140 / 140
―140―
しおりを挟むそんなことより――と、ラックは話を戻した。
「これから、どうするんだ。まずは俺達の意見に賛同してくれる魔術師を増やすことが重要だと思うのだが」
ザルフィナが、自身の顎に指を添えて考える素振りを見せながら返す。
「そうですね……まずは、比較的おだやかな魔術師から声をかけていきたいところです」
心当たりは?――と問うラックに、ザルフィナは「何人か」と返答した。
彼はメルウィンを横目で見やる。
「メルウィンさんは、どうですか」
「ん~、僕そもそも真面目な魔術師と仲良くなること、あんまりないからなぁ」
「わかります。見ているだけでイライラしますものね、あなた」
「あっはっは。でもま、ザルフィナくんとはまた違った方向性の魔術師たちにアプローチは出来るかも。自慢じゃないけど、僕の知り合い変わったひと多いし」
それを頷いて聞き、ラックは今後の方向性をまとめた。
「では、そのターゲットとなる魔術師を探すことからだな」
「すんなりいってくれれば楽だけどねぇ」
「相手が人間ではなく魔術師ですからね。そのあたりは、実際に捜してみないとなんとも」
そこで、ふと疑問に感じたラックが二人に訊く。
「どうやって捜すんだ? まさか地道に歩いて捜すわけではなかろう」
ザルフィナは小さく笑った。
「そんなことをしていたら、ひとりを捜すのに何年も掛かってしまいますよ」
挙手をして、メルウィンが言う。
「僕、ひと捜しの魔術は得意だよぉ」
「私も得意なほうかと。……しかし、意外ですね。誰かを捜すことがあるのですか?」
「いや、どっちかっていうと追うよりも追われることのほうが多いから、その相手が今どこにいるのかを調べるためにね」
それを聞いたザルフィナが呆れ果てた顔をしたが、メルウィンは呑気に笑った。
ともあれ、これでしばらくの方針は固まったわけである。
今ここにいるのは、たった三人の魔術師だ。そのうちのふたりは魔術師として優れているものの、それでもたったの三人である事実に変わりはない。
三人でどこまで世界を変えられるのか――いったいなにが出来るのかはまったくの未知数だが、それでも、やれるだけやってみようと思う。
魔術師が不当に傷付けられない世界へ――人間と魔術師が支え合える世界へ――変えていきたい。
それはシンプルで、故に難しいことだろうけれども。
ラックは、メルウィンを横目で見た。
なんだかんだで、彼に関してもまだ知らない部分は多い。そういうところも含めて、少しずつ知っていければいいと思う。
きっと、メルウィンもこの世界に傷付けられた魔術師のひとりなのだろうから。
当然、今のラックでは実力はまだまだ及ばない。だからこそ、せめて隣で共に戦えるくらいにはなりたかった。
そうして、なにかあった際には師匠を支えられるように成長したい。
ラックは、ミサを思い起こした。
次に彼女の顔を見るときには、今より少しでも成長していたいものである。
もしもラックがメルウィンに認められるほどの魔術師になっていたら――ミサはどんな反応を見せるだろうか。ラックをうらやんだりするのだろうか。
想像してみると、それは少し気分がよかった。なんだか、姉に勝った弟のような気分になる。いや、決してラックはミサと姉弟のごとき関係ではないけれど。
ラックは、改めて気合いを入れ直した。
頑張らなければならないのは――これからなのである。
了
0
お気に入りに追加
96
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!
SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、
帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。
性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、
お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。
(こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)
淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語
瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。
長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH!
途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる