったな……。

もし徳仁タイプの人間だったら あの感じ断ったりする間もないだろうし彼との関わりは極力最低限にしておかないとな。

仮に、本当に親切心のみであったとしても徳仁に家がバレてる以上 彼に家まで来られたら色々と危険だ。


　熱いシャワーを頭から浴びて、昨夜からの事を振り返る。

　何故徳仁アイツは引っ越したばかりの家も、入社日すらも知っていたんだろう？　 

　母にはちゃんと口止めしておいたはずだ。