6 / 11
6
しおりを挟む「空、首どうしたの」
クラスメイトで3人目のアルファが話かけてきた。昨日のアルファは髪が少し長くて女ウケの良い甘い顔をしていたが、今日1番に話しかけてきたアルファは派手な顔ではない穏和な雰囲気の物静かな男だった。
「いや、なにも」
「昨日体調悪くて早退したんでしょ?病気?」
「本当に何でもないから…」
肩にアルファの手が伸びてきた。急いで肩をずらして避ける。あまり表情が表に出ない彼が少し傷ついた顔をした。
その表情に空はずきりと心臓が痛み、背を向けて気づかないフリをした。
蒼からキツく言われてある。アルファには近寄ってはダメだと。
一昨日も言われた。しかし、その意味は一昨日の比ではないほど重たく深い。
気づいてしまったのだ。空はベータでありながら、アルファを惹き寄せやすく、アルファに惹き寄せられやすく、そして支配されやすいと。
蒼もきっと知ってしまっただろう。俺がアルファの圧を感じると、それに抗えない体質であることに。
気持ち良いと思ってた和正の性行為も流されたのも全ては和正のもつアルファのせい。アルファの力が俺をそう支配させ俺をそう従わせた。蒼はそう俺に言った。蒼が言うから間違いない、と思う。
どうしてこんな風になるのか俺は自分の体なのにさっぱり理由がわからなかった。でも、言い訳などほっといて現実はそうだ。俺はこの人生ずっとアルファとしか関わらず、昨日蒼の下で跪いた。抗おうと思っても体は一切動かなかった。
大半のクラスメイトは穏やかに生徒たちと談笑するが俺には気にも留めない。ベータたちの横を通り過ぎて座席についた。先ほど話しかけてきたアルファは呆然と入り口に立ったままだ。俺は無心を保って準備をし始める。鞄を机の横にかけた時、ふと目があってしまった。和正が遠くから俺をじっと見つめていた。たった一瞬。しかし、その和正の目に俺は体の力が入らなくなってしまった。鞄がうまくかかっておらず手から離れて地面に落とす。
ドスン!と大きい音がした。俺はその音でハッと意識が戻り、和正の方は見ず鞄を慌てて地面から拾い上げようと椅子から立った。
鞄を掴んで机横のフックにかける。緊張してちょっと慌てた手つきになった。
鞄を落としても周りのクラスメイト達は話しかけてこない。また蒼の言ってることに信憑さが増したような気がした。
「おい」
そう悲観していたところで上から声が降ってきた。
「和正…」
座り込んでいる空に接触しないと誓っていた和正が立っていた。
「お前その包帯なに」
「別に…ちょっと怪我してるだけ」
首に咄嗟に手を当てる。布で巻かれているのに中を暴かれたくなくて手で守ってしまう。
和正は答えに満足していないのか黙ってこちらを見つめ続けている。和正に早くどっか行って欲しくて小声だけどちょっと声を荒げる。
「大丈夫だから、本当に」
「なにが」
和正はこちらをただ黙って見つめていた。和正はどちらかというと口数が多い方だ。クラスの中心でよく騒いでいる部類の方に属する。しかし、和正はただ静かにこちらを見つめていた。
空は視線を注ぎ続ける和正の方をしっかりと見た。そうしなければ退いてくれないかと思ったのだ。
和正と目があう。その途端さざなみが立ったように体が震え、心拍があがる。
和正の目が俺を縛って離さない。体は蒼の時のように意思を反して動かない。
「空、ちょっとこい」
命令にも近い言葉が飛んできて空の体は和正に従った。大人しく和正の後ろをついていく。ここに空の意思はあったかどうかはわからなかった。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
【完結】兄狂いなところ以外は完璧な僕の弟
ふくやまぴーす
BL
イケメンで優等生かつ兄に対してのみ変態ヤンデレ気質な弟 遥(はるか)×ノンケ弟思い兄 悠人(ゆうと)
あらすじ
中学生の頃から、突然仲良しの弟遥に避けられるようになった兄の悠人。
また昔の頃に戻りたくて、4年越しの再会に喜ぶ悠人だが、弟の様子が何やらおかしくて……というお話
※R18描写ありの話のタイトルには※マークがついてます。
序盤は無理矢理犯される系ですのでご注意を。
平凡腐男子なのに美形幼馴染に告白された
うた
BL
平凡受けが地雷な平凡腐男子が美形幼馴染に告白され、地雷と解釈違いに苦悩する話。
※作中で平凡受けが地雷だと散々書いていますが、作者本人は美形×平凡をこよなく愛しています。ご安心ください。
※pixivにも投稿しています
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる