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地下アイドルの元カレと付き合ってメンヘラになってしまった俺の話【番外編】3
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その日もご飯を食べるだけのはずだった。
俺と女は店を出て、そのまま連れられて何故か裏道のラブホ通りを歩いている。
「ゆりくんってよく見たらさ、かっこいいよね?モテない?」
「え?お、俺…?」
びっくりして思わず女の顔を見る。
いつも親しみやすいニコニコとした笑顔は少し溶けて、顔が赤くなっていた。
俺は学校にもろくに行かないから、モテるどころか友達もいない。
なんて答えようかとアワアワしてしまう。
女は酔っているのか俺の腕に身体を押し当ててきた。顔が上気していて、微かに熱が高い。しかも、腕に胸が当たっている。女はそのまま俺の肩に頭を置いてきた。
「ゆりくんもアイドルになっちゃえばいいのに。でもカッコいいし優しいから、ゆりくんまでアイドルになっちゃったら私と話してくれなくなるか…やだなー…」
「え、えと…あの…」
恋人のように俺の体にぴったりくっつき、しかも寂しそうな上擦った声を上げてくる。
なんだこの距離感。なんか、ベタベタ触ってくるし…。
俺はなんて答えていいのかわからなくて、とりあえず離れるように肩を押すが、逆に女はさらに俺に身体を押し付けてくる。
「ゆりくんまだ帰らないでー…」
「いや、でも、ちょっと…ち、ちかいし…」
「なに?ゆりくんも私のこと嫌いなの?」
「え!?そ、そういう意味じゃ…」
「じゃあホテル行こうよ」
は?
こいつ、何を言い出したんだ。
目を丸くすれば、女はクスクスと笑って俺の手を掴む。
「私のこと嫌いじゃないって証明してよー?突き放したら嫌いってことだからね!ね?ホテル行こう?お金も全部出してあげるし、色々教えてあげる。ね?いいでしょ?ゆりくんもそういうのー、興味ない?」
そう言って女は掴んでいた俺の手を胸に押し当ててくる。初めて触った女の人の感触に、ヒヤリと汗が垂れた。
さらに女は俺の手の上から揉むように手を動かす。
その感触がただ脂肪をつかんでいるような感じで興奮すらしない。
え、てか、何この感じ。もしかして誘われてる?誘われて…るのか?
いやいや、俺興味ないし…。
それに、これって陣にバレたら…まずい、まずく…ないか?
俺は理性を働かせて、やんわり断ろうとする。
「だ、だめだよ…さすがに…ホテルとか…」
「なんで?私がおばさんだから?27だから?いやってこと?」
「そういうことじゃなくて…」
いや、27歳と16歳は犯罪な年齢だわ。
そう思っても、急な展開に頭がぐるぐるとしてまともに働かない。そもそも対人関係なんてまともに築き上げてこなかった俺が、27歳の女性相手に傷つかないようにこの場を逃れる理由文句なんて思いつかない。
「えと…あの…」
「ゆりくん、こっち」
渋っていると、急に強く引っ張られた。さっきまでフラフラしていたのに急に力強く近くの建物へ引っ張られる。
(え、なに、なに、なに…!?こわいこわいこわい…!)
突然力強く引っ張り出した女に恐怖を感じる。
俺は慌ててホテルへ行かないよう、負けじと反対方向へ力をかける。しかし、女はどこにそんなちからがあったのか、さっきのか弱くフラフラしてたのは演技だったのか、ものすごい力でグイグイっと引っ張られて、それに頑張って抵抗していると、女がこちらに振り向いて叫ぶ。
「ちょっとッ!ゆりくんいい加減にしてよ!!あたしのこと舐めてんの?!ジンにきにいられてるからって調子乗んなよッ!?」
「…っ!」
俺が抵抗しているのに耐えられなくなったのか、女は顔の形を変えて怒鳴り上げる。
それは見たことのない形相で、睨まれて顔真っ赤に大声を張り上げられてしまって、俺は一気に縮み込んでしまう。
(怖い、怖い、怖い…!)
女は怯え上がってろくに力も入らない俺をホテル内にそのまま連れ込もうとした。
だが、その時。
「おい、何やってんだよ、ブス」
聴き慣れた声。
女が声の方を見て焦ったように叫んだ。
「じ、ジンくん…!?」
え、陣…!?なんでここに…。
振り返れば、私服姿の陣が立っていた。陣は俺たちのことに驚いた反応もなく、こちらへ近づいてきた。
「ギャーギャー騒いでるバカ女いると思えば、うちのオタクじゃん。なにしてんの?」
突然のジンに、女は狼狽える。
慌てて顔を作り直して、ニコリと無理やり口角を上げて高い声をあげる。
「じ、ジンくんこそ、なんでこんなところいるのー?」
「俺らは営業。てかさ、一緒にいるの、俺の男ファンだよな?女、なに、お前ファン同士で繋がろうとしてんの?きめえ。俺そういうやつ一番嫌いって言ってるよな?」
「ち、違うッ…!ジンくんがいつも私に対して冷たいから…!相談に乗ってもらってて…!」
「はぁ?相談に乗るためにホテル?馬鹿じゃねえの。小さいガキでもそんな理由おかしいことぐらいわかるだろ」
「…ッ!」
「それに、そんなしょうもねえ理由で男ファンに手出すとかさやべーなお前。俺、お前が地雷女だって聞かされてたから相手しなかったんだぜ?……ババアのくせに年下アイドルに金貢いでんじゃねーよ」
いつものニコニコと愛想のいい笑みを浮かべた陣はいない。アイドルが到底言うような言葉ではない数多の罵倒を受け、女は放心している。
でも、陣はもともとそういう捻くれていたやつだ。タバコも吸うし、ゲロ吐くぐらい酒飲んで、セックスも好きな爛れた男だ。甘く笑みを浮かべてるのは面でしかない。
流れるように罵倒した陣は、後ろにいた俺の腕を掴んできた。
「いくぞ」
「あっ…」
女の人は陣にキツい言葉を言われたせいかホテルの前で固まって動けなくなっている。
だが、陣は女のことなどこれっぽっちも気にしていないようで、そのまま俺の手を引いてその場から離れていく。
「じ、陣…」
「……」
名前を呼ぶと、掴まれていた手をギリギリ、というほどキツく握られた。
「っい…!」
「……」
痛がった声を出しても陣は何も言わない。
もしや怒っている…?そんなわけがない。陣だって好き勝手に女アイドル達と遊んでるんだ。俺のことだって都合よくいる相手だとすら思ってないし、俺が何してようが陣に言われる理由もないし、言う権利もない。
俺は何も喋らない陣に痺れを切らしてきた。
「陣…っ、なんでここに……おい、陣っ、答えろよっ」
そう言った瞬間だった。
手を強く引っ張られるといきなり路地裏の方へ曲がり、暗所に連れ込まれる。
細くて狭くて暗い場所。俺は勢いよく壁に押し付けられた。
「お前、自分が誰のもんかわかってんの?」
ゾクリ、と背筋が凍る声音だった。
暗がりで陣の顔はよく見えないが、目がギラギラと反射しているのだけはわかる。
「はっ……ものって、俺は誰のものでもないけど」
「……お前それマジで言ってんの?」
「っ、んぐッ!?」
突然首を掴まれた。首の肉と骨に指が食い込んで、激痛に喉奥が閉まっていく。
陣は力加減がわからなくなってるのか、どんどん力を込めていきながら身体を壁に押し付けてくる。
「お前は俺のものって言ったよな?お前の生きがいは俺だけだろ。なに女とセックスしようとしてんだよ…」
「っぎ、ぃ…ッ!」
「あの女とずっと会ってただろ。飯も3回以上は食ってる。立派な浮気だよな」
息が。声が。出せない。
圧迫感と喉仏が上にあがって喉の中が詰まる感覚がする。
何か言い出したくても、陣が手に力を込めることでそれすらどうでも良いと思うぐらい、激痛から暴れまわりたくなる。
「っ、ぁ!…っが、は、…ぁ、っし、……」
「放せ?誰に向かって言ってんだ」
「っぐぅ!!!」
腹にドカン、と一発殴られる。
…そういや、陣はDV癖があるとどこかの掲示板で見たことがあった。
陣はアイドルでアンチも多いから嘘の書き込みをされ、そんなことはないだろうと思ってた。それに俺と一緒にいる時はわがままを言うだけでこんな無茶苦茶なことはしてこなかった。だから、違うと思ってた、思ってた、けど…。
激痛で頭がチカチカと点滅する。
首から手を離されて俺はそのままそこに落ち倒れた。
ゲホゲホと激しく咳をし、スゥヒィと息を吸い込もうとする。それでも空気が急に入り込むと喉がひりつきまた咳がでて、過呼吸のように激しく咳き込んでしまう。
しかし、陣はそんな俺に対して怖気ついたり不安がるような真似はせず、倒れ込んだ俺の目線に合わせるように座り込んだ。
「お前は俺のもんだ、ゆり」
陣は俺を無理矢理立ち上がらせると、壁に身体を押し付け、下着ごとズボンを下ろした。
「っか、はっ、あっ、な、なにやっ…てっ…!」
曝け出された尻にいきなり陣の指が滑り込む。
グイッと中に入ってきた指に、もしかしてここで犯すのか、と顔が真っ青になる。
「まっ、まって、陣、ここ外だってば、ねえ!陣!待って、やめてって…!!」
俺は精一杯抵抗するが、陣は全く聞く耳を持たない。
陣は指2本を突き入れて中を広げるように指を動かすと、自身のベルトを片手で器用に外す。
俺が予測した通り、陣はいつのまにか勃っていたちんこを俺の後ろに突き入れた。
「っふぅ…!!!」
潤滑油がないため、摩擦で入り口が痛い。しかし、俺の後ろは陣とほぼ毎日やっているせいか、すんなり形を解して、彼を中へ引き込む。
ぐりゅぐりゅっと押し込まれ、腹の中は陣のちんこでいっぱいになる。
「うっ…!じ……じ、ん…っ、ぅあ…!」
「っ、中締め付けてるんじゃねえよッ…!」
「っヒィ…!」
外気に晒された尻を勢いよく叩かれる。
バシンッと衝撃が伝わり、思わず奥をぎゅっとさらに窄めてしまう。
陣はチッ、と舌打ちすると、そのまま腰を叩きつけてきた。
「っあ、ん、あっ、あっ、ああっ…!」
「俺のこと好きって言ったよな?それなら、他の女に浮気してんじゃねえよ!しかも、ちんこブッ込まれてアンアン喘ぐ身体で、女とヤレると思うなッ!」
「っーぁ…!!や、ってな、…ちが、ッ、ちがうって、ば…!あ"っ…!!ひ、ひぃ、あ、あああっ!?」
冷たいコンクリートの壁にしがみつき、一方下腹部は汚い水音を立てながら陣の性器が激しく出入りする。腰はがっちり掴まれて、激しく中をかき混ぜられてしまうと、快楽と似て非なる感覚で頭がいっぱいになる。
その場から逃げるとかもう思いつかない。痛みと気持ちよさと吐き気で頭がぐちゃぐちゃ、何も考えられない。
「お前は俺がいねえとなにもできないんだよ!息するのも飯食べるのも眠るのもセックスするのも、全部俺が許さねえとダメなんだよッ!!」
陣のとんでもない束縛心と独占欲が俺の体を包み込む。
心が苦しい、息が苦しい。
…でも、何故か陣に求められて喜んでしまってる自分がいる。たくさんの女に囲まれてる陣が唯一、今俺を見てくれていた。初めて飯を食べた時のように、俺だけをじっと見ていた。
「おい、お前は誰のものだよ!」
「っあ…!!、じ、じんっ…!おれ、は、陣のもの…っ!」
「それなら、好きって言えよ…ッ!俺のこと好きだ、って!」
「じ、ぃ、じんっ…!じん、っ、のこと、すきぃ…!好きぃ…!!陣がぁ…っ、好きぃ…!!」
陣がより深く繋がり腰を打ちつけてくる。
俺は無我夢中で「好きだ」と叫んだ。陣のこと好き、好きだ。わかってよ、陣。寂しかったんだよ、俺、陣に見て欲しくて。
陣の精液が中に出された時、俺はふと、涙が溢れた。
○○○○○○
「ゆりくん、大丈夫?」
「え?」
「なんか顔色悪くない?ジンジン出てきても反応ないし」
「え?陣出てきたの?」
「うん、さっき。担当終わったからもういなくなったけど。てか、そろそろチェキ握手会だから私行くよ」
「あ、うん…」
「……。まあ、無理しないでよ。体調悪かったらスタッフにいいな。じゃあね」
パッとしない返事をする俺に、不思議そうな訝し気な顔をしたツインテの女ファンはチェキを撮るために列に並びに行ってしまった。
ダメだ。俺も、陣のチェキ買わないと。
フラフラとした身体で人が群がる列に行く。寝不足で頭が回っていない。寝られないんだ、最近ずっと不安になって、寝られないんだ。
急にグッと腕を掴まれた。
「…女と喋るな」
「ッ!」
耳元でソッと、だが怒りを抑えた声で囁かれる。
「きゃー!ジンー!」
「ジンジン早く~!」
パッと俺の手を離すと、ジンはニコニコと手を振りながら列の方へ向かう。
隣には陣がいた。掴まれた部分がビリビリとして、背筋がゾッとし、急に息がハッハッと過呼吸のように上がる。
『ゆりは俺以外の人間と関わるな』
頭の中でジンの言葉が木霊する。俺はその場で頭を抱えたくなった。なんで、なんで、なんでこんなことに。
陣と俺は正式に付き合った。
だが陣は、女と飯を食べに行くし、女アイドルとつるむことをやめなかった。俺には誰1人関わらせないようにするくせに。
陣は酷く俺に固執している。
俺が女と一言話すことさえ、手首にあざが残るほど強い力で制してくる。
陣は何故か俺への執着が目に見えてひどくなり、行動の何もかも陣の基準に仕立て上げられ、俺は陣の許可なくては何もできないようになっていた。
ニコニコとファンに微笑む陣にグサグサと心臓にナイフが刺さる。俺にはもうあんな笑顔見せてくれない。
俺には怒った顔ばっかり。
俺が陣の言うことを聞くの当たり前だと思ってるから、どんなに褒められたことをしても陣は甘やかさないのだ。だから、罰を犯した方ばかり目がいって、激しく怒鳴られ、殴られ、仕置きだと弄ばれた記憶しか最近はない。
(陣って俺のこと好きなのかな…)
初めてあの時、好きって気持ちを陣に伝えたが、陣はそれを正しく受け取ってはくれなかった。ただ俺を縛り付ける言質を握っただけだ。
俺はこれを欲しかったんだろうか。……いや欲しくない。一瞬でもいいな、歪んでてもいいやって思ったのが間違いだったんだ。でも、陣が怒る時は俺だけを見てる。ただ、今はまだそれにしがみついてしまっている。馬鹿みたいだ。嬉しいのに苦しい。しんどいのに縋ってしまう。蜜が欲しくて欲しくて、蜂の巣に自ら飛び込んでいる。
もう好きかどうかとかわからない。これが義務だから、これが当然だからそうしてる。陣に捨てられたら…そう思うと怖くて、俺は陣に言いなり人形の自分をあげるしかない。
「ゆり」
列はいつのまにか進み、陣が目の前にいた。前はファンに知られないように名前の呼び方まで気をつけていたのに、最近は人目も憚らない。
前のように隣に並んでチェキを撮る。陣が俺の首に手を置いた。
「ゆりは俺のだから」
勝手に死ぬなよ。
そう呪いをかけられて。
………雨が強い。
死にたい、死にたいな。
ガラガラ、ゴローン!
雷の音さえ聞こえ始めた。
今日、この日、俺は陣の約束を初めて破った。
陣には俺がいらない。そう悟ったんだ。
だから、陣が帰るまで家にいる約束を破る。
帰ってきた陣と体を繋げる約束も、一緒にご飯を食べて、一緒に布団で寝て、一緒に次の日の朝を迎える約束を。この束縛を。なにもかも。
もしこんなことをしてしまったら、俺は生きられないかもしれない。
だから、俺は今日死ぬ。
死んで、陣のものじゃなくなる。
早く死にたいな。
最後だけは、そう自分に優しく問いかけた。
…トントンと高らかな足音が鳴る。
しかし、それは新たな俺に生まれ変わる合図だった。
「…あの、大丈夫ですか?」
愛おしい声がする。
優しく微笑む彼……雅彦の顔を見た時、過去の自分は死に、俺は新しく生まれ変わった。
俺と女は店を出て、そのまま連れられて何故か裏道のラブホ通りを歩いている。
「ゆりくんってよく見たらさ、かっこいいよね?モテない?」
「え?お、俺…?」
びっくりして思わず女の顔を見る。
いつも親しみやすいニコニコとした笑顔は少し溶けて、顔が赤くなっていた。
俺は学校にもろくに行かないから、モテるどころか友達もいない。
なんて答えようかとアワアワしてしまう。
女は酔っているのか俺の腕に身体を押し当ててきた。顔が上気していて、微かに熱が高い。しかも、腕に胸が当たっている。女はそのまま俺の肩に頭を置いてきた。
「ゆりくんもアイドルになっちゃえばいいのに。でもカッコいいし優しいから、ゆりくんまでアイドルになっちゃったら私と話してくれなくなるか…やだなー…」
「え、えと…あの…」
恋人のように俺の体にぴったりくっつき、しかも寂しそうな上擦った声を上げてくる。
なんだこの距離感。なんか、ベタベタ触ってくるし…。
俺はなんて答えていいのかわからなくて、とりあえず離れるように肩を押すが、逆に女はさらに俺に身体を押し付けてくる。
「ゆりくんまだ帰らないでー…」
「いや、でも、ちょっと…ち、ちかいし…」
「なに?ゆりくんも私のこと嫌いなの?」
「え!?そ、そういう意味じゃ…」
「じゃあホテル行こうよ」
は?
こいつ、何を言い出したんだ。
目を丸くすれば、女はクスクスと笑って俺の手を掴む。
「私のこと嫌いじゃないって証明してよー?突き放したら嫌いってことだからね!ね?ホテル行こう?お金も全部出してあげるし、色々教えてあげる。ね?いいでしょ?ゆりくんもそういうのー、興味ない?」
そう言って女は掴んでいた俺の手を胸に押し当ててくる。初めて触った女の人の感触に、ヒヤリと汗が垂れた。
さらに女は俺の手の上から揉むように手を動かす。
その感触がただ脂肪をつかんでいるような感じで興奮すらしない。
え、てか、何この感じ。もしかして誘われてる?誘われて…るのか?
いやいや、俺興味ないし…。
それに、これって陣にバレたら…まずい、まずく…ないか?
俺は理性を働かせて、やんわり断ろうとする。
「だ、だめだよ…さすがに…ホテルとか…」
「なんで?私がおばさんだから?27だから?いやってこと?」
「そういうことじゃなくて…」
いや、27歳と16歳は犯罪な年齢だわ。
そう思っても、急な展開に頭がぐるぐるとしてまともに働かない。そもそも対人関係なんてまともに築き上げてこなかった俺が、27歳の女性相手に傷つかないようにこの場を逃れる理由文句なんて思いつかない。
「えと…あの…」
「ゆりくん、こっち」
渋っていると、急に強く引っ張られた。さっきまでフラフラしていたのに急に力強く近くの建物へ引っ張られる。
(え、なに、なに、なに…!?こわいこわいこわい…!)
突然力強く引っ張り出した女に恐怖を感じる。
俺は慌ててホテルへ行かないよう、負けじと反対方向へ力をかける。しかし、女はどこにそんなちからがあったのか、さっきのか弱くフラフラしてたのは演技だったのか、ものすごい力でグイグイっと引っ張られて、それに頑張って抵抗していると、女がこちらに振り向いて叫ぶ。
「ちょっとッ!ゆりくんいい加減にしてよ!!あたしのこと舐めてんの?!ジンにきにいられてるからって調子乗んなよッ!?」
「…っ!」
俺が抵抗しているのに耐えられなくなったのか、女は顔の形を変えて怒鳴り上げる。
それは見たことのない形相で、睨まれて顔真っ赤に大声を張り上げられてしまって、俺は一気に縮み込んでしまう。
(怖い、怖い、怖い…!)
女は怯え上がってろくに力も入らない俺をホテル内にそのまま連れ込もうとした。
だが、その時。
「おい、何やってんだよ、ブス」
聴き慣れた声。
女が声の方を見て焦ったように叫んだ。
「じ、ジンくん…!?」
え、陣…!?なんでここに…。
振り返れば、私服姿の陣が立っていた。陣は俺たちのことに驚いた反応もなく、こちらへ近づいてきた。
「ギャーギャー騒いでるバカ女いると思えば、うちのオタクじゃん。なにしてんの?」
突然のジンに、女は狼狽える。
慌てて顔を作り直して、ニコリと無理やり口角を上げて高い声をあげる。
「じ、ジンくんこそ、なんでこんなところいるのー?」
「俺らは営業。てかさ、一緒にいるの、俺の男ファンだよな?女、なに、お前ファン同士で繋がろうとしてんの?きめえ。俺そういうやつ一番嫌いって言ってるよな?」
「ち、違うッ…!ジンくんがいつも私に対して冷たいから…!相談に乗ってもらってて…!」
「はぁ?相談に乗るためにホテル?馬鹿じゃねえの。小さいガキでもそんな理由おかしいことぐらいわかるだろ」
「…ッ!」
「それに、そんなしょうもねえ理由で男ファンに手出すとかさやべーなお前。俺、お前が地雷女だって聞かされてたから相手しなかったんだぜ?……ババアのくせに年下アイドルに金貢いでんじゃねーよ」
いつものニコニコと愛想のいい笑みを浮かべた陣はいない。アイドルが到底言うような言葉ではない数多の罵倒を受け、女は放心している。
でも、陣はもともとそういう捻くれていたやつだ。タバコも吸うし、ゲロ吐くぐらい酒飲んで、セックスも好きな爛れた男だ。甘く笑みを浮かべてるのは面でしかない。
流れるように罵倒した陣は、後ろにいた俺の腕を掴んできた。
「いくぞ」
「あっ…」
女の人は陣にキツい言葉を言われたせいかホテルの前で固まって動けなくなっている。
だが、陣は女のことなどこれっぽっちも気にしていないようで、そのまま俺の手を引いてその場から離れていく。
「じ、陣…」
「……」
名前を呼ぶと、掴まれていた手をギリギリ、というほどキツく握られた。
「っい…!」
「……」
痛がった声を出しても陣は何も言わない。
もしや怒っている…?そんなわけがない。陣だって好き勝手に女アイドル達と遊んでるんだ。俺のことだって都合よくいる相手だとすら思ってないし、俺が何してようが陣に言われる理由もないし、言う権利もない。
俺は何も喋らない陣に痺れを切らしてきた。
「陣…っ、なんでここに……おい、陣っ、答えろよっ」
そう言った瞬間だった。
手を強く引っ張られるといきなり路地裏の方へ曲がり、暗所に連れ込まれる。
細くて狭くて暗い場所。俺は勢いよく壁に押し付けられた。
「お前、自分が誰のもんかわかってんの?」
ゾクリ、と背筋が凍る声音だった。
暗がりで陣の顔はよく見えないが、目がギラギラと反射しているのだけはわかる。
「はっ……ものって、俺は誰のものでもないけど」
「……お前それマジで言ってんの?」
「っ、んぐッ!?」
突然首を掴まれた。首の肉と骨に指が食い込んで、激痛に喉奥が閉まっていく。
陣は力加減がわからなくなってるのか、どんどん力を込めていきながら身体を壁に押し付けてくる。
「お前は俺のものって言ったよな?お前の生きがいは俺だけだろ。なに女とセックスしようとしてんだよ…」
「っぎ、ぃ…ッ!」
「あの女とずっと会ってただろ。飯も3回以上は食ってる。立派な浮気だよな」
息が。声が。出せない。
圧迫感と喉仏が上にあがって喉の中が詰まる感覚がする。
何か言い出したくても、陣が手に力を込めることでそれすらどうでも良いと思うぐらい、激痛から暴れまわりたくなる。
「っ、ぁ!…っが、は、…ぁ、っし、……」
「放せ?誰に向かって言ってんだ」
「っぐぅ!!!」
腹にドカン、と一発殴られる。
…そういや、陣はDV癖があるとどこかの掲示板で見たことがあった。
陣はアイドルでアンチも多いから嘘の書き込みをされ、そんなことはないだろうと思ってた。それに俺と一緒にいる時はわがままを言うだけでこんな無茶苦茶なことはしてこなかった。だから、違うと思ってた、思ってた、けど…。
激痛で頭がチカチカと点滅する。
首から手を離されて俺はそのままそこに落ち倒れた。
ゲホゲホと激しく咳をし、スゥヒィと息を吸い込もうとする。それでも空気が急に入り込むと喉がひりつきまた咳がでて、過呼吸のように激しく咳き込んでしまう。
しかし、陣はそんな俺に対して怖気ついたり不安がるような真似はせず、倒れ込んだ俺の目線に合わせるように座り込んだ。
「お前は俺のもんだ、ゆり」
陣は俺を無理矢理立ち上がらせると、壁に身体を押し付け、下着ごとズボンを下ろした。
「っか、はっ、あっ、な、なにやっ…てっ…!」
曝け出された尻にいきなり陣の指が滑り込む。
グイッと中に入ってきた指に、もしかしてここで犯すのか、と顔が真っ青になる。
「まっ、まって、陣、ここ外だってば、ねえ!陣!待って、やめてって…!!」
俺は精一杯抵抗するが、陣は全く聞く耳を持たない。
陣は指2本を突き入れて中を広げるように指を動かすと、自身のベルトを片手で器用に外す。
俺が予測した通り、陣はいつのまにか勃っていたちんこを俺の後ろに突き入れた。
「っふぅ…!!!」
潤滑油がないため、摩擦で入り口が痛い。しかし、俺の後ろは陣とほぼ毎日やっているせいか、すんなり形を解して、彼を中へ引き込む。
ぐりゅぐりゅっと押し込まれ、腹の中は陣のちんこでいっぱいになる。
「うっ…!じ……じ、ん…っ、ぅあ…!」
「っ、中締め付けてるんじゃねえよッ…!」
「っヒィ…!」
外気に晒された尻を勢いよく叩かれる。
バシンッと衝撃が伝わり、思わず奥をぎゅっとさらに窄めてしまう。
陣はチッ、と舌打ちすると、そのまま腰を叩きつけてきた。
「っあ、ん、あっ、あっ、ああっ…!」
「俺のこと好きって言ったよな?それなら、他の女に浮気してんじゃねえよ!しかも、ちんこブッ込まれてアンアン喘ぐ身体で、女とヤレると思うなッ!」
「っーぁ…!!や、ってな、…ちが、ッ、ちがうって、ば…!あ"っ…!!ひ、ひぃ、あ、あああっ!?」
冷たいコンクリートの壁にしがみつき、一方下腹部は汚い水音を立てながら陣の性器が激しく出入りする。腰はがっちり掴まれて、激しく中をかき混ぜられてしまうと、快楽と似て非なる感覚で頭がいっぱいになる。
その場から逃げるとかもう思いつかない。痛みと気持ちよさと吐き気で頭がぐちゃぐちゃ、何も考えられない。
「お前は俺がいねえとなにもできないんだよ!息するのも飯食べるのも眠るのもセックスするのも、全部俺が許さねえとダメなんだよッ!!」
陣のとんでもない束縛心と独占欲が俺の体を包み込む。
心が苦しい、息が苦しい。
…でも、何故か陣に求められて喜んでしまってる自分がいる。たくさんの女に囲まれてる陣が唯一、今俺を見てくれていた。初めて飯を食べた時のように、俺だけをじっと見ていた。
「おい、お前は誰のものだよ!」
「っあ…!!、じ、じんっ…!おれ、は、陣のもの…っ!」
「それなら、好きって言えよ…ッ!俺のこと好きだ、って!」
「じ、ぃ、じんっ…!じん、っ、のこと、すきぃ…!好きぃ…!!陣がぁ…っ、好きぃ…!!」
陣がより深く繋がり腰を打ちつけてくる。
俺は無我夢中で「好きだ」と叫んだ。陣のこと好き、好きだ。わかってよ、陣。寂しかったんだよ、俺、陣に見て欲しくて。
陣の精液が中に出された時、俺はふと、涙が溢れた。
○○○○○○
「ゆりくん、大丈夫?」
「え?」
「なんか顔色悪くない?ジンジン出てきても反応ないし」
「え?陣出てきたの?」
「うん、さっき。担当終わったからもういなくなったけど。てか、そろそろチェキ握手会だから私行くよ」
「あ、うん…」
「……。まあ、無理しないでよ。体調悪かったらスタッフにいいな。じゃあね」
パッとしない返事をする俺に、不思議そうな訝し気な顔をしたツインテの女ファンはチェキを撮るために列に並びに行ってしまった。
ダメだ。俺も、陣のチェキ買わないと。
フラフラとした身体で人が群がる列に行く。寝不足で頭が回っていない。寝られないんだ、最近ずっと不安になって、寝られないんだ。
急にグッと腕を掴まれた。
「…女と喋るな」
「ッ!」
耳元でソッと、だが怒りを抑えた声で囁かれる。
「きゃー!ジンー!」
「ジンジン早く~!」
パッと俺の手を離すと、ジンはニコニコと手を振りながら列の方へ向かう。
隣には陣がいた。掴まれた部分がビリビリとして、背筋がゾッとし、急に息がハッハッと過呼吸のように上がる。
『ゆりは俺以外の人間と関わるな』
頭の中でジンの言葉が木霊する。俺はその場で頭を抱えたくなった。なんで、なんで、なんでこんなことに。
陣と俺は正式に付き合った。
だが陣は、女と飯を食べに行くし、女アイドルとつるむことをやめなかった。俺には誰1人関わらせないようにするくせに。
陣は酷く俺に固執している。
俺が女と一言話すことさえ、手首にあざが残るほど強い力で制してくる。
陣は何故か俺への執着が目に見えてひどくなり、行動の何もかも陣の基準に仕立て上げられ、俺は陣の許可なくては何もできないようになっていた。
ニコニコとファンに微笑む陣にグサグサと心臓にナイフが刺さる。俺にはもうあんな笑顔見せてくれない。
俺には怒った顔ばっかり。
俺が陣の言うことを聞くの当たり前だと思ってるから、どんなに褒められたことをしても陣は甘やかさないのだ。だから、罰を犯した方ばかり目がいって、激しく怒鳴られ、殴られ、仕置きだと弄ばれた記憶しか最近はない。
(陣って俺のこと好きなのかな…)
初めてあの時、好きって気持ちを陣に伝えたが、陣はそれを正しく受け取ってはくれなかった。ただ俺を縛り付ける言質を握っただけだ。
俺はこれを欲しかったんだろうか。……いや欲しくない。一瞬でもいいな、歪んでてもいいやって思ったのが間違いだったんだ。でも、陣が怒る時は俺だけを見てる。ただ、今はまだそれにしがみついてしまっている。馬鹿みたいだ。嬉しいのに苦しい。しんどいのに縋ってしまう。蜜が欲しくて欲しくて、蜂の巣に自ら飛び込んでいる。
もう好きかどうかとかわからない。これが義務だから、これが当然だからそうしてる。陣に捨てられたら…そう思うと怖くて、俺は陣に言いなり人形の自分をあげるしかない。
「ゆり」
列はいつのまにか進み、陣が目の前にいた。前はファンに知られないように名前の呼び方まで気をつけていたのに、最近は人目も憚らない。
前のように隣に並んでチェキを撮る。陣が俺の首に手を置いた。
「ゆりは俺のだから」
勝手に死ぬなよ。
そう呪いをかけられて。
………雨が強い。
死にたい、死にたいな。
ガラガラ、ゴローン!
雷の音さえ聞こえ始めた。
今日、この日、俺は陣の約束を初めて破った。
陣には俺がいらない。そう悟ったんだ。
だから、陣が帰るまで家にいる約束を破る。
帰ってきた陣と体を繋げる約束も、一緒にご飯を食べて、一緒に布団で寝て、一緒に次の日の朝を迎える約束を。この束縛を。なにもかも。
もしこんなことをしてしまったら、俺は生きられないかもしれない。
だから、俺は今日死ぬ。
死んで、陣のものじゃなくなる。
早く死にたいな。
最後だけは、そう自分に優しく問いかけた。
…トントンと高らかな足音が鳴る。
しかし、それは新たな俺に生まれ変わる合図だった。
「…あの、大丈夫ですか?」
愛おしい声がする。
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