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プロローグ

第1話 プロローグ

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「はぁ今日もダメだったか、もうちょっと控えめでいい子いないかなぁ~」

 自分しかいない部屋で独り言をつぶやいた。

 自分の名は、伊東 誠明(いとう まさあき)35歳、都内の大学病院で脳外科医を経て救命救急センターで救急医をしている。

 仕事は順風満帆でとても充実しているが、プライベートは全く充実していない、その理由の1つは年齢=彼女がいない歴という事だろうか、学生時代になんどか告白された事があったが、色恋沙汰よりも医者になる事を優先させ断ったが、今となってはその選択肢を取ったことをとても後悔している。正直5年位婚活しているが理想とする女性に会えず婚活に疲れていた。

「はぁ~ほんとに誰かいい子紹介してくれないかなぁ」

 と、呟きつつ眠りについた。


◇◇◇◇◇◇

翌日のお昼

 院内の売店に行くと、そこには自分の命の恩人でもあり医者としての師匠である脳外科医の秋津先生がいた。

「秋津先生!」
「お、伊東君か、久しぶりだね救命に移ってからはどうだい?」
「先生が教えてくれた通り色々勉強になりますね」

 2年位前に秋津先生からの提案で脳外科から救命救急に異動した。当時は秋津先生からまだまだいろいろな事を学びたいと思ったが、秋津先生に説得され救命救急に渋々ながら移動したのはいい思い出だ、あの判断のおかげで自分自身医者としてずいぶんレベルが上がったと実感していた。

「だろうね」
「秋津先生、いい子紹介してくださいよ~」
「そのセリフ久しぶりに聞いたな、お昼まだなら、久々に蕎麦屋にいくかい?」
「ぜひ!」

 この人と外食するときは必ず病院の近くにある蕎麦屋につれていってくれる。

 その後、病院を出て直ぐ近くの蕎麦屋に移動した。

 店に入ると。

「秋津先生いらっしゃい、空いてる席へどうぞ」

 常連化しているのか食堂のおばちゃんに名前覚えられてる。

「秋津先生、結構ここ通ってるんですか?」
「そうだね、ほぼ毎日帰りに寄ってるからね」
「そうなんですね」

 昼時間も後半に入りそうな時間の為かポツポツと空席が出来ていて、自分らは空いてる席に移動した。

 お店のおばちゃんが来ると。

「いつもの天蕎麦で、伊東君は?」
「ぼくはきつねで暖かいのお願いします」
「はいよ、すこしまってな」
「伊東君きつね好きだね」
「甘いお揚げが好物なんですよ」
「へ~そうなんだ」

 秋津先生がおしぼりで手を拭きながら。

「まだ婚活やってるんだ」

 “まだ”ちょっと心にグサッと来た……。

「そうですね……、まだやってますよ」
「いい子との出会いはないの?」
「女性との出会いはあるんですけど、なんかお金目当てって感じなのが多くてですね……」
「あぁ僕らは高給取りの部類だからね、安定した生活を求めるなら仕方ないんじゃないかなぁ」
「それでもですよ、婚活パーティーとか行くと一番最初に仕事か年収の話を持ってこられると、仕事やめる=離婚思考の人が多いんだなって思っちゃうんですよね~、何かあった時に支え合うんじゃなくて、別れるって選択肢取りそうな人しかいないんです!」
「そっか……それは思い込みな気もするがなぁ」

 秋津先生は少し引いている気がした。

「とりあえず!いい子が居ないんです!」
「伊東君の理想の子ってどんな子なの?」
「見た目ですか?」
「見た目もだけど内面的なものもかな」

 理想の子か~。

「見た目はスポーティーな感じな子だと惹かれますね。あとは女性として魅力があると良いですね」
「スタイルがいい子?」
「まぁそうですね、女性として見れない人はちょっと抱ける自信が無いですね……」
「内面は?」
「そうですね~活発な子がいいですね、インドアよりはアウトドアなタイプとか」
「あれ?救急にいる南さんとかは?あの子確か空手やってたり活発だしスタイルは良さそうだけど」
「南はダメです!性格がきついです!気が強すぎます!」

 28歳位の子なんだけど、患者さんに対してすごく怒鳴ってた事がある、まぁお尻触られたって言っていたから仕方ないだろうなとか思いつつも、結構きつい事言ってた記憶しかない。

「まぁ看護師やってる子の殆どは気が強い子が多いかな……、ボクが紹介できる子は居ないよ、萩原さんに言ってみたら?」

 萩原主任看護師、ほんわかしたお姉ちゃんタイプの女性だ、異動したばかりの頃は色々世話になった。

「看護主任ですか?」
「そうそう萩原さんなら色々知り合いいそうだしね~」
「そうなんですかね?」
「うん、今度相談に乗ってもらいなよ、言いづらかったらボクも入るからさ」
「萩原さんって知り合いなんです?」
「知り合いというか、同じ時期にこの病院に来た同期だね、この病院内にいる人だったら一番仲がいいと思うよ」

 初耳だった、どちらからも双方の話を聞いたことが無かった。

「そうだったんですね、萩原さんに聞いてみます」
「あぁそうしてみ」

 その後、そばを食べきりお互い職場に戻った。

 救急のナースステーションに行くと萩原主任が机に向かって書類仕事をしていた。

「萩原主任、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたんですか~?」
「今夜ご飯でもどうですかね?」
「あらあらまぁまぁ~若い子からのお誘い~私一応既婚者ですよ~?」
「あ、いや!2人じゃありません!秋津先生も誘っています!」
「あ~秋津先生も一緒なんですね~すると~婚活絡みかなぁ~?」
「どうしてそれを?」
「伊東先生が婚活しているのは有名ですからね~」

 自分が婚活しているのは有名なのか?初めて知った気がする。外科に居た頃はよくそんな話をしていたが、救急にきてからはしなくなっていたのに。

「そうですか、それでは」
「そうですね~、ご飯は行きませんが私と一緒にあるところに行きましょう~」
「あるところ?」
「そうです、良く当たる占い屋さんですよ~私から見ると占いというよりは予言に近いように思いますが~、いつどこで出会うとかもはっきりと教えてくれます~」

 占いか、統計学的な物って言うしあまり信じてないんだがな……、良く当たるなら行ってみるのも有りかな?

「わかりました。お願いします」
「は~いお願いされました~、それでは終業後入口で落ち合いましょう~」
「はい」


◇◇◇◇◇◇

 終業後入口に行くと、既に萩原さんは待っていた。

「すいません遅くなりました」
「いえいえ~、それでは行きましょうか~」
「はい」

 萩原さんが前を歩きすぐ後ろを自分がついて行く感じだった。

 しばらく歩いたがまだなのかな?

「どこまで行くんですか?」
「もうすぐですよ~多分今日は行けるはずです」

 今日は?

「行けない時もあるんですか?」
「ありますよ~、何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないという噂ですね~実際に私も何度か行けなかった事がありますね~」

 なにそれ、そんな場所なんてあるんだろうか?
 そんなところに行ってもいいのか?と思うと少し不安になった。

「どこにあるんですか?」
「この先左に曲がると細い路地になるんですが~その途中にありますよ~」

 辺りを見渡すと下町と言われる住宅街になっていた。そのどこかなのだろうか?

「行けない時ってどんな感じなんですか?」
「そうですね~細い路地まではいけるんですが、その後迷子になったかのように、その場所にたどり着けないんですよね~不思議ですよね~一時期ネットでも話題になったんですよ~」
「へぇ~」

 なんかそんなアニメがあった気がするが、そんなところにこれから行くというのか、大丈夫なのか?

「この路地ですよ~左手に鈴木って表札が見えたらそこです。あったら教えてくださいね~」
「はい」

 しばらく歩くと塀が途切れている場所があり門があった。門の横には表札がありそこには鈴木と書かれていた。

「萩原さん、ここです!ありましたよ」
「あら?ほんとですね~気づきませんでした」

 どういうトリックなんだろうか?萩原さんの方が前を歩いて左側に注意を向けていたと思ったが、後ろを歩いていた自分の方が先に見つけてしまった。

「中に入りましょうか~」

 萩原さんと一緒に門をくぐり玄関まで来ると、萩原さんがインターホンを押す前に中からすらっとした女性が出てきた。

「伊東さんと萩原さんですね、お待ちしておりました」

 あれ?名乗っていないのに……、もしかしてあらかじめ予約の電話を入れておいてくれたのだろうか?

「こずえさん、お久しぶりです」

 こずえさんというのか、すらっとしていて出る所は出てるスタイルは良さそうだなぁ、顔立ちもきりっとしていて釣り目のお姉さん?と行った感じだったが、見た目が10代後半から20代前半って感じなのにもかかわらず雰囲気は30代後半以上の色っぽさを感じた。

「そうですね、先生がお待ちしていますのでどうぞ」
「はい、お邪魔します~、伊東先生もこずえさんに見とれてないでいきますよ~」

 萩原さんに言われて気づいたが、不思議な雰囲気を醸し出しているこずえさんに見とれていたらしい。

「あ、はい、お邪魔します」

 玄関を上がると、微かだがお香だろうか?そんな香りがした。

 こずえさんが前をあるき、萩原さん、自分と続き廊下を進んで行くと。

 こずえさんが立ち止まり、横の襖をあけた。

「萩原さんはこちらでお待ちください」
「は~い」
 
 そう言うと萩原さんは部屋に入って行った。
 ちらっと部屋を覗いたが6畳ほどの和式で中央の机には茶菓子が置かれていた。

「伊東さんはこちらです」
「はい……」

 なんか、このままついて行くと別世界に連れて行かれそうな感じを覚えた。

「緊張されているんですか?」

 突如こずえさんがこちらを見ず歩きながら話しかけてきた。

「そうですね、なんというか別世界に連れて行かれるような感覚が」
「ふふふ、そうですねここを訪れる皆さん同じような事を言いますよ。私も初めて来た時はそう思いましたから」

 萩原さんが居た時とは違い、少し妖艶さを感じる喋り方だった。

「そうなんですね……」

 行きたいと思ってもたどり着けない場所、そしてこの家の雰囲気といい本当にこの世にある場所と思えなかった。

 廊下の突き当りまで来ると、こずえさんは襖をあけた。

「部屋の奥にお進みください」

 部屋に入ると、そこには広めの部屋で、あちらこちらに火が灯った蝋燭があった。光源が蝋燭の火だけの為か薄暗く神秘さが増していた。

「こっちにおいで」

 部屋の奥から、お婆さんの声が聞こえた。

 声のした方へ歩いて行くと、白髪でシワシワのお婆さんが居た。

「よく来たね、そこに座んな」

 それだけ言うと、自分の横を指さしていた。お婆さんの指す場所をみると木製の椅子があり、そこに腰掛けた。

「今日来たのは、あんたに結婚相手が出来ない事だね?」
「そうですね、いい相手に出会えないので、いつどこで会えるのかを知りたいんです」
「そうさね~」

 それだけ言うとお婆さんは静かに目を閉じた。何か考え事をしているのだろうか?

 しばらくするとおばあさんが目を開けた。

「まず、お前さんの相手は日本にはおらんね~」

 ぇ、まさかの金髪お姉さんと結婚!?

 いつかは出会えると思うと凄くワクワクしてきた!

「国際結婚ですか?」
「ちと違うが似たようなものかのぉ?」

 ん?どういうこと?
 もしかして海外に住んでいる日本人とかそういう事か?

「いつぐらいに出会えるんですか!?」
「何時くらいか……、それはお前さん次第だな」

 自分次第?

 自分がこの先、何かあってその選択するのが何時か不明という事か?

「それはこのままだと会えないという事でしょうか?」
「そうだねぇ、このままだと会えないだろうね、良いかい?その娘と会う為にはあんたが今持っている人とのつながりなんかをすべて捨てなければならない」

 どこの国だろうか?
 お婆さんが、“人とのつながりを捨てなければならない”と、言うって事は連絡が付きにくくなる国って事か?
 今人脈を切りたくないと思うのは、命の恩人であり、医師としても師匠である秋津先生位か? 

 両親は数年前に他界しているし、友達は居ないしなぁ、職場の仲間でつながりが無くなって惜しいと思える人は居ないかな?

 改めて思う、自分ってすごく寂しい奴なのでは!?

「人脈を捨てるという部分では特に問題は無いですね」
「ほっほ、だろうねぇ、お前さんと深いつながりがあるのは1人だけしかおらんみたいだしのぉ」
「わかるんですか?」
「それ位はね、明日は仕事休みかい?」
「明日は仕事ですね、明後日明々後日はお休みです」
「そうかい、それなら3日後またここにおいで、それまでに旅に出る準備をしておきなさい」

 3日後に旅に出るのか?旅行とか出張じゃなく旅?

「出張とかじゃなく旅ですか?」
「そう、例えるならアフリカ等のどんな発展途上国よりも発展していないところに行くつもりで準備しなさい」

 どんな辺境の国に行くんだろうか?

 仕事は辞めた方がいいのか?

「仕事の方は?」
「そっちは気にせんでも良い」
「そうですか……」

 仕事は気にしなくても良いのか?

 一番気にしなきゃダメな所じゃないのか?

 とりあえずキャンプのセットとか買った方が良さそうだな、秋津先生の趣味がキャンプだったはずだし、挨拶がてらアドバイスを貰っておこうかな?

「とりあえず3日後、旅支度をしてここに来ればいいですか?」
「そうじゃ、それでよい」
「わかりました」

 その後、鈴木さん宅を後にし萩原さんとは駅で別れ家に帰った。


◇◇◇◇◇◇

 3日後あの占いの鈴木さん宅へやってきた。

 辺境の地という事で、本当に色々な物を買った、好物の酒類、趣味の釣り道具、様々な工具に斧や鉈だけではなく農作業も手伝えるように鍬や鎌、ジョウロ等の農具、キャンプ道具に食材に非常食に水に風邪薬や胃薬に傷薬等の市販・通信販で買える薬、そして仕事道具である様々な手術で使う器具を一通り購入した。もちろん届いてない物もあるが、貯金がすっからかんになる位は準備した。

 流石に今日は物を持ってきていないが家にはある、いつでも旅先に送る準備も出来ている。

 これだけあればどんな状況下でも手術は出来る!野戦病院でも働けるはず!自分なりに準備万全にした。

 占いの館に着くとやっぱりインターホンを鳴らす前に、こずえさんが出てきた。

「お待ちしておりました。案内しますね」
「お願いします」

 あの時と変わらず不思議な感じがする館の中を案内され、占い師の元まで来た。

「ほっほ、十分すぎる位に準備したねぇ、あんたに紹介したい人が居る、出ておいで」

 それだけ言うと、お婆さんの横に、1人の女性がスーッと言った感じで現れた。
 あれ?どこにいたんだろう?さっきまで誰も居なかったような?

 その女性は、黒髪のポニーテールでちょっときつめな釣り目だったが、優しい感じ雰囲気を醸し出してギリシャ神話の女神様が着ているような白い服を着ていた。

「紹介しようかね、彼女の名はユスチナこれからお前さんが行く世界の創造神だよ」

 お婆さんがそう言うと、横に立っていた女性が頭を下げた。

 自分が行く世界の創造神?どういうこと?

「もしかして地球じゃないところに行くって事ですかね?」
「そうだよ、ユスチナが作った世界に行くのさ、お前さんの相手はそこに居る。怖気づいたかい?」

 いや、そうじゃない、ユスチナと呼ばれた創造神とお婆さんの関係の方が気になった。

「いやそうではないのですが……、お婆さんはいったい……?」
「こうやってお前さんの様な迷い人を導くしがない占い師さ、どうするかい?ユスチナの創った世界に行くかい?」
「後日ってことも出来るんですか?」
「いや、チャンスは今日だけだね」

 それは行かないという選択肢がなくないか?
 行かないと生涯独身が約束されるようなものじゃ……。

「行かないと、生涯独身確定なんですよね?」
「そうだねぇ、あんたが求める女性はこの世界に居ないからねぇ」

 なら、選択肢は一つしかない!

「行きます!連れてってください!」
「ほっほ、そう言うと思ったよ、行ってきな、たっしゃでな」

 お婆さんは自分に向かってそう言うと、横に居たユスチナと呼ばれた女神様がこちらに寄って来た。

「先生つないでくれてありがとうございます」

 女神さまは自分を見たままお婆さんにお礼を言った?

「あぁ、そういう約束だからね、行っといで」
「はい、それでは」

 と、女神様が言うと、一瞬で辺りは宇宙空間のような場所になった。

 女神様の背後には大きな青い地球の様な星があり、他にはその青い地球の様なものの周囲を2つの月?の様なものが回っていた。

「えっと……」

 何と言って良いのか分からないでいると。ユスチナが微笑みながら話しかけてきた。

「改めまして、私は後ろにあるユンワールドの創造神をしていますユスチナと申します」
「自分の名は伊東誠明と申します。よろしくお願いします!」

 これが創造神ユスチナとの出会いで、嫁ちゃん探しの旅の始まりだった。
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