僕にとっての運命と番

COCOmi

文字の大きさ
上 下
23 / 31
許されない現実

許されない現実7

しおりを挟む
僕はせいちゃんの部屋へ訪れた。

せいちゃんの部屋と僕の部屋は少し離れたところにあり、昔はそこまでの道のりが楽しくて楽しくて仕方なかった。

「せいちゃん、まことです」
どうぞと返事が返ってくる。襖を開けて中に入った。

せいちゃんは座布団の上で正座をしてノートパソコン開きキーボードを叩いていた。長らかな指が音を立ててキーを押す手をやめた。

「まこと、体調は大丈夫そう?」
かけていたメガネをゆっくりと外して、せいちゃんはこちらを見た。
「うん。まだちょっと体重いけど…。
せいちゃんメガネしてたの」

清次郎はメガネをシャツの胸ポケットに収めると、トントンと優しく隣の座布団を叩いた。
まことはそれに促されるようにその座布団に座った。
「うん、パソコンを使うときはね。でも度は入ってなくてブルーカットのものなんだ」
ふふっと清次郎は笑う。

(目が悪くなったわけじゃなかったんだ…よかった…)
最近の清次郎は幼い時よりも随分と遠くにいて、まことが年を重ねるごとに現実を思い知らされてもっともっと遠い存在へとなっていた。

ぽつり、とまことは呟く。

「せいちゃんに運命の番とか、婚約者がいるなんて知らなかった…」
「伝えていなかったよね、ごめんねまこと。
最近まで隠していたんだ。真紀子さんが行方不明になるまでは」

せいちゃんの運命の番は真紀子と言う名前なののか……。
そう思った。
じっと見つめるまことに清次郎はゆっくり話を始めた。

「真紀子さんと出会ったのは、一年半前のパーティ。すごい社長や有名人なんかくるパーティでね。何事も経験だと父に連れられ、参加したんだ。そこのパーティで苦しそうに蹲っている女の子がいて声をかけた。それが真紀子さんなんだ」


目と目が合った瞬間、体が震えて僕らは運命の番だとわかった。

その言葉がすんなりとまことに落とし込まれた。


「それからは急に体がおかしくなって熱くなりだして、急いで別室に2人を連れてもらった。でも薬なんか全然効かなくて。たまたまあのパーティに医者がいたから良かったけど、もしあの場じゃなけらば僕たちは番になっていたと思う」

せいちゃんは番わなかった。

自分はセックスもしてしまったし、番にもなりかけた。綺麗なせいちゃんに自分がまた汚れて惨めに見えた。




「それから、落ち着いた真紀子さんと話したんだ。真紀子さんはとてもお淑やかで、僕は初めてあったのにとても胸がうるさくて締め付けられた。運命の番ってほんとにどうしようもなく惹きつけられてしまうんだなって。
でも、真紀子さんには恋人がいた。叶わない恋だと番は立てずにいたらしい。泣いていたよ、好きな人がいるのにどうしてもあなたに惹かれるって。僕はその気持ちがなんだかわかるような気がして、別れを告げられたら僕と結婚しましょうって伝えた。
…結局それが真紀子さんもおじいさまも家族も、そしてまことも巻き込んでしまった」

せいちゃんは苦しそうに言葉を詰まらせた。
せいちゃんにとっては大事な大事な「運命」だったのに、結局全てを手放す結果になった。
せいちゃんはもう、残された道はなかったように見えた。

運命の番が死んだ今。清次郎は何を思えばいいのかわからない、そう体が心が訴えていた。



「まこと、君には僕のようになってほしくない。運命の番がいるなら早くここから立ち去った方がいい。一度手放せば何も掴めなくなってしまう。君には幸せになってほしいんだ」

ずっとそう思ってきた。

せいちゃんはそう言った。





「じゃあせいちゃんは?」

僕はこの壊れてしまいそうなαにそっと触れた。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

オメガバース 悲しい運命なら僕はいらない

潮 雨花
BL
魂の番に捨てられたオメガの氷見華月は、魂の番と死別した幼馴染でアルファの如月帝一と共に暮らしている。 いずれはこの人の番になるのだろう……華月はそう思っていた。 そんなある日、帝一の弟であり華月を捨てたアルファ・如月皇司の婚約が知らされる。 一度は想い合っていた皇司の婚約に、華月は――。 たとえ想い合っていても、魂の番であったとしても、それは悲しい運命の始まりかもしれない。 アルファで茶道の家元の次期当主と、オメガで華道の家元で蔑まれてきた青年の、切ないブルジョア・ラブ・ストーリー

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版)

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

処理中です...