僕にとっての運命と番

COCOmi

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許されない現実

あの日見た(side 清次郎)

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「せいちゃんっ!」
まあるい幼子のサラサラとした柔らかい茶髪が揺れて、僕に突進してきた。
その軽い体をギュッと包み込んだ。





祖父は言い放つ。
「清次郎。智の次はお前が継げ」
初めて口にされた言葉だった。周りからは一番上の兄であった父が社長となって会社を継いで、その息子に生まれた僕がその時期社長と言われてきた。
祖父は父の継ぐ前の社長であり、今は一線を遠のいたが会長として誇り高く会社をまもっていた。

祖父の言葉は少ない。それ故に一つ一つが重みがあった。言葉が少ないから祖父は何を考えているのかわからなかった。顔の表情も重く、何にも変化はしなかった。
僕がどんなに言葉を発しても、生徒会長になったり、いい功績を残しても、祖父の顔は動かなかった。




僕は何を気にして生きているんだろうか…。

何のために努めているんだろう。
当たり前のように会社を継いで、僕はどうしたんだ。

ただ与えられた道を優秀に歩いていくのが僕の人生なのか。

そう自問したが、答えは出なかった。





僕が16の時だ。
8つ下のいとこであるまことが夏休みだと祖父の家に訪ねにきていた。

まことの母はΩであり、僕が生まれる前に自分の実力で祖父を認めさせ、叔父と結婚したという。
僕はαで父母もα。一方、叔母はΩで叔父もβというまことの家は僕たちと比べてとても弱々しかったが、いつも幸せそうだった。
父母も彼らのことを気に入っていて、当たり前のように家族ぐるみの付き合いを毎年している。仲のいい両親たちに構ってもらえないまことはいつしか僕にひっつき虫になっていた。


「せいちゃん!せいちゃん」
抱きしめたまことは清次郎を見てキャッキャとわらう。

まことは僕を呼ぶのが好きらしい。

この時よりも小さかったまことに、清次郎と呼ばせるのは難しいと思い「せいちゃん」と呼べばいいと提案したのを思い出した。

学校では全員から清次郎さんと言われている中、せいちゃんなんて可愛らしい呼び方をされていると知ったら皆はどう思うんだろう。
なぜその呼び方を教えたのか自分でも意味がわからなくてよく笑ってしまう。


ふふと思い出し笑いをしていると、まことは何を笑っているんだろう…とほっぺたをまあるく落とした。

「あ、まこと、いらっしゃい。久しぶりだね。大きくなった?」
「!!うん!大きくなった!!」
僕が話しかけると、まことはキラキラと目を輝かせる。


まことはとても純粋で清らかな子だ。いくつになっても彼は変わらなく、どんな僕も無条件に受け入れてくれた。体がいくら大きくなっていってもそれは変わらないと思っていた。


柔らかい髪をゆっくりと撫で上げる。まことはそれに顔を少し真っ赤にして恥ずかしがりながらも目をキュッと瞑って嬉しそうに笑った。その様子がたまらなく愛しくて、僕はまたついついまことを撫で上げた。




突然、ガサッと音がした。
まことの部屋から見える庭に祖父が立っていた。
鉄のような固い皮。何十年も生きてきた重みが全身から溢れ出ている。

僕は緊張で体が動かなくなった。



「お、おじいさまっ!」
まことは祖父の存在に気づき、パッと清次郎から手を離してそちらの方へ駆け出してしまう。


(行かないで!まことっ!!)


清次郎は手を伸ばしたが、その小さな幼子はするりと手からこぼれ落ちた。



まことが祖父の方へ行こうとしたとき、祖父しか見ていなかったまことは段差に気づかず廊下からそのまま地面に転んでしまう。

それに気づいて慌てて走ったが、僕は間に合わず、まことが落ちていく様子だけが見えた。

危ない!!そう思ったときだった。



まことの落ちた先には祖父の腕があった。
足は擦りむけてしまったが頭は祖父によって守られ、大事には至らなかった。しかし、まことは痛みに弱く、こけてしまうとよく清次郎の腕の中で泣いていた。ついに祖父の腕の中で泣き出すのではないかと不安になったとき。


顔を上げたまことは痛みで少し涙を浮かべていたが、それをぐっと我慢してポケットの中から何かを出した。

「お、おじいさま!また、遊んでください!」
祖父にそう言いながら小さな囲碁の黒い石をまことは差し出した。





まことは変わらない。勝手にそう思っていた。

いつもこちらを追いかけてばかりいたまことがいつの間にか手を繋がなくとも1人で歩けるようになっていたと気付かされる。

まことは1人で歩いていける。それがとてつもなく眩しく見えた。


祖父は何も言わなかったが、まことから碁石を受け取ると小さく笑った。





そうか、守りたいものはここにあったのかもしれない。











まことがΩとわかったあの日。僕は思った。
彼の人生はこれから辛いものになってしまう、と。



僕はただ彼が幸せになってほしい。

彼が僕に与えたように、勇気と守りたい幸せを僕も彼に与えたい。

清次郎はそう願った。





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