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しおりを挟む彼の言葉を合図に、巨大な魔法陣が淡く発光して、下から微風が吹き上がった。
三人の魔術師は、ミサを中心にして三角形を描く形で立っている。
最初に呪文を唱え始めたのは、ザルフィナだった。どこの言葉なのか、なんと言っているのかはミサには理解することが出来ない。
彼の呪文が進むにつれて、ザルフィナの杖の先端に嵌め込まれている宝玉が光り始めた。
すると、今度はメルウィンとラックも呪文を唱え始める。
魔術師達は、先程までの気の抜けた雑談からは想像も出来ないほどの真剣な面差しをしていた。
メルウィンとラックの杖の宝玉も、光を帯び始める。
と、にわかに下から吹き上げてくる風が強くなった。風は渦を巻くようにうねり、ミサの体を包み込む。
衣服と髪とを揺らしながら、ミサは不思議な心地がした。
こんな大掛かりな魔法陣の中央にいる己――そして、今からもとの世界へ帰ろうとしている自分――。
まだ、どこか夢を見ている感覚がある。
だが、それでも確かに甦ってくるものがあった。
この世界に訪れてから出会った人々に、出来事。
それから――恋心にも似た、メルウィンに対する想い――。
もとの世界へ帰れば、もう二度と皆には会えなくなってしまう。
顔が見られなくなるのはもちろん、声も聞けなくなり、共に笑い合うことも――出来なくなる。
この世界で過ごした時は短いはずなのに、思い出はなんと濃厚なことだろう。
もとの世界にいた頃の自分からは、想像も出来ない出会いの数々と、刺激的な体験だった。
もちろん楽しい思い出ばかりではないが、かといって、あっさりと別れを告げられるほど薄っぺらいものでもない。
気付けば、ミサはくちをひらいていた。
「あのっ……」
三人の視線が、ミサに集まる。
ミサはまずザルフィナを見て、自身の心情を吐露した。
「私、この世界に来られて――よかったです……!」
きょとんとしたふうに、ザルフィナが目をしばたたく。
ミサは続けた。
「いきなり空から落ちる羽目になったり、色々と大変でしたけど……でも、楽しいこともたくさんありました。だから、その……あ、ありがとうございました!」
驚いた表情で、ザルフィナはミサを見返す。
ミサは次にラックに顔を向けた。
「もしラックさんがメルさんと一緒にいてくれてなかったら、私きっとこの世界で途方に暮れちゃってたと思います」
「だろうな」
ラックの返答にメルウィンが「ちょっと、どういう意味?」と質問を投げてきたが、ミサとラックはそれを無視する。
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