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しおりを挟む「美郷、お前…最近変わったな」
「え?何が?」
紘は明るくこっちへ手を振ってきたが、次第に近づいてくると顔の表情が強張っていき、怖い顔つきになってきた。
何か俺に変なことでもあるのだろうか?
じっと紘の顔を見つめるが、紘は眉を八の字に曲げたままだった。
「お前、あのお兄さんとまだ関わってるの?」
「お兄さん……?ああ、雪里さんのことか。そうだけど、それがどうかしたの?」
「……お前、その…、その人と付き合うの、これ以上やめにしてた方がいいんじゃね…?」
紘は突然何を言い出したんだろう。
俺は、金の柱がたった腕時計をカチリと嵌め直した。
「なんで?」
「……、お前さ…気づいてないの?その服とか、その時計どこで買った…?また買ってもらったのか?」
「そうだよ。なにか、おかしいかな…。ちゃんとブランド専門店の店で見てもらったから、偽物ではないと思うんだけど…」
そう言いながら、カチカチともう一度腕時計を外した。
「紘、確認する?」
「いや、いい…。お前、そのお兄さんに変なこととかされてないよな?変なバイトさせられたりとか…」
「ん?いや、俺バイトしてないよ!雪里さんの家でご飯作ったり家事やったりしてるだけ!雪里さんには変なことされてないされてない~」
紘は何か俺がやばい仕事をしてるとでも勘違いしてるんだろう。まあ、確かに今度海外に飛ぶから記念にと洋服やアクセサリーはたくさん買ってもらった。
雪里さんの仕事の関係でついて行くから、特に時計は大事になってくるだろうって上質なものを買ってもらった。
紘は俺の答えに、それでもまだ眉の皺を取らなかった。
紘、なんでそんな怖い顔をするんだろう。
雪里さんはきちんとした社長さんでもあるし、立派な大人の人なのに。
「紘、そういえば雪里さんのことで言い忘れてたことがあるんだ。俺、雪里さんと一緒に海外に行くことになったんだ」
「…は?待てよ、どういうことだよ、それ。大学はどうすんだよ」
「大学は休学。留学っていう形になるから就職にも影響ないだろうって」
「お前、学費やばいんじゃなかったのかよ。留学の費用は?」
「それなら大丈夫。休学するから、いろいろ補償下ろして、損にならない形が取れるらしいし、留学というか雪里さんの会社のインターン生って形でいくから会社が費用全部出してくれるって。だからお金の面も就活の件も大丈夫だよ」
「………」
俺の話に、紘は口が開いた状態になっているのにも気づかないまま、固まってしまった。
「紘、口開いてるよ」
「お前……。それ、何か騙されてないか?そんな話、本当にあると思ってんのか…??」
「え?雪里さんが俺を騙す?そんなのは絶対ないよ。今度きちんと会社の契約も結ぶし、あんな優しい人が騙すわけないじゃん」
「美郷…」
紘は変な顔をしている。紘は俺のことが変だと思っているからだろう。
かつて、親にも進路のことについて話したらこのように変な顔をされた。彼らには俺が変に見えているからなのだ。でも、俺からしたら『変な』顔をしているのはお前たちだけど。
「美郷、お前、その人がお前のこと裏切ったらどうするんだよ…」
「雪里さんが?何度も言わせないでよ。俺ら1年半も一緒に暮らしてきたんだよ?裏切るわけないじゃん」
「それでもさぁ、お前……、その人が死んだらどうするんだよ」
「…ちょっと、そんな不謹慎なこと言うのやめて。紘でもそれは失礼すぎる」
激しく叱咤する声が出た。
紘は「それはごめん」と謝ったが、相変わらず俺を変なものを見るような目はやめない。
何?なんなんだ?俺の何がおかしいんだ?雪里さんと一緒にいることが何がおかしいんだよ。
「紘、俺やっぱり帰るよ。多分1年ぐらい東南アジアの方に行くと思う。今回はそれを伝えたかっただけなんだ」
「お前、本当に行く気なのかよ」
「もうチケットは取ってあるし、今月末にはマンションも引き払う予定だよ。大丈夫、俺ちゃんと紘に手紙送るから」
「美郷、ちがう、美郷…」
多分、紘には俺の目指しているものがわからないんだ。
『丁寧な暮らし』。生活の質が高くなればなるほど、そんなの実現できないなんて、リアリズムな紘は思っているんだろう。でも、俺は雪里さんのおかげでそれを目指せるようになった。質の高い暮らしが可能なんだ、俺には。
(どうせこの授業の単位も休学して意味がなくなる)
俺は授業も受けずに、教室から出て行った。
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