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王都ヴェンダル

第71話 主を想う銀狼

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 山小屋に着いた頃にはすっかり日が暮れていた。行動速度上昇からの連続縮地で移動したはずなのに思っていた以上に遠かった。

 山小屋には明かりが灯っていた。

 近くで野営するなら挨拶の1つくらいはしたほうが良いだろうと思い、山小屋の扉をノックした。

 しばらくした後中から出てきたのは、立派なヒゲを生やしたお爺さんだった。お爺さんの目は赤く少し前まで泣いていたようだった。

「旅人かめずらしい、どうした?」
「夜分遅くにすいません、近くで野営させてもらってもよろしいでしょうか?」
「好きにしてくれて構わんよ。」
「ありがとうございます。ところでご老人、何かあったのだろうか?」
「なに、長年連添った相棒の体調が思わしくないのだ」
『シルバーウルフだね~体調が思わしくないというより、もう……』

 寿命が近いって事かな?

「自分は医者です。見せてもらっても構わないだろうか?」
「相棒は人ではないぞ?」
「大丈夫ですよ」
「まぁよい、入りなさい」

 中に入れてもらうと、凄く大きな白い狼が横たわっていた。

『この子、すごく強いね、シルバーウルフでは身につかないはずのスキルをいくつも身に着けているし何個か極めているよ、どれだけ強くなりたいって思ったんだろう……』

 横たわっているシルバーウルフに触れると強い想いが伝わってきた。

◇◇◇◇◇◇

シルバーウルフの記憶

 生まれて間もないころ群れがセンティピートに襲われた。
 群れのオス達がセンティピートに立ち向かい子持ちのメス達が群れから離れた。
 私の母親はセンティピートに襲われたときに腹部に大きな怪我を負ってしまった。その為か群れから離れるもおぼつかない足取りで歩いていたが、ケガの為かついには力尽きてしまった。

 私は、母親がなぜ倒れたのかがその時は解らずずっとそばに居た。

 どれだけその場にいただろうか? 気づくと見慣れない生き物が目の前にいた。

「おまえ怪我しているのか?」

 その生き物との出会いが私たちの出会いだった。

「こっちはお前の母ちゃんか?」
「クゥ~ン」

 少年が母親の元に行き様子を見るなり首を振った。

「ダメだ、お前の母ちゃんはもう息をしてない……」

 言っていることが解らないはずなのに何となく意味が解ったきがした。
 もう母親は動かないのだと言っている気がした。胸が締め付けられるような気持ちになった。

「クゥ~ン」
「待っていろ、このままでは可哀そうだからな」

 そう言うと少年が地面に穴を掘り始めた。
 しばらく少年を見守っていたが、私も手伝おうと思い少年の近くに行き一緒に穴掘りをした。

「おまえも手伝ってくれるのか?ケガしているみたいだし無理するなよ」
「クゥ~ン」

 その後少年と穴を掘り、少年が母親の亡骸を穴に埋めた。

「ん~どうするか、どう見てもシルバーウルフだよなぁ~父さんに怒られるきがするけど、連れて帰るか」

 そう言うと、私を持ち上げ体中を触ってきた。久々の温もりですごく安心したと同時にくすぐったい。

「おまえ血だらけだがどこを怪我しているんだ?」
「キャン」
「ごめんごめん、そっか親の血か安心したよ。」
「クゥ~ン」

 その後森を抜け、山にある小屋と思える小さな少年宅に連れていかれた。家の中に入ると少年の父親らしきおじさんがいた。

「どこ行っていた?」
「げ、もう戻っていたのかよ……」

おじさんは何か怒っている。

「げ、とはなんだ?」
「なんでもねぇーよ!」
「おまえが抱いているのはシルバーウルフの子か、何故ここにいる?」
「行ってねーし!すぐ近くで倒れていたから連れてきただけだし!」
「はぐれか?」
「じゃねぇの?」

 その瞬間おじさんが少年の頭にゲンコツをおとしていた。

「いってぇ~なにすんだよ!」
「おまえの服についている土このあたりじゃ北の森にしかないぞ?」

 そりゃそうだ、少年に抱かれここまできたが、家の周辺はゴツゴツした岩ばかりがある場所だった。

「ちげーし!ザクソンズの近くまで行っていただけだし!」

 その瞬間2度目のげんこつが落ちていた。

「ここからザクソンズ近くまで行って半日で帰って来られるかよ、北の森に行ったんだな?」
「ってぇ……、そうだよくそ親父!」
「2度と近づくな!あの森には主がいるから行くなと何度も言っているだろうが!」
「いいじゃねぇかよ……、ちゃんと帰ってきたじゃねぇか」

 3回目のゲンコツが少年の頭に落ちていた。

「そういう問題じゃない!今回はたまたま運が良かっただけだろうが、その狼が血だらけだろうが何でそうなったと思う?」
「こいつは怪我してねぇーよ、こいつの近くに大人の狼がいたから、そいつのだよ」
「その大人の狼はなんで怪我したと思う?」
「しらねーよ!」
「おまえも同じような事になると思わなかったのか?」
「っ……」
「いいか、2度と北の森には行くな」
「わかったよ……」
「それからその子はお前が責任をもって育てろ、シルバーウルフは人より頭がいいと言われているからな」
「わかったよ……」
「明日からそいつと一緒にバジャー狩でもしていろ」
「わかった」
「で、そいつの名前は?」
「……決めてねぇーよ!」
「そうか、ならマロンにしよう」
「母さんの名前じゃないか!」
「いいじゃないか、さきも言ったようにシルバーウルフは賢い、お前をいつまでも母親のように見守ってくれるように願って付けたのだ」
「……わかった」

 この時私は、マロンという名前をもらい、この家族の一員になった。

 その後、日々少年と共に高原を走り回りシルバーパジャーやザクソンフォックスやロックバード狩をするようになった。


 時は流れ、少年も大人になっても一緒に狩をしていた。そんなある日、彼の父親が病で亡くなった。

 彼は泣いていた。1日や2日じゃないずっと泣いていたのだ。

 その時私は思った。時々彼が私にしてくれたように、私も彼を抱きしめてあげたいと思った。でもこの身体じゃそれが出来ない、ただ側に居てあげるだけしか出来ない、その時初めて人になり側に居たいと思うようになった。

 数日後、彼はようやく立ち直り狩を再開したが、彼の姿は弱々かった。

 私が強くなって彼を守らないと、その日から彼と共に狩をするときに常に強くなりたい、彼を守れるだけの強さが欲しい、母親を殺したセンティピートからも守れる力が欲しいと強く想った。


数十年後

 彼と共に生き、共に生活をしていた。これまでは山越えをして王都に向かう人達の野営地の経営をしていたが、近くで地下道が出来た時から山越えをする人が居なくなった。

 それでも毎日狩をし、時々ザクソンズまで降り魔石や肉と皮を売りまた山小屋へ戻る生活をしていたが、最近は昔のようにうまく動けなくなってきた。このまま彼の父のように動けなくなるのが凄く怖かった。

 恐れていた事起きてしまった。

 ある日の朝、体を起こそうとしたが、身体が上手く動かない、立ち上がる事すらできなくなってきてしまった。彼が心配そうに私の世話をしてくれる。

 ダメだ、このまま彼の父のようになってはダメだ、また彼は泣いてしまう、弱くなってしまう私が死ぬのは彼が死ぬときだ、それまでは死ねない絶対に、これまで面倒見てもらい育ててくれた恩を仇で返すのは絶対にやってはならない、ただそれだけが私が生きる気力だった。

 動けなくなってどれだけの日がたっただろうか、意識が遠のきもう感覚すらなくなっているとき、突如いつもの彼とは違う触り方をされた。目を開けると、彼とは違う人が居た。その人は肩に濃い緑の光の玉が浮いていた。

『聞こえるかい?君はどうしたい?』

という声が頭の中に響いた。


◇◇◇◇◇◇


 秋津直人視点

 シルバーウルフの記憶を強制的に見せられた感じだった。それだけ死ねないという想いが強かったのだろう、正直彼女の記憶を見て泣いてしまった。

「どうした?あまりよくないのか?」
「いえ、この子の強い想いが……」

 ヒスイが以前、人になりたいと思った魔物いたと、オーガから鬼人族、妖狐は元が解らないが元は狐の魔物だったのだろう。

 そして、それは自分にもできると、彼女の記憶を見る限りおじいさんはずっと独身で常に彼女と共に生きてきた。

「1つ聞いても良いですか?」
「もしこの子が人だったら、結婚とかしていました?」
「そうじゃな、わしが辛い時もうれしい時もずっとそばにおってくれたからなぁ、結婚していただろうなぁ、願わくは来世は同じ種族で生まれたいですなぁ」
「そうですか、ありがとうございます。」

 運命というものがこの世界にもあるなら、きっと来世でも一緒になれるだろうけど、運命は自分が切り開くものと考えている。自分は来世ではなく今世で一緒になってほしいと思った。

 伝わるか不明だが、狼に触れると、ぐったりしたままだったが、弱々しく目をあけた。こっちを認識できているかな。質問してみよう。

『聞こえるかい?君はどうしたい?』

 反応がない、もう意識が無くなりかけているか、と思ったがもう一度。

『君は人として彼と一緒に生きたいかい?』

 と尋ねると直ぐに応えがあった。

『生きたい!彼が死ぬまででもいいから!』

 その答えと同時に目を力強くあけ頭を起こした。

『そうか、君の想いに応えよう』

 あとは簡単だった、狼の身体を人の身体に作り替えた。ただ彼女が持っていた能力や身体的能力を人の身体に+αで乗せ16歳位をイメージした。

 目の前には、白い長髪ストレートに獣耳でタレ目、白い触り心地の良さそうな尻尾を持った裸の少女がいた。めっちゃ可愛いな!

「マロンなのか……?」
「リアム~」

 裸の少女がおじさんにだきついた。なんというか孫と爺さんだな……おじいさんの名前はリアムだったのか、お爺さんも同じくらいの年齢にしないと、それよりも女の子に服を着せないと……、アイテムボックスからTシャツをとハーフパンツをだして着るように促した。

「おじいさん、あなたも同じくらいの年齢にしますよ。」
「いいのか、本当にすまない」

 おじいさんも少女と同じ16歳にした。なんというか、若いっていいのぉ~とか思った。

「このことは他言しないでくださいね」
「ありがとう~本当にありがとう!」

 さっきまで死を目前にしていたとは思えないくらいにテンションが高い、それだけ人の姿になれた事がうれしかったのだろう。

「ありがとう、お礼になるようなものがないが……、これを持って行ってくれ」
「いや、良いですよ……」
「そう言わずに、渡せるものが無いのだ」

 そう言って渡されたのは酒瓶だった。自分下戸なのだがなぁ……、とりあえず受け取った。

「その子の強い想いがきっかけですから、お礼ならその子に言うべきですよ。」
「そうか、ありがとうマロン」
「んっふっふ~」

 相変わらずリアムに抱き着いて上機嫌だ、尻尾が左右にパタパタしている。

「それでは、自分は行きますね」
「あぁ本当にありがとう」「ありがとうね~」

 山小屋を後にし、適当な場所にテントを張り焚き火の準備をしていた。

『ネア様も似たような理由で人化したのが獣人族の誕生なんだよね』
『そうなんだ』

 薪に火をつけて星空を見上げながら、生前茜君と出会った頃の事、ちび助と出会った頃を思い出していた。

 翌朝、野営道具を片付け終わりいざ出発という時、リアムとマロンがやってきた。

「もう行くのかい?」

 リアムが少し寂しそうな声で聞いてきた。

「王都に急ぎたいですからね」
「そうか、北の森に行くのだな?」
「そうですね、じゃないと王都に行けないでしょ」
「そうだな、ならば左目と触覚の無いアーマーセンティピートには気を付けるといい」
「わかりました。ありがとうございます。」
『結構近くに居るし倒していけば?』
『そうするよ。』

 出発準備が出来た。

「それじゃお二人と元気で、またいつか」
「あぁ、気を付けろよ」
「気を付けてね~」

 最後までマロンはリアムにべったりだったなと思いながら山小屋を後にし、北の森を目指し歩き始めた。

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