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「お嬢様!今夜は舞踏会でございますよ」

 カーテンから差し込む朝日と小鳥の囀り、そしてけたたましいメイドの声で目が覚める。まただ、またこの朝がやってきた。ノエルは絶望した。

ーーー…

「ノエル、私が踊ってやってもいいぞ?」

「お断りします」

 煌びやかな宮殿の夜。華やかな舞踏会でジュリオス王太子は公爵令嬢ノエルにあっさりと誘いを断られた。

「え、いや、ちょっ…この私が踊ってやると言っているんだぞ!?王太子の私が!」

「そういうところ本当無理なんで」

 ノエルはカツカツとヒールを鳴らして呆然とするジュリオスに背を向けた。

ーーー…

 ノエルには憧れている男がいた。アムス卿だ。彼はジュリオスとは違い優しく紳士的だ。

 時はノエルの舞踏会デビュタントまで遡る。髪をアップにし、華やかなドレスを纏い息巻いて王宮に足を踏み入れた。

 そこでノエルは失態を犯す。大階段を降りる時に右足のヒールが折れて転んだのだ。周りがクスクスと嘲笑する中、すぐに手を差し伸べてくれたのがアムス卿だった。

 栗色に輝く髪に翡翠色の瞳、輝く白い歯が美しい次期侯爵アムス卿にノエルは一目惚れした。

 そう、ノエルには心に決めた人がいた。王太子は眼中にない、どころか大嫌いだった。

 デビュタントのあの時、手を差し伸べたアムス卿。そして周りで高みの見物が如く嘲笑う者達ーーその中にジュリオス王太子もいた。金色の髪に透き通った青い瞳、整った目鼻立ちを持つ美しい王太子だが、その性根の悪さは有名だった。

 遠巻きにニヤニヤしながら眺めるジュリオスと、アムス卿の手を取り起き上がろうとするノエルは目が合った。あれから1年、ノエルはその時の蔑むような目を決して忘れることはなかった。

 それからも舞踏会に行けば必ず現れるジュリオス。そして何故かノエルにやたら絡んでくるようになった。しかしいつも小馬鹿にしたような口調で話しかけてくるものだから、ノエルは嫌悪感を募らせていた。

 そう、この夜はノエルのジュリオスに対する嫌悪感がピークに達して苛立っていた。

ーーー…

「なぜいつも私とは踊らないんだ?!」

「なぜって自分の胸にでも聞いてみてはいかが?気分が悪くなったわ、さようなら」

 周りの冷たい視線が突き刺さるが構わなかった。ノエルは馬車に乗り込み帰路に着いた。ノエルの家、ルーシェン公爵家の屋敷に着くや否や、ノエルはドレスのままベッドに雪崩れ込み眠りに着いた。
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