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王都ヴェンダル

第93話 謁見

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 リリィの後について行き、謁見の間に通された。

 既に王も玉座に座り待っていた。

 リリィを先頭に謁見の間に入ると、座っていた王が立ち上がり頭を下げた。
 それに合わせて右側に居た貴族達も頭を下げた。

「皆様は、こちらで」

 それだけ言い残し、リリィは王の横の列に加わった。
 すると、王が顔を上げた。

「使徒殿、このたびは忙しい中ご足労いただき感謝する。」

 そして再び王を含めた皆が頭を下げた。

「オスカー殿、震災直後の迅速な判断と行動に感謝する。あの場でそなたが冒険者らに直ぐ指示を出したから助かった命も数多くあるだろう」
「自分は当然の事をしたまでであります!」

 王の発言に対し、ビシッと敬礼を決めるオスカーがかっこよく見えた。

「そしてチェルシー殿、私財をなげうって被災者支援をしてくれたことに感謝する。そなたの行動で多くの者が救われただろう」
「いえ」

 チェルシーは、オスカーと違いクールな反応だった。

「そして、直人殿、瞬時に重傷者を見分ける目、そしてどんな怪我も迷いなく迅速に治療する腕はまこと見事だった。そなたがいてくれたおかげで多くの命が助かっただろう。そして娘の事も感謝している。ほんとうにありがとう」
「いえ……」

 こういう時、どのように表現すれば良いのだろうか?良く分からないと言うのが正直な気持ちだった。

「直人殿、そなたは冒険者だと聞いている。もしよければ宮廷医師の皆に知識と技術を伝えてもらうことは可能だろうか?」

 呼び出された時点で想定していた提案だった。

「既に町中で医師をしている者達に伝えています。彼等から学んでください」

 正直偏見だと理解した上で、実務経験から言えば町医者達の方が圧倒的に多いと思ってた。
 既に知識と教えている町医者達は人に伝えることで学ぶことがあるだろうし、宮廷医師の方々は、町医者の彼等と共に実務を積むべきだと自分は思っていた。

「なぜそのような事を言うのだ?」

 当然の質問だと思った。

「自分の考えですが、町医者達は、常に患者と向き合っています。宮廷医師の方々1日何件くらい患者を見ているのでしょうか?10件も満たないのではないですか?」
「そうだな、1人辺り1日2~3件だろう」

 思っていた以上に少なかった。
 王族と近くに居る貴族だけか?

「お話になりませんね、彼らが町医者達から学ぶ意思があるのなら構わないですが、そうではないのならお断りします」

 エリート志向で、プライドの塊が町医者に教えを乞うというのはないだろうなと思った。

「ふむ」
「もっと言いましょうか、宮廷医師の方は、リリィ様の病の原因は何だと思っていましたか?追放されたレベルト様は原因を突き止めていましたよ」

 やった事は外道と言えるが、それでも遺伝子の存在に気づき、病気の原因に確信をもっていた。

「なんと、レベルトは原因を突き止めていたのか!?」
「えぇ、なので宮廷医師の方々がレベルト様と同じように原因が分かったら、その時は自分が教えても良いですよ」

 自分の中で最大限の譲歩だ、
 未知の医術を学びたいと想いか、プライドか、自分たちで遺伝子の存在を見つけるかどうなるかな?

「わかった、宮廷医師達に話してみよう、もう一つ提案なのだが、騎士団に入る気はないか?」

 何故?と思った。

「なぜです?」
「震災で表彰をしなかったが、青年の部で優勝している直人殿は十分な腕前を持っていると判断したからだ」

 そう言えば優勝していたな、ただあの時の印象は武器を壊されて泣いて詰めよってきたリースのしょぼくれた表情のほうが印象に残っていた。
 リースの刀作りもあるし今回は断ろうと思った。

「今はやりたいことが山ほどあるので、お断りします」
「そうか、やりたいことが終わればチャンスはあるのだな?」
「かもしれませんが、組織的な活動は苦手なんで期待はしないでください」
「そうか、分った」

 諦めてくれることを祈った。

『直人、ルークの所のお弟子さんが家に来ている。急患で手に負えないみたい』

 ルークとは、町医者の1人だ、弟子を家に寄こすとは、よっぽどの事なのだと思った。

『わかったすぐに向かおう』
「王様、急患の様なので、これで失礼します」
「急患?」

 王の言葉を無視し、謁見の間を出て王城を後にした。
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