「アルファとは関わるな」

COCOmi

文字の大きさ
上 下
10 / 11

10

しおりを挟む
空は急いで家に駆け込むと、自分の部屋へ入り、鍵をかけた。
中学生のとき、プライベートがあるからと部屋の鍵をつけてもらったことが今初めて良かったと思えた。
はぁはぁと呼吸をしながら、しゃがみ込む。息がままならなくてそんなに走ったのかと自分でも驚いた。

息を整えていくうちに、空は疲労困憊の体をベッドに預けた。スプリングが跳ねて体少し上下に弾んだ。
スマホを取り出してとりあえず充電させた。今日一日、誰とも話さなかった空は携帯ばかりいじってていて充電が少なくなっていた。
制服を着たままベッドの上で目を閉じる。ウトウトしかけていたとき、ガチャリと鍵のあく音がした。
急いで空は飛び上がったが、どうやら部屋の鍵ではなく玄関のドアの鍵が開いたようだった。おそらく蒼が家に着いたのだろう。ガチャガチャと下で物音がしている。空は毛布をかぶって蒼の声を聞かないようにした。
しかし、階段の響く音が大きくて毛布を深くかぶってもよく聞こえてしまう。ダダンと連なる足音は蒼だけじゃない。誰かが蒼と一緒にいるのだ。蒼の部屋は空の手前側でガチャリと蒼の部屋が開く音がした。
『おじゃましまーす』
『どうぞ、入って』
こういう時、空は蒼の部屋の壁と近い位置にベッドがあったことを後悔した。嫌なほど蒼の部屋の音が聞こえる。
やはり誰か家にあげたのだ。靴があるから、蒼は空がいることは明らかにわかっているだろう。

ほんとに蒼は何を考えているのか。
空は怒りたくなった。
しかし、空がそんな風に怒ってるのも知らず、会話は進む。
『初めて蒼くんの家きたー』
『そうだよね、汚くてごめんね』
『大丈夫!蒼くんの部屋ってこんな感じなんだね』
声は少し高かったが、明らかに男だった。親そうにしているということはクラスメイトなのかも知れない。自然と聞き耳を立てていたことに空はハッとして壁に背を向けた。
『ねえ、俺の部屋に誘ったってことは、わかるよね?』
『うん、わかってるよ。蒼くんに相手してもらえるなんて嬉しいなぁ』
何か不穏な雰囲気を空は感じた。ドサリという音が聞こえた気がした。
『俺さ、オナニーしてるの見るの好きなんだよね』
『えっ、蒼くん思ったより変態じゃん~。でもいいよ、僕そういうとこも好き』
そう会話が途切れると、物音しか聞こえなくなった。
空は心臓がドキドキとして目が瞑れない。
嫌な予感が背中を滑る。そして、それは見事に当たった。
『あっ、あっ』
蒼とは違う男の声が聞こえる。空は思わず耳を塞いだ。隣の部屋で行われている情事に泣きたくなった。
男の声は大きくなっていく。昨日の女とは違うが似たような甘い香りが香った。

ベータでもアルファでもない、蒼が部屋に連れ込んでいたのはオメガだった。
空は頭がガンガンとなった。蒼も裏切るんだ、俺を。オメガの方がいいんだ、俺よりも。
オメガの嬌声がうるさくて気持ち悪くてイライラして、耐えられなかった。蒼を誘うようにフェロモンを色濃く出してきているのが、空にもわかる。だからこそ、腹が立って、また蒼のことが嫌いになりそうだった。



ガタン!!

充電ケーブルに繋がったスマホがベッドの上から落ちてしまった。空は後ろの部屋を気にしすぎて気付かなかったのだ。
オメガの嬌声が止み、ガタンとあちらでも物音がした。
『えっ、なに』
『なんかもういいよ、帰って。隣の部屋に兄ちゃんいるんだ』
『うそでしょ?!』
オメガの叫ぶ音が聞こえ、ドタドタと部屋をかけていく音が聞こえた。そのまま、下へ物音はしていき、玄関が開いて閉じた音がした。







静寂が訪れる。

すると、それをかき割るようにスマホの着信音が鳴った。
空のスマホは床でチカチカ光りながら、音を鳴らしている。ゆっくり、スマホに手を伸ばせば、『蒼』と表示された通話画面だった。


「もし、も、し…」

『兄ちゃん、俺の部屋に来てよ。
……今の全部聞いてたんだろ?』


空はゆっくりと耳から携帯を離した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤い髪の騎士と黒い魔法使い

カム
BL
兄は弟の手を取り、眠っている弟の手の甲にそっと自分の唇を押しあてた。騎士は主と決めた相手に絶対の忠誠を誓う。 「俺が守ってやるからな」 兄は弟を守るために、弟は兄の役に立つためにそれぞれ騎士と魔法使いを目指す。だけど弟には失われた記憶があった。 血のつながっていない兄と弟の話です。 ストーリー重視で流血表現あり。 話の中にある騎士、魔法使い、獏などの動物も完全にオリジナルの設定になってます。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

今世ではあなたと結婚なんてお断りです!

水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。 正確には、夫とその愛人である私の親友に。 夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。 もう二度とあんな目に遭いたくない。 今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。 あなたの人生なんて知ったことではないけれど、 破滅するまで見守ってさしあげますわ!

一回ヤッただけで番ヅラかよ

いちる
BL
俺、宮城たすくはベータだと思って暮らしていたらオメガだった平凡な高校生。入学したバース性特化の高校の入学式で容姿端麗・才色兼備のアルファ桐野智深(きりのさとみ)にロックオンされる。運命だ、番になろうって言われても、おまえは『運命』だから俺が好きなの?といまいち踏み込めない。そんなとき俺に雰囲気の似た転校生がやってくる。桐野の知り合いっぽくて項には番が居る印の噛み跡があった。え?まさか? R18指定ですが本編には直接の描写はありません。 ムーンライトノベルズ、ピクシブにも投稿しています。

今ならもれなくもう一本ついてきます!!

丸井まー(旧:まー)
BL
ド淫乱淫魔のアーネは、男狩りが趣味である。ある日、魔王城の訓練場で美味しそうな男達を観察していると、警備隊隊長のリザードマン・ヴィッレに捕まった。訓練場から放り出されたアーネは、ヴィッレを喰おうと決意する。 リザードマン✕淫魔。 ※♡喘ぎ、イラマチオ、嘔吐、鼻から精液、男性妊娠、産卵、お漏らし、潮吹き、ヘミペニス、前立腺責め、結腸責め、フィスト、ピアッシング注意。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

処理中です...