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第7章 学園生活 不穏な夏休み編

第160話 エレメンタルモルツ

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 翌朝

 朝食や身支度を済ませた後に商業ギルドに向かうと、受付の方に商業ギルドの倉庫に案内された。

「待ってたよ、ここに出せるだけ出して貰っても良いかい?」

 近くに馬車が3台停まっていたりと、結構な人が居た。

「は~い」

 セレスは明るく返事すると、倉庫の隅からどんどん麦袋を出していく、そしてあっという間に倉庫がいっぱいになった。

「まだいっぱいあるんだけど……」
「あぁ、それぞれの馬車に50袋ずつ出して貰っても良いかな?」
「は~い」

 今度は馬車の荷台に麦を出していく。

 昨日の時点で5トンって言ってたし、多分今倉庫には10トンとか20トン単位で麦が余ってそう……。

「これでいい~?」
「あぁ、そしてこっちだ」

 シルビアについて行くと、様々な苗や種袋が置かれていた。

「ヴェネスから聞いている、果物なんかの種をさがしていたんだろ?」
「おぉ~、全部貰って良いの!?」
「構わない」
「やった!」

 苗やら種袋を一つ一つ手にすると、どこかの空間に消していた。

「この後、町の者達に麦袋を渡して行くが手伝ってくれるか?」
「いいよ~」
『ボクも手伝う~』
『うちもや、人形出して』

 まん丸用のミスリル粒子とミント用の木製人形を鞄から取り出すと、二人がゴーレム化した。

「私は……」
『強化でもして手伝うか?』

 断ろうと思ったのに……。

「無理しなくて良いぞ」
「じゃあ、無理しないで見てます」
「分かった」
『いいのか?』

 一応冒険者をやっているけど8歳だし?

 大丈夫だよね、なんて思っていたが、私より小さいリンクル族の子が運搬を手伝っていた。

 私より小さい子が手伝っていたら、手伝わない訳にいかず……。

「はぁ……、手伝います……」
「そうか、助かる」

 シルビアの指示通りに麦を移動させていた。

 賢い私はひらめきました。全部鞄に詰めちゃえばいいと、名案!

 とりあえず10袋を鞄に詰めて、シルビアの指示通りにおいていく簡単なお仕事に変化。

 ギルドの1階にある程度積み上げられると、シルビアからストップが出た。

「これくらいで良いだろう、集まってくれ」

 シルビアがそう言うと、ギルド職員とおぼしき人達がシルビアの周りに集まった。

「皆も既に知っているだろう、これから町者達が麦をとりにくる、極力トラブルのないようにエレメントモルツを無料配布する。ダブって渡さないように気をつけろよ、記憶力の良いグランツには列の整列を任せる。不正を働こうとする奴ははじいてくれ」

 エレメントモルツ?
 もしかして、精霊達が作った麦の名称?

「っは!」
「1家庭につき1個ではなく、1人1個だからな」
「「「「「はい!」」」」」

 赤ちゃんとかでも1袋もらえるとなったらそれはずるい気がするけど、ミルクの代用品でも用意すべきだったのかな?

「では、それぞれの持ち場に着いてくれ!」

 シルビアがそう言うと、ほとんどの職員が外に出て行った。

私の持ち場ってどこだろか?

「ラミナ、セレスちょっと来てくれ」
「はい?」
「は~い」
「昨日言っていたパン職人だ、2年前までトロランディア帝国の帝都でパン工房をやっていてな、パン作りの腕は確かな男だ、ラック来てくれ」

 シルビアが呼びかけると、一人の高齢男性が入ってきた。

「良かったら使ってやってくれ」
「この老人にまだ働けと申しますか」
「ギルドに居ても暇だろ?所属はギルド職員のままで出向という扱いにする」

 って事は、商業ギルドの職員なのかな?

「はぁ、分かりましたよ、エレメントモルツで作ったパンを食べてみたいですからなぁ」

 それは私も食べてみたい。

「では頼む、二人とも案内してやってくれ」
「こっちこっち!」

 私が返事する前に、セレスがラックを引っ張るようにして出て行った。

 1人取り残され、慌てて後を追った。

 私が追いついたときには、セレスがキッチンを紹介したり各備品のありかなんかをラックに伝えていた。

「ほっほ、ありがとう」
「ん~ん、これ小麦粉ね」

 セレスはそう言って、キッチンのカウンターに1袋のドンとおいていた。

 ん?
小麦粉?
製粉したのかな?

 私の記憶の中では昨日の時点では脱穀しただけの麦だったと思ったけど?

「製粉機つくったの?」

 誰かに問いかけるわけでは無く、その辺りにいる精霊達が答えてくれるだろうと思い口にした。

『地の子ども達が水車を作りましてね、麦と小麦粉を分けたんです』
「へぇ」
『あっちはもう開墾終わってんねん』
「広げる要素はなくなったと」
『そうだね~』

 広大すぎる農地……、ほんとどうなるんだろう?

「あの~何か手伝うことあります?」
「いや、初めて使う感触の麦だから手伝わんでいい」
「そうですか」

 客席に座り、ガラス越しに商業ギルドの入り口を眺めて過ごしていた。

 どれだけ時間が経っただろうか?

 気づけば良い匂いが店内に広がっていた。

 キッチンの方を見ると、セレスがすごい笑顔でラックの動きを見ていた。

「もう出来るのかな?」
「あぁ、もうちょいだな」

 そして数十分後、オーブンから綺麗な色をしたパンが出てきた。

「ほれ、食べてみ」
 
 鉄板から直接パンを受け取り口に含んでみると、柔らかくてもちもち!

『美味しい』
『ほんまや、なんやこのもっちもち最高やなぁ!食べた瞬間、口の中でほわっと広がる感触がたまらんねん。美味しいわ』
『あぁ、これまで食べたどのパンよりもうまいな』
『ラミナ~、ワイバーンの皮膜、葉っぱに包んだのまだ残ってるよね~?あれ挟もう』
「あ~、やってみようか」

 カバンから葉っぱにくるまれた焼き皮膜。

 カバンからナイフを取り出しパンを半分にして、焼いた皮膜を挟んで口にした。

「美味しい!」
『美味しいですね』
『柔らかいパンに、美味しい焼き肉を挟んで食べたら、めっちゃウマいわ!パンのもちもち感と焼き肉のジューシーさが絶妙に絡み合って、舌の上で踊る感じやなぁ。最高や』

 ミントの感想が……。

『これまたうまいな』
『だね~タレを工夫したらもっと美味しくなりそう~』
「ラミナ貰って良い!?」
「ワシも貰って良いかい?」
「どうぞ、どうぞ美味しいので是非2人とも味わってみてください!」

 皮膜だけでも美味しかったが、もっちもっちパンと合わさるとさらに美味しかった。

「うわぁ~おいしいね~」
「ほっほ、これはサンドイッチとはまた違う味わいですなぁ」
「ワイバーンの皮膜部分はもう無いんだけどね……」

 今食べたのは夕べの残りだ。

「だけど色々なお肉で代用できそうだよね」
「多分?この辺りで美味しい魔物の肉って何ですか?」
「ファイティングボアですかなぁ、ここから東の森の奥にいくと彼らの生息域ですな」
「ん~私でもギリギリいけるかな、ちょっと行ってくる!」

 セレスはそう言うと、店を飛び出していった。

「ほっほ、元気なお嬢さんだ、そちらのお嬢さんはどうするんだい?」
「ん~……」

 特にやることもないし、ミネユニロント王国に向かいたいんだけども……、あっ。

「そういえば追跡者ってどうしたの?」
『ラックバードで見失っていますね』
『それに奴らも状況が変わって追跡中止だ』
「ぇ?なんで?」
『後でお話ししますよ』
「うん……」

 地中を通ったから痕跡なんてないけど、なんで中止!?

「セレスが帰ってきたら、私達もミネユニロント王国に向かおうか」
『だな、トロランディアから戦争を仕掛けられる心配も無くなったし良いんじゃねぇの?』
『そうですね、私も同感です』

 ロシナティスとトロランディア帝国は、セレスとシルビアがなんとかしてくれるだろう。

セレスがファイティングボアを数匹討伐できたのか、素敵な笑顔で帰って来た。

「お待たせ!」

 キッチンカウンターに並べたのは既にばらされた肉のブロックだった。

「これを焼いて挟みますか?」
「うんうん、美味しかったらお肉を挟んだのを配ろう!」
「わかりました。しばらく待ってておくれ」

 ラックが肉をスライスし焼きはじめた。

「ねぇセレス」
「ん?」
「私達そろそろミネユニロントに向かおうと思うんだけど」
「そっか~、私は離れられないけど元気でね」
「うん」

 割とさっぱりした別れになりそう?

「んじゃこれ」

 セレスから渡されたのは4枚のカードだった。

 クゥから貰ったカードと似たようなものだから、どこかに繋がるやつかな?

「これ農場に繋がるカード?」
「そそ~もう一つはここの地下倉庫にでるやつ」

ここに来れるなら、美味しいパンが何時でも食べられる!

ちょっとうれしいかも!

「ありがとう!」
「うん!数日後に倉庫覗いてね、色々用意しておくから」

 色々?

 何だろうか?

「うん、ありがとう!じゃあまたね」
「うん!」

 しんみりした別れにならず、私はセレスの自宅を後にして、そのままロシナティスの町を出た。
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