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本編

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あの出来事から数日が経った。


あのあと放送室へ向かうと、旗中は思った通り放送室にいた。USBを返して転入生が生徒会に連れて行かれたことを伝えれば、「特大のネタ逃したァァア!俺の2000円!」と旗中は荒れるに荒れた。2000円の報酬が無くなってしまったことが痛手だったのか、旗中は完全に不貞腐れてしまった。そしてその怒りを抑えるため、何故か旗中の愚痴を一日中俺が付き合わされることになるのだった。完全なとばっちりである。



それから、次の日。

「…我知健也です」

金髪頭の健也はムスッとした顔で教壇に立っていた。健也の頬にはガーゼが貼られていて、昨日にはなかった傷…ということから、また健也が生徒会と一揉めしたことが伺えた。

とりあえず本当に転入生だった健也はうちのクラスの所属となった。健也がまた生徒会に喧嘩をふっかけにいく、または、生徒会の方から彼に絡んでくるかもしれない…と不安に思っていたが、この数日間そんなことは起きず。
健也は今も俺の隣の席に座って、ぼうっと授業を受けていた。

授業終了の合図がなった。
教材を片付けていると、隣から声がかかる。
健也だ。

「相馬、昼食いに行こうぜ」
「あ、健也。実は変崎と…」
「相馬くん!俺は大丈夫!是非、我知くんとお昼食べて来てくれたまえ!」
「あ、変崎…でも今日こそはって…」
「ううん!俺用事思い出しちゃったからさァッ!?我知くんとランチタイム楽しんできて!卍(まんじ)!」
「ん?…ま、よくわかんねえけど。相馬、俺と食べるよな?」
「あ、うん…。そうだな」

変崎の様子に俺は不安に思いながらも健也と共に立ち上がると、サッとクラスメイト達が退く。まるで王様の歩く道を作るかのようだ。
健也は気にした様子もなくパッカリ開いた道へ歩いていくが、俺はこの事態に少し困っていた。

変崎を始めとしたクラスメイト達が健也を酷く怖がっている。健也の派手な見た目と機嫌の悪そうな態度が、不良に耐性のないクラスメイト達を怖がらせているようだ。健也も健也でそもそもクラスメイトと仲良くする気はないらしく、何か質問するにも身近にいる俺にしか声をかけてこない。だからこそ余計クラスメイト達は健也と疎遠になっていき、健也へ恐怖感を募らせているのだ。

(俺はまだ昔の健也を知っているからそこまで怖くはないが…)

友人の少ない俺にとって、わりかし会話ができる相手であった変崎にまで避けられてしまうこの事態に、俺はなんとも言い難い気持ちになるのであった。





○○○○○○○

健也と屋上にきた。
健也はここの屋上を気に入ったらしく、昼は必ずここへやってくる。
寮生活の俺たちは自炊をするわけでもないため、惣菜パンを貪っていた。ああ、焼鮭が恋しいな…。

「そういや相馬あれ見た?最近流行ってるゲームの実況動画」
「え?なに?あんまり俺動画とか見ない」
「相馬、ゆーちゅぶとか見てねえの?なにテレビっ子とか?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「そうなのか。最近さ、俺こういう育成ゲームとか好きなんだよ」

そう言ってスマホの画面を健也は見せてくる。ゲームの動画を再生していたみたいで、人間やら動物やらコロコロと動き回って、掘ったり何か作ったりしている。

「健也、こういうの好きなんだね」
「え?なに?俺どういうの好きと思われてんの?」

深い意味はなく言ったのだが、健也はジッと大きな瞳がこちらを見つめてくる。…正直、FPSとか人を殺すゲームが好きそう…とおもってしまった。

「別に、深い意味はないよ」
「う~んそっか、たしかにその無表情な感じだとなんとも思ってなさそうだな」

そう言った健也は画面に視線を戻した。
たまに「ほら見ろよ!ハチに追いかけられてる!ギャハハッ」と画面に指をさして、俺へ楽しそうに見せてくる。健也の笑いのツボについては正直よくわからなかった。

「なぁ、この家すごくね?………てかさ、相馬」
「ん?」

隣に座って一緒に健也のスマホの画面を見ていると、顔のすぐ横で健也が不機嫌そうに呟いた。

「ずっと思ってたんだけどさ…お前の携帯なんでこんなうるさいの?毎回通知音すごくね?そんなにメッセージくんの?」

どうやら、動画を見ているのに通知音が煩くて気に触ってしまったようだ。電源を付けているため、昼休みに暇した凌駕からのメッセージがたくさん届いているんだろう。
俺はポケットからスマホを取り出し、画面を開いた。

「うるさくてごめん。電源切るよ」
「いや、わざわざ電源切らなくてもいいけど……。って、は?なにこの量?誰からきてんの?」
「あ、これ?兄ちゃんから」
「は?」

俺の画面を一緒に覗き込んでいた健也がそれを聞いてとんでもなく機嫌の悪い声を出した。久々にこんな顔見た気がする。凌駕のことは本当に嫌いみたいだ。健也みたいなやつは本当珍しい。兄のことを好きと言っている人間しか見たことがなかったのに。

「お前、こんなにうるさかったら凌駕のことブロックしねえの?」
「ブロック?」
「何ていうの、メッセージ受け取らないようにしたり、メッセージ送っても届かないように設定できるやつ。よく聞くじゃん?別れた元カノと縁切るためにブロックしたみたいなさ」
「縁を切る…」

一概にも、凌駕は血の繋がった兄である。凌駕のことは煩いとはよく思うが、縁を切りたいと思っているほどでもないし、そういう決心は正直自分にはつかなかった。

「ブロックはちょっと…一応兄だし」
「そうなの?相馬まじめだな。俺の友達、親とか姉ちゃんしつこいからってブロックしてたけどな」
「さ、殺伐としてるな…」
「そうか?みんな家族に一回ぐらいブロックするだろ」

平然と言いのける健也にカルチャーショックのようなものを受ける。
うちの家庭がおかしいんだろうか…。

ブロックは一応解除することも出来るらしくて、俺は内心ホッとした。

「まあ、ブロックはしなくてもさ、そんなにうるさかったら通知オフにしろよ。通知表示させないようにできるぞ」
「そんなことできるの…?」
「ああ、できるできる。しかも特定の相手だけの通知もオフにできるし」

なんと、そんな便利な機能があったのか。健也にスマホを渡し、その通知オフというものをやってもらう。新しくまた凌駕からのトークの通知が増えたみたいだが、確かに通知音は鳴らなかった。

「健也すごいな…ありがとう」
「いやいや、感謝されるほどでもないって。…あ、俺の連絡先も追加していいか?そうした方が離れてても連絡取れるだろ?」
「あ、うん、是非追加してくれ」

健也は慣れた手つきで、俺のラインに健也を友達追加すると、スマホを返してくれた。

「ほらよ。連絡するからちゃんと返事しろよ」
「ああ、わかった」

スマホを受け取ると、健也は嬉しそうにわしゃわしゃと俺の頭を撫でた。さっきの機嫌の悪さはもう無くなったようだ。

その後も健也オススメの動画やらを見せてもらい、昼飯を終えて教室に戻った。
 




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