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ヒコたんと一緒のクラスの俺は、帰りのHRを終えると、すぐヒコたんの元へ向かった。

「ヒコたん、帰ろ~!ねえ、前行ってたカフェ寄らない?ピンクジュースが美味しいとこ」
「ああ、いいぞ」
ヒコたんもカバンを手に持つと、席を立ち上がる。
ヒコたんの隣に立って、俺もゆらゆらと揺れながら歩いていく。

教室をでようとしたその矢先。
俺たちを待ち構えてたかのように、1人の男が現れた。

「よ!雅彦!今から一緒に帰んね?」
「ああ、駿喜(しゅんき)。久しぶりだな!いいぞ!」

駿喜と呼ばれた男は少し長い前髪を片耳にかけてペラッペラの鞄を肩にかけている。ヒコたんの返事に、女が好きそうな甘い顔をしている奴は「やった」と笑った。

こいつはヒコたんと同じサッカー部のやつだ。
隣のクラスかなんからしくて、たびたびヒコたんに絡みにうちのクラスへやってくる。噂じゃ大概の女好きでもあるらしい。だからなのか、服装や格好が女ウケというかメンヘラ気質の女子が好きそうな股がゆるそうな格好をしている。
俺はちなみにこういう男嫌いだ。昔ハマっていた地下アイドルに似ているせいもあるかもしれないが、甘く匂わせた顔には何か裏があると身構えてしまう。
ヒコたんを汚さないでほしい、絡むなら試合中だけにしろよ、なんて思うが、ヒコたんは優しいから部活以外でもこんな変な奴の相手をしてあげちゃうのだ。
それにうちの学校は部活に関して適当だからほったらかしのサッカー部は全く機能しておらず、ヒコたんもこいつも部活に行っていない。

確かにそう言う意味では久しぶりで、彼らにとってはいい機会なのかもしれないが、俺にとっては大変最悪な状況だった。

てかヒコたんいま「いいよ」って言ったよね?


「ねえ、待ってヒコたん。今日俺と一日遊んでくれるって言ったじゃん、それは?」
「裕里、もちろん一緒に遊ぶぞ。でも、帰り道は駿喜も一緒にいていいじゃないか。大勢でワイワイ帰る方が楽しいだろ?」
「なんならさ、一緒に腹ごしらえにラーメン屋行こうよ。豚骨ラーメン屋できたらしくて、俺気になってんだよね」
「いいな、それ!ちょうどお腹が空いてたんだ」
「わーい、やった!」
「え、待って、ヒコたん。俺嫌だよ。別に大勢で帰りたくないし、なんならなんでヒコたんと一緒にいる時間をこいつに奪われなきゃいけないの?てか、俺ラーメン嫌いじゃん…」
「なんか相変わらずゆりちゃん、雅彦にべったりだしわがままだね。俺が一緒にいるの嫌なの?」

は、何こいつ。始めからそう言ってんじゃん。
俺は駿喜のヘラヘラとした態度にむかついて、ヒコたんの後ろに隠れる。なんならこいつと一緒について行かせないように、背中を引っ張る。消えろ、このゆるゆるくそちんこ野郎。

俺が駿喜を敵対する様子に、ヒコたんは少し苦笑したようにこちらを見た。
ヒコたんと目が合い話を聞いてくれるのかと思いきや、ヒコたんはゆっくり俺が服の裾を掴む手を外した。

「裕里、駿喜は久しぶりなんだ。それにラーメン食べて遊べばいいだろう?裕里だけを優先するのはできないよ」

でた、ヒコたんの平等主義。
俺だって昨日構えてもらってないのに、駿喜の方が少ないからってそっちを優先するんだ。ヒコたんは絶対に誰かを特別視したり、差別するようなことはしない。その善意と道徳性の高さにいじめられっ子の俺は助けられた。
だからこそ、ヒコたんは俺にとっても優しいし、俺にとっても残酷だ。

それでも俺は譲れなかった。ヒコたんと誰かが仲良くしてるのを間近で見せつけられるのは何よりも耐えられなかったし、こんな奴の愛想付き合いをしなくちゃいけないのも嫌だ。

「ヒコたん、でもやっぱり嫌だよ…。ねえ、俺と一緒にいてよ…」

思わず泣きそうになり、鼻と眼球の奥がツンとする。若干涙目かもしれない。それでもヒコたんには行って欲しくないし、こいつと一緒にいたくない。

駿喜が呆れたようにため息をついたのが聞こえた。
悔しい。こういう方法でしかヒコたんを引き留められないことが。馬鹿にしてるような、卑下にこちらを見てくるような駿喜の態度にもムカムカと腹奥が苦しくなる。
お願いだよ、ヒコたん。俺にはヒコたんだけなの…。


ヒコたんはもう一度静かにジッとこちらを見つめていたが、俺の手を離し、駿喜の方へ振り返った。


「駿喜、先に下駄箱まで行ってくれ。すぐ行く」
「おう」

駿喜がそそくさとこの場から去っていく。その様子に俺はヒコたんへ絶望した。

え、ヒコたん、嘘でしょ?俺を裏切るの?俺のことなんかどうでもいいの?もう、ヒコたんのことなんか嫌いだ…。

思わず、唇を強く噛みしめる。涙がこぼれ落ちそうになって下を俯いたとき、そっとヒコたんの手が俺のズボンに触れた。
ヒコたんの手がするりと、後ろポケットに触れる。少しの重みと、チャリ…という金属が擦れる音が聞こえた。
何をしたのかとふいに顔をあげようとする前に、ヒコたんの体がこちらへ近づく。


「…鍵、渡しとくから先に部屋に入ってて。俺のベッドとか使っていいから」
「え、?」

思わず口から驚きの声が漏れれば、「さっさと食べて帰ってくる。道、わかるよな?」とヒコたんの手が俺の頭を撫でた。

「いい子に、できるよな?」


理解するまでに数秒。
やっと意味がわかった時、ヒコたんを見つめる俺は身体中全身の熱が高まり、あっけなく爆発してとろけるのを感じた。


やっぱりヒコたん大好き……。




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