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冒険者時代

第51話 教会と子爵

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 奴隷商を後にして次はポーコス子爵の情報集めるか。

『ヒスイ、子爵はどこにいる?』
『教会に居るよ』

 教会か、この世界に来てから一度も行った事無い日ごろの感謝の意を込めて祈りをささげるのもいいかもしれない。

『んじゃ教会まで案内してくれる?』
『OKOK』

 ヒスイの案内を元に教会と思しき建物の前に着いた。外見を見ると、西洋の教会といった感じだった。

『まだ中に?』
『うん、まだ中にいるよ』

 教会の中に入ると、咳をしていたり怠そうにしていたりと病人っぽい人達があふれていた。

『えっとこの人たちは……?』
『この世界はまだ君が居た世界の様に医学が未発達だからね、基本教会で祈ったりすることで治ると思われてるんだよ』

 まぁ何となくは想像していた。シャーマンとかそう言った人達に病気を治すように祈っていた文化は地球にもあったし、ここに来たのが間違いだった気がした。医師だった自分が病人に背を向けるなんて出来るわけもなく……

 どうするかな、この格好でやるのも目立つし、ナットの姿に戻って対応するのもなぁ……
 いっそのこと、生前来ていた白衣に着替え、お土産で貰った狐のお面でもつけて正体を隠して対応していくか、そうと決まれば衣装チェンジ!

 お面のせいで視野が限られているが、生前の懐かしい姿だTシャツとスラックスに白衣になった。

 さて片っ端から対応していくか、一番後方のベンチに腰かけていたお婆さんに声をかけた。

「おばあさんどうしたんですか?」
「なんだい?見慣れない格好だねぇお面なんかつけちゃって」

 お婆さんは、いぶかしげな表情を見せた。

「自分はあまり人に顔を見られたくないんですよ。」
「なんか訳ありなのかねぇ?あたしゃーね手首が痛いのさ」
「その手首を見せてもらってもいいですか?」
「あんた格好のわりに丁寧な人だねぇ、痛くしないでおくれよ」

 そう言ってお婆さんは右手を出してくれた。

 神の手を使いつつ状態を見ると、捻挫ではない?リウマチだな、そのまま手首の修復をしついでに体中の修復もした。

「これでだいぶ楽になったと思いますが、どうですか?」

 お婆さんは手首を動かして痛みが無いことに驚いた様子を見せた。

「痛くないねぇ、手首だけじゃなく肩まで楽になってるよ!」

 そりゃ全身修復していますから

「大丈夫そうですね、お身体を大事にしてください」
「ありがとねぇ、あんたの名前はなんだい?」

 考えてなかった。まぁ正体を隠しているので内緒でいいか。

「すいません、内緒でお願いします。」
「だろうねぇ、その格好をしているって事は、明かせないよねぇちょっと待ってね」

 そう言ってお婆さんは、巾着の様な入れ物から金貨を数枚出してきた。

「これじゃ足りないかもしれないけど受け取っておくれ」
「いや、金銭目的じゃないので、もしその気があるのであれば孤児院に寄付してあげてください。」
「そうかい、あんたは神様のような人だねぇ、是非そうさせてもらうよ、本当にありがとうねぇ」

 そう言ってお婆さんは席を立ち教会を出て行った。その後、そのお婆さんとのやり取りを見ていた近くの人から私も!私も!と迫られ1人ずつ対応していった。次第に事が広まり教会のシスター達から場所を移すように促された。そりゃ、入口付近の席に人が集まればそうなるよね、場所を聖堂の一番奥にあるネア様と思しき像の下に移動した。これダメな奴じゃん、本来教会の偉い人達がいるべき場所だと思うんだけど!?

 そんな思いとは裏腹に、人が群がる群がる、噂が噂を呼び町中の人達が来ている気がする。本来の目的である子爵との接触が出来ないでいる。

『ポーコス子爵はずっと君の身体が空くのを待っているよ。』

 ヒスイが自分の気持ちを察してくれたのか教えてくれた。

『そっか、教えてくれてありがとう』
『いえいえ~』

 その後もしばらく続き、ようやく終わりを迎えそうな時子爵と思しき男性とその夫人と思しき女性が列の後ろに並んだ。

 そして子爵と思しき人たちの番になった。

『ヒスイ、この人?』
『うん』

 自分の前に子爵が来ると。

「すまない、我が家まで来てもらうことは可能だろうか?」

 正直貴族だからという事で割り込みとかして来たら断っていたが、彼はちゃんと並び最後に来た。

「何か訳アリのようですね、いいですよ。」
「ありがとう、感謝する。私の名はウォーレン・ポーコスこの街の長をしている。こちらは妻のオリオールだ」

 自分は子爵だと名乗らなかった。

「自分はこの通り訳アリなのでナナシとでも呼んでください。」
「わかった、余計な詮索はしない、約束しよう」
「ありがとうございます。家まで案内してもらっても?」
「あぁすまない、表に馬車を待たせている」

 まぁそうだよなぁ、一緒に乗るのは正直嫌だな。

「自分は馬車に乗らずついて行きます。」
「そうか、それなりに距離があると思うのだが」
「構いません」
「わかった」

 教会を出ると辺りは既に日が沈んでいた。そして目の前に馬車が止まっていた。子爵と夫人が乗ると馬車が走り出し後について行った。しばらくすると豪華な屋敷に着いた。

 玄関と思しき大きな扉の前で馬車が止まり、子爵達が降りてきた。

「あの速度で難なくついてこれるのだな。」
「あれ位でしたら問題ありません。」
「そうか、ようこそ話が子爵家へ、無理言って本当にすまなかった。」
「いえ、病人の元に案内してもらっても?」
「あぁ、解った。」

 それだけ言うと、扉を開け中に入った。あとをついて行くと、メイドと執事が整列してお迎えとか、アニメや漫画の世界だけだと思っていたが現実でこれを見るとは思わなかった。

「客人だ、粗相のないようにしてくれ」
「「「かしこまりました」」」

執事とメイドたちが一斉に応えた。

「こちらだ」

 ヒスイが以前言っていた娘さんの所に案内してくれるのだろう。いったいどんな病にかかってるのだろうか?
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