努力も愛も賜物

COCOmi

文字の大きさ
上 下
3 / 39
出会いと日常

陸上部1

しおりを挟む


入学式を経て約2週間が経とうとしている。
行き慣れた桜道を歩き、グラウンドへ足を踏み入れた。

俺は高校1年で、中高一貫である咲山高校の内進組だ。努力が実ることを経験した俺はそれから勉強にも励み、見事中学受験に合格した。あのクラスリレーから走ることが好きになった俺は中学ではもちろん陸上部に入り、短距離選手として活躍した。県大会までには出られなかったが、予選で好成績を残した。
それからはエスカレータ式に高校へと入学した俺こと石道充希は陸上を中学で引退し、高校では勉強に励むことを決めた。



走ることが嫌いになったんじゃない。でも、俺は昔から一つのことにしか集中できない性格だった。
父が1年前に亡くなってからは母親1人の力で俺をこの学校に通わせてくれた。夜勤をしてまで私立で高いお金を払って学校を通わせてくれる母を楽にしたいから、俺は陸上をやめて勉強に集中し、国公立の医学部へ入ることを決心した。母は看護師で父は医者だった。父の影響も大きかったが、何より父が亡くなってからの母の働き様を見ては、医者でなければ母を楽に生活させていくことはできないと痛感した。今は苦労させていても医者になれば必ず成功する。国公立に行けば私立に比べ学費は相当やすくなり、奨学金を受け取ったとしても医師資格という返すアテも保証されている。最悪日本で無理なら海外でだって働ける。医者になればいくらでも金や余裕が生み出せるのだ。そのために俺は陸上をやめ、勉強に努めようと決めた。成績は中の上のレベルだが、それは部活をやってきたからだ。勉強に集中すればもっと上を狙えるはず。否、上を目指さなければならない。

俺は覚悟と共に陸上を辞めた。
しかし、俺は学校のグラウンドにいた。それは走るためではない。
中学の陸上部仲間であった親友がグラウンドへ呼びつけたのだ。
「ミツキ~~!」
「あ、:遼(りょう)」
黒い短髪とキリリとした眉が特徴的な男子が充希を呼んだ。充希も呼ばれたまま、遼の方へローファーのまま近寄る。少しグラウンドの砂が舞い上がった。
「ミツキ、見に来てくれてありがと。今度新歓あるから是非見て欲しくってさ」
「遼も新入生じゃん」
「俺は中学からやってるから陸上部では4年生です~」
「まあ、確かに。グラウンドの使い方は新入生より良く知ってる」
クスクスと笑えば、だろ?と肩に思いっきり遼が乗っかかってくる。遼は俺より5センチほど背が高い。重いから退けと遼の腕の皮を捻った。
「いったー。ミツキは乱暴だ」
「お前が乗っかるからだよ」
「はいはい。…ミツキ、お前、やっぱり新歓来いよ。あんなに短距離頑張ってたじゃん。今年はスポーツ推薦で入ってきたやつも何人かいて張り合いがあるぜ?忙しいっていうならマネージャーでもいいからさ…陸上辞めるなんて言うなよ」
「遼…。気持ちは嬉しいけど、やっぱりむりだ。俺はもともと勉強するためにここに入ったし、高校ではもっとレベルも上がって俺の性格じゃ勉強も陸上も疎かになる。俺には勉強に集中する時間が必要なんだ」
「ミツキ…」
充希は遼のガッカリした目を見たくなくてグラウンドの方を見た。遼の誘いは今日で5度目だった。


ふわりと遠くから綺麗なフォームでこちらへ向かってくる人影が見えた。次第に近づいてくると、茶の髪が風で揺られて靡き、小さい顔と長い足がとても印象的だった。その男はそのまま走りきり、足の力を抜いてはテープカットを切ったように体を前のめりにうつむかせた。隣でマネージャーのような生徒がストップウオッチを見ながら何か話していた。
充希はぼんやりと彼の様子を見ながら呟く。
「:真悠(まゆう)…」
「え?ミツキ、マユ知ってんの?
ったく、それなら言えよな!おい、マユ!!」
「わわっ、ちょ、遼」
遼は俺にしつこいぐらい世話焼きなところがある。知り合いだと勘違い…ではないかもしれないが、そう勝手に判断した遼は茶髪の男に向かってこっちへ来いと大きな声を上げた。 遼ってほんとにおせっかい。

茶髪の男は走り終えた直後で身体全身を使って大きく呼吸をしていた。しかし、遼の呼び声で俺らに気づくと美しく汗が滴り落ちた顔でにこりと微笑んだ。
(やっぱりあれは真悠だ…)
茶髪の男は長い足を動かして俺らの元に訪れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

人気者のくせに兄は俺にしつこい

COCOmi
BL
タイトル通りみんなにモテモテの美形兄がクール平凡受けの弟を大好きすぎてしつこい話。 メインは凌駕×相馬。嫌われではないですが、他メンツは基本的に美形兄好きという設定で、今後相馬が総受けになるかは未定。日常ギャグ&ほんのりヤンデレ要素。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

風紀“副”委員長はギリギリモブです

柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。 俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。 そう、“副”だ。あくまでも“副”。 だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに! BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。

きのこ狩りツアーに親友と参加した

鈴鈴躊躇
BL
前回短編投稿した小説を取り下げて長編に改編しました。 恋愛対象が男性の僕と親友はきのこ狩り馬車ツアーに参加した。 親友と一緒に旅行を楽しみたいと思っていたのにきのこ狩りを始めようとした途端、親友から別行動しようと提案される。それには深い様な浅い様な理由があって、一応納得した僕は親友と別れて1人できのこ狩りを楽しもうとするが……。 頭を空っぽにして読める仕様となっております。ショタに注意。 軽く書きました。笑ってくれると嬉しいです。他サイトにも掲載してます。R18の回には※がついています。

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...