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 そこで、乃亜はあることに気が付いた。

 重なるヴィクトールの舌から、なにか温かいものが流れ込んできている気がするのである。

 液体ではない。気体でもない。しかし、なんだかわからない。

 そんな初めて感じるなにかが、彼の舌から直接流れてくる感覚を覚えた。

 ふたりの唇が離れ、唾液が糸を引く。その唾液に濡れた乃亜の下唇を、ヴィクトールが舐めてぬぐった。

 唇に彼の舌の柔らかさを感じ、胸のあたりがきゅんと切なく締めつけられる。

 自身の唇も舐めてぬぐった彼が、言葉を継いだ。

「――こうして、直接お前の体に触れんと、解除の術が扱えん」

 言われたことの意味がわからず、乃亜は目をしばたたいて相手を見返す。

 それから、口付けられる前にヴィクトールが言っていたことを思い出した。

 そう、彼は、解除系の魔術が得意ではないこと。それによって解除に多少の時間が掛かるという話をしていたのだ。

 それらを踏まえて乃亜は思案し、ヴィクトールに尋ねる。

「えっと……今、私の中に流れてきた温かいものは……」

「それが、解除の術を織り込んだ魔力だ。そもそも、儂が扱う解除の魔術は、自分に使うことしか想定しとらん。己の体液や血液に魔術を織り込み、それを体内に巡らせて、かけられた魔術を解除する」

 言って、彼はわずかに眉尻をさげた。

「……儂のせいでお前がモンスターに襲われたことを考えると、心苦しいが……そうやって長時間触れ合わんと、今の儂にはお前の治療をすることは出来ん」

 ヴィクトールは申し訳なさそうに告げる。乃亜が触手に襲われたことを、気にしているのだ。

 乃亜はおずおずと彼に体を密着させて、訊く。

「触って……くれるんですか……?」

 この言葉に、ヴィクトールが目を丸くした。

 乃亜は相手の手を取って、その掌に自身の胸を触らせる。

 大きな手が、乃亜の乳房を包んだ。

 そう、この手だ。この手に、触れてほしかったのだ。

 触手に凌辱されているあいだ、何度も脳裏をよぎったのはヴィクトールのことである。乃亜の肉体に快感を教えてくれた、あの一夜の出来事。

 同じ場所、同じ触れ方であっても、ヴィクトールのそれと触手のそれは大違いだった。

 触手に犯されて改めて気付いた、彼の優しさ。ヴィクトールに与えられるものならば、たとえそれが羞恥心であっても胸を満たしたものだった。

 そんな彼が、いま目の前にいる。

 触手に襲われたのは、ヴィクトールの責任ではない。故に、責任など感じないでほしかった。

 しばし乃亜を見つめていた彼が、つと双眸を細めて乃亜を押し倒す。

 ヴィクトールは薄く笑んだ。

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