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しおりを挟むザルフィナは、唇だけで微笑した。
「……さようなら。大嫌いなメルウィンさんの、一番弟子くん」
ラックの視野が暗くなり、いよいよ意識が途切れると自覚した、その刹那である。
部屋の巨大な窓ガラスが、外側から勢いよく打ち破られた。
けたたましい音と共に、ガラスの破片がきらめきながら室内に散る。
部屋に響いたのは、じつに緊張感のない声であった。
「ラックくん、助けにきたぞーぅ!」
「無事ですか、ラックさん!」
そこにいたのは、翼を広げてミサを抱きかかえているメルウィンである。どうやら、彼が窓ガラスを外から破壊したらしい。
窓が壊されたことによって風が室内に侵入し、ザルフィナの長い銀髪を大きく揺らした。
緩慢な動作で、ザルフィナは乱入してきたふたりに振り返る。
と、メルウィンがザルフィナとラックを指さして声を荒げた。
「あっ、ザルフィナくんがラックくんの首を絞めてる! こら、人質に手を出すのはやめなさい!」
「やめてください!」
緊張感の欠片もない台詞である。
しかし、ふたりの登場によって、先程までは危うい雰囲気だったザルフィナの様子がいつもの調子に戻っているのがわかった。
それに安堵している己を、ラックは妙に感じる。
ザルフィナは呆れた表情でメルウィンを見た。
「ひとの家に窓から入ってくるなんて、ずいぶんとお行儀が悪いですね」
「おや、まさか僕がきちんと玄関から呼び鈴を鳴らして入ってくるいい子ちゃんだとでも思っていたのかい?」
「まさか。あなたにそんな真似をされた日には、詐欺を疑いますよ」
「いや、そこまで言わなくても」
眉尻をさげるメルウィンに、ミサが追い打ちをかける。
「日頃のおこないが悪いせいですよ」
「いくら僕でも、ひとんちにはちゃんと入るよ~。今回が例外だっただけで」
返すと、彼は杖の石突きで床を突いて、キンッと音を鳴らした。
「さぁ、ラックくんを返してもらうぞ! その子には、まだまだ僕のお世話をしてもらわないといけないんだから。あと、そろそろラックくんの首を絞めるのをやめてあげてほしいね!」
その言葉に素直に従ったわけではないだろうが、ザルフィナはゆっくりとラックの首から手を離す。
急速に喉に流れ込んできた空気で噎せたラックを横目で見てから、ザルフィナはメルウィンに向き直った。
「返す? 順番が逆でしょう。まずは、ミサさんをこちらに渡してください。話はそれからです」
「いーや、ミサちゃんは渡せない。だって、本人がそっちに行きたくないって言うんだもん。ね、ミサちゃん」
「はい。ザルフィナさんのもとへ行くわけにはいきません」
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