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許されない現実
許されない現実7
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僕はせいちゃんの部屋へ訪れた。
せいちゃんの部屋と僕の部屋は少し離れたところにあり、昔はそこまでの道のりが楽しくて楽しくて仕方なかった。
「せいちゃん、まことです」
どうぞと返事が返ってくる。襖を開けて中に入った。
せいちゃんは座布団の上で正座をしてノートパソコン開きキーボードを叩いていた。長らかな指が音を立ててキーを押す手をやめた。
「まこと、体調は大丈夫そう?」
かけていたメガネをゆっくりと外して、せいちゃんはこちらを見た。
「うん。まだちょっと体重いけど…。
せいちゃんメガネしてたの」
清次郎はメガネをシャツの胸ポケットに収めると、トントンと優しく隣の座布団を叩いた。
まことはそれに促されるようにその座布団に座った。
「うん、パソコンを使うときはね。でも度は入ってなくてブルーカットのものなんだ」
ふふっと清次郎は笑う。
(目が悪くなったわけじゃなかったんだ…よかった…)
最近の清次郎は幼い時よりも随分と遠くにいて、まことが年を重ねるごとに現実を思い知らされてもっともっと遠い存在へとなっていた。
ぽつり、とまことは呟く。
「せいちゃんに運命の番とか、婚約者がいるなんて知らなかった…」
「伝えていなかったよね、ごめんねまこと。
最近まで隠していたんだ。真紀子さんが行方不明になるまでは」
せいちゃんの運命の番は真紀子と言う名前なののか……。
そう思った。
じっと見つめるまことに清次郎はゆっくり話を始めた。
「真紀子さんと出会ったのは、一年半前のパーティ。すごい社長や有名人なんかくるパーティでね。何事も経験だと父に連れられ、参加したんだ。そこのパーティで苦しそうに蹲っている女の子がいて声をかけた。それが真紀子さんなんだ」
目と目が合った瞬間、体が震えて僕らは運命の番だとわかった。
その言葉がすんなりとまことに落とし込まれた。
「それからは急に体がおかしくなって熱くなりだして、急いで別室に2人を連れてもらった。でも薬なんか全然効かなくて。たまたまあのパーティに医者がいたから良かったけど、もしあの場じゃなけらば僕たちは番になっていたと思う」
せいちゃんは番わなかった。
自分はセックスもしてしまったし、番にもなりかけた。綺麗なせいちゃんに自分がまた汚れて惨めに見えた。
「それから、落ち着いた真紀子さんと話したんだ。真紀子さんはとてもお淑やかで、僕は初めてあったのにとても胸がうるさくて締め付けられた。運命の番ってほんとにどうしようもなく惹きつけられてしまうんだなって。
でも、真紀子さんには恋人がいた。叶わない恋だと番は立てずにいたらしい。泣いていたよ、好きな人がいるのにどうしてもあなたに惹かれるって。僕はその気持ちがなんだかわかるような気がして、別れを告げられたら僕と結婚しましょうって伝えた。
…結局それが真紀子さんもおじいさまも家族も、そしてまことも巻き込んでしまった」
せいちゃんは苦しそうに言葉を詰まらせた。
せいちゃんにとっては大事な大事な「運命」だったのに、結局全てを手放す結果になった。
せいちゃんはもう、残された道はなかったように見えた。
運命の番が死んだ今。清次郎は何を思えばいいのかわからない、そう体が心が訴えていた。
「まこと、君には僕のようになってほしくない。運命の番がいるなら早くここから立ち去った方がいい。一度手放せば何も掴めなくなってしまう。君には幸せになってほしいんだ」
ずっとそう思ってきた。
せいちゃんはそう言った。
「じゃあせいちゃんは?」
僕はこの壊れてしまいそうなαにそっと触れた。
せいちゃんの部屋と僕の部屋は少し離れたところにあり、昔はそこまでの道のりが楽しくて楽しくて仕方なかった。
「せいちゃん、まことです」
どうぞと返事が返ってくる。襖を開けて中に入った。
せいちゃんは座布団の上で正座をしてノートパソコン開きキーボードを叩いていた。長らかな指が音を立ててキーを押す手をやめた。
「まこと、体調は大丈夫そう?」
かけていたメガネをゆっくりと外して、せいちゃんはこちらを見た。
「うん。まだちょっと体重いけど…。
せいちゃんメガネしてたの」
清次郎はメガネをシャツの胸ポケットに収めると、トントンと優しく隣の座布団を叩いた。
まことはそれに促されるようにその座布団に座った。
「うん、パソコンを使うときはね。でも度は入ってなくてブルーカットのものなんだ」
ふふっと清次郎は笑う。
(目が悪くなったわけじゃなかったんだ…よかった…)
最近の清次郎は幼い時よりも随分と遠くにいて、まことが年を重ねるごとに現実を思い知らされてもっともっと遠い存在へとなっていた。
ぽつり、とまことは呟く。
「せいちゃんに運命の番とか、婚約者がいるなんて知らなかった…」
「伝えていなかったよね、ごめんねまこと。
最近まで隠していたんだ。真紀子さんが行方不明になるまでは」
せいちゃんの運命の番は真紀子と言う名前なののか……。
そう思った。
じっと見つめるまことに清次郎はゆっくり話を始めた。
「真紀子さんと出会ったのは、一年半前のパーティ。すごい社長や有名人なんかくるパーティでね。何事も経験だと父に連れられ、参加したんだ。そこのパーティで苦しそうに蹲っている女の子がいて声をかけた。それが真紀子さんなんだ」
目と目が合った瞬間、体が震えて僕らは運命の番だとわかった。
その言葉がすんなりとまことに落とし込まれた。
「それからは急に体がおかしくなって熱くなりだして、急いで別室に2人を連れてもらった。でも薬なんか全然効かなくて。たまたまあのパーティに医者がいたから良かったけど、もしあの場じゃなけらば僕たちは番になっていたと思う」
せいちゃんは番わなかった。
自分はセックスもしてしまったし、番にもなりかけた。綺麗なせいちゃんに自分がまた汚れて惨めに見えた。
「それから、落ち着いた真紀子さんと話したんだ。真紀子さんはとてもお淑やかで、僕は初めてあったのにとても胸がうるさくて締め付けられた。運命の番ってほんとにどうしようもなく惹きつけられてしまうんだなって。
でも、真紀子さんには恋人がいた。叶わない恋だと番は立てずにいたらしい。泣いていたよ、好きな人がいるのにどうしてもあなたに惹かれるって。僕はその気持ちがなんだかわかるような気がして、別れを告げられたら僕と結婚しましょうって伝えた。
…結局それが真紀子さんもおじいさまも家族も、そしてまことも巻き込んでしまった」
せいちゃんは苦しそうに言葉を詰まらせた。
せいちゃんにとっては大事な大事な「運命」だったのに、結局全てを手放す結果になった。
せいちゃんはもう、残された道はなかったように見えた。
運命の番が死んだ今。清次郎は何を思えばいいのかわからない、そう体が心が訴えていた。
「まこと、君には僕のようになってほしくない。運命の番がいるなら早くここから立ち去った方がいい。一度手放せば何も掴めなくなってしまう。君には幸せになってほしいんだ」
ずっとそう思ってきた。
せいちゃんはそう言った。
「じゃあせいちゃんは?」
僕はこの壊れてしまいそうなαにそっと触れた。
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