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願いを叶える薬

第74話 嵐

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 セイレーン騒動から数日後

 医者兼シェフとしての仕事も慣れ時間に余裕が出来るようになった。

 今日の分は終わり片づけを終えユキと一緒に甲板にでると、帆桁部分に海鳥が沢山止まっていて、うるさいくらいに鳴いていた。

「キュィーー!」
「ん?」

 ユキは鳴くと同時に操舵輪を握っているマリベルの元に走っていった。

 何があったんだか?と思いながらマリベルの元にいくと。

 マリベルの肩の上にユキが居た。いつの間に仲良くなったんだか。

「ユキが何か言ってます?」
「あぁ大きな嵐が来るってね、海鳥たちが警告しあってるんだと、まぁ気圧も下がってきてるから嵐が来るのはわかるんだが規模がいまいちつかめないんだよ」
「そうなんです?」
「あぁいつもは規模も分かるんだが……」

 何か嫌な予感がする。

 マリベルの見えないところで久々にスマホを取り出し天気アプリを起動させると、進行方向の海上に台風が存在していた。1個だけじゃなく少し離れたところにもう1個あった。

 しかも、奥にある台風の気圧が900hPaと表示されていた。

 これって不味いレベルだった気がする。雨雲レーダーを見ると、進行方向は真っ赤で豪雨を示していた。

 地図アプリを開くと既にフェンブル王国の沖合にいて、直進したところに王都クロンベがある。このまま近くの港に退避するとしたら何処だ?

 地図アプリを開いて確認すると、少し離れているが2つの港町がある。

 カナレンかアポロトだ!

「ユキの言う通りです!この先台風がある、さらに奥にも台風がある!」
「ん、それは迷い人の知識からくるのか?」

 知識ではなく機器だが。

「あぁそうだ!」
「だとまずいな!」
「この近くの港町だとカナレンとアポロトですよね、寄れないですか!?」
「カナレンまで半日かかる!おそらくは……」
「間に合わないと」
「あぁ」

 間に合うかどうかと言われれば、半日もかかるなら間に合わんきもする。どうみても嵐に突っ込むまで1時間もあるかどうかだ、どうする?

「ユキ、悪いんだけど幻影をマイアのとこに飛ばして現状を知らせろ」

 マリベルがユキに指示を出していた。

「キュィ~!」

 さて、自分に出来る事はなにがあるかな?結界魔法?雨と横と上からくる波をはじくイメージをすればいいか?

「全員聞け!嵐が来る!今すぐ帆をたため!休んでいる奴も急ぎ呼べ全員でさっさと作業!」
「「「「「「はぃ」」」」」」

 マリベルが指示を出すと仕事をしていた水婦達が急ぎマストをたたむ作業を始めた。

 自分も出来ることをしよう。

 出来るか不明だが、地面に両手を付けイメージは、雨と風と前後左右上からくる波をはじく結界!

「結界!」

 手元から魔法陣が広がっていく。船全体表面に魔法陣に包まれた。

 多分自分が出来る精いっぱいの事だと思う。あとは嵐の中で出た怪我人の対応だろう。

 船長室からマイアが出てきてそのままマリベルの元に駆けよると。

「マリベル!」
「マイア聞いたか?」
「えぇ、急ぎ対応を」
「すでに指示を出した!」
「そう、私達も手伝いましょう」
「あぁ」

 2人は水婦達と一緒に帆をたたんだりと嵐の準備を始めていた。

 こんな時自分が手伝っても足手まといなのは理解している。

 食堂に戻り、固定されている椅子や机を片付け始めた。片付けている途中から船が大きく前後左右に揺れるようになってきたが、そのまま片付け万が一の時用のスペースを作った。

 外に出ると、周囲は雨が降り始めていたが、結界のおかげで船の甲板は濡れることなく乾いていた。

 この調子なら波を被る心配はないだろう。

 甲板には、マリベルが操舵輪を握っていたが、マイアをはじめ、水婦たちの姿はなかった。おそらく皆嵐に備えて室内に入ったんだろう。ならば自分も食堂に戻り嵐に備えることにした。

 厨房裏部屋からハンモックを持ってきて食堂天井にあるフックに引っ掛けた。

 次第に揺れが大きくなりハンモックの上に退避したが、ユキは傾く床が楽しいのか、床を滑って遊んでいた。

 しばらく40度くらい傾いてない!?なんて思えるシーンでもユキはキュィ~とか楽しそうに鳴きながら遊んでいる。

 一方外からも波の音や何かが甲板に叩きつけるような音が聞こえる。バキとか折れたり壊れたりするような音じゃないから大丈夫だと思うが、何が落ちてきてるんだろうか?

 そんな状態が5時間程続くとようやく揺れがだいぶ収まってきた。ユキは遊び疲れたのか隅っこで丸くなっていた。

 天気アプリを見ると台風と台風の間だ、しかも次の方が酷い、今のうちに修復する必要があるところは修復するだろうから何か手伝えることはと思い甲板にでると、そこには大量の魚類やクラゲなんかが打ち上げられていた。

 結界がはじくのは波だけだから波の中に居た魚が甲板に落ちてきたんだろう。

 周囲には点検している水婦達が居る中、自分は急ぎ浄化で血抜きしながら魚を回収していきつつ、操舵輪の所にいるマリベルさんの元に行った。

「大丈夫でしたか?」
「あぁ、今の所船の損傷も怪我人も居ないな」
「そうですか、ただ次の嵐は」
「あぁ、大きいんだろ」
「えぇ」
「まぁあんたが結界を張ってくれているから大丈夫だろうが用心しておいてくれ」
「はい」
「ところでユキは一緒じゃないけどどうしたんだ?」
「あぁ、さっきまで床滑りで遊んでましたからね疲れて丸くなってますよ」
「なるほど、次は大きいから遊ばずに避難しろと伝えとけ」
「了解です」

 とりあえず怪我人破損個所がないならよかった。

 次の嵐に備えて食堂に戻る事にした。


 次の嵐も大きかったが、ユキと一緒にハンモックで揺られながら最初の嵐と大して変わりなく過ごした。
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