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「あ、タルト」
「あ」

食事を終えた俺とやっくんは教室に戻ろうと廊下を歩いている途中、つい数時間前に中庭に連れ出した美しい男と偶然にもまた顔を合わせてしまった。

いつのまにか俺のあだ名は『タルト』に決定されてしまったようだ。

見知ってる感じの俺の雰囲気に、やっくんは一気に不機嫌になった。

「泰宿。だれ、こいつ」

明らかに敵視したような不機嫌な口調に俺はハラハラとする。これはやっくんの悪いところだ。こうやって警戒強く飛びついてしまうと、ろくなことがない。

「あ、やっくん、この人は」
「タルト、あそこに花をまた植えようと思うんだけど何がいい?」

やっくんの機嫌を直そうと弁解しようとしたのだが、敵意を向けられた本人はなんともなかったように無視して俺の方へずいっと割り込んできた。

「なんのお花が好き?タルト」

やっくんも俺より5センチほど背が高いが、それよりも高身長な彼は体を屈め、グッと俺に顔を近づける。やっくんのことは視界に入っていないようだ。

「あ、えと、ひまわり?」
「向日葵!いいね、学校で大きく育つかな~」
「っおい!なんだよ、てめえ。泰宿に近づくな!」

一瞬気後れしたやっくんが急いで噛み付くように間へ入り込み、俺と美形さんの距離を取らせた。

「近づきすぎだ!」
「だれ?」
「こっちこそ誰だてめぇ!俺は泰宿の幼馴染みで親友だ!」
「へえ…。タルトって親友いたんだ」

やっくんの頭の横からひょこっと顔を出してこちらに尋ねてきた。その馬鹿にされた態度にやっくんの怒りはますますヒートアップする。

「てめえ、その態度…もしかして、縁神か!」
「あ、そうだよ」
「!!……てめえ…泰宿にはもう俺がいるから、お前なんかいらねえんだよ消えろ!」
「?どういうこと?なんで君にそんなこと言われなくちゃいけないの?」
「お前みたいなやつが考えてることなんかわかるんだよ!泰宿の親友の座取ろうとしてんだろ!だがな!俺が泰宿の1番の親友なんだよ!」

わーっ、始まっちゃった…。やっくんの勘違い。
今日はやっくん厄介デーだ。なんで今日はこんなに彼の悪いところばっかり出てくるんだ。

やっくんはとても頑固で神経質で、人間関係に敏感だ。だからか、俺の人間関係にもとやかく煩い。
特に俺と仲良くしてこようとするやつがいると、「俺を通してから泰宿と話せ!」みたいな謎の関門システムを発動してくる。彼が言う理論は「泰宿は俺の1番の親友だから、俺が1番お前のこと知ってないとダメだろ」らしい。
しかも、やっくんも自分と仲良くなった奴は俺に見てほしいらしく、この前は将棋センターでなかよくなった75のおじいちゃんを紹介された。別に人間関係や交友関係は個人の自由だと思うよ…。

まあ、そういうやっくんの1番恐れるところが、『俺の親友』を取られるということらしい。
だからこうやってたまに、知らない人に対して過剰に敵対心を燃やしてしまい、トラブルになってしまう。

「だからてめえみたいなやつには泰宿にはいらねえの!」
「ふーん…でも、僕、タルトの親友になりたいわけじゃないよ」
「はあっ?!ほんとか?」
「うん」
食い下がろうとしないやっくんに、縁神はうんうんと何度も頷いた。

「だって俺、親友じゃなくてタルトの恋人になりたいもん」
「はい…?」

パードゥン?

「タルトの恋人になりたい。ね、いい?」

もう一度発された『恋人』というワードにやっくんと俺の大きな叫び声が学校中を震わした。


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