もしもギャルが異世界転移したら～ギャルの日帰り異世界旅行～

１０

＊

　光が弱まり、リーランはゆっくりと両目をあけた。
　見ると、目の前にいたはずのマナミの姿がない。右を見ても左を見ても誰もおらず、そこにはリーランがただひとり佇んでいるだけであった。

　池も、もとの静けさを取り戻している。
　まるで、すべてが夢だったかのようだ。

「……マナミ、さん……」

　呼んではみたものの、やはり返事はない。
　リーランは、いたく寂しい思いがした。

「きちんとお別れ……言いそびれちゃった……」

　お菓子や料理で世話になったことを考えると、それは非常に心残りである。
　リーランは少し思案した末に、池の前に膝をついて、胸の前で両手を組んだ。
　そして、声が届くかどうかはわからないが、池の妖精に語り掛ける。

「妖精さま……どうか、マナミさんをもとの世界へ帰してあげてください……」

　あの光が具体的になんだったのか、リーランにはわからない。
　だが、実際にマナミが姿を消してしまったのだ。となれば、リーランの妖精を信じる気持ちがますます強まってもおかしくはないだろう。

　リーランは、じっと池を見つめる。
　すると、不意に水面に小さな波紋が浮き上がった。
　その波紋はひとつ、またひとつと増えていく。

「あ……」

　反射的に、リーランは空を見上げた。
　リーランの頬に、ぽつりと小さな粒が落ちる。

　――雨だった。
　久方ぶりの、雨が降ったのである。

「わぁ……！」

　雨粒が池に落ち、林に降り、リーランを濡らした。ぱらぱらと雨が大地に降り注ぐ音も、雨の日特有の匂いも、久しすぎるあまりなつかしいほどだ。

　これほどまでに雨を嬉しく思ったことが、今まであっただろうか。
　この雨で、少しでも村が潤ってくれるといい。

　そして、また皆で笑い合える村になったなら、どれほど幸せだろう。
　ふと、リーランはマナミの言動を思い起こす。

「ぎゃる様って……ひょっとして水神さまだったのかしら」

　なんだかマナミが雨を降らせてくれたような、そんな気がしたのだ。
　リーランは笑みをうかべて、空を見上げる。

「……ありがとう、マナミさん……」

　どうか、彼女が無事にもとの故郷へと帰れますように。
　雨を浴びながら、リーランは穏やかな心情で、ただそう願った――。